ボリビア内政・外交(2020年8月)
令和2年8月20日
1 概況
8月3日以降,9月6日の総選挙実施を求める前政権MAS派の抗議活動により県間及び県都の幹線道路が約80か所封鎖され,12日までに吸入用酸素の不足により病院で新型コロナウイルス患者計40名が死亡した。11日,アタウチTSE裁判官とバルガス同裁判官は,総選挙日程を再考し,同日程を裏付ける法律を制定すべきであり,右法律がないことが抗議活動の要因であると主張した。12日に上院が,13日に下院が総選挙を10月18日に延期する修正法案を可決し,アニェス暫定大統領が同法案に署名し,公布した。15日,ボリビア労働総連(COB)の決定に従い,各MAS派団体が道路封鎖を解除する旨発表した。
2 内政
(1)選挙日程延期を巡る抗争
ア 8月3日,最高選挙裁判所(TSE)は,一回目の投票日を2020年10月18日,決選投票が行われる場合の投票日を11月29日とする選挙日程を発表した。イ 8月3日以降,9月6日の総選挙実施を求める前政権MAS派の抗議活動により県間及び県都の幹線道路が約80か所封鎖され,吸入用酸素,PCR検査キット,薬剤等の医療物資,ガソリン,天然ガス,食糧等の運搬が妨害された。
ウ 5日,国連は,抗議活動を実施する団体に対し,人道的支援のための医療物資の流通を妨げないよう呼びかけ,対話を求める声明を発出した。
エ 7日,ロンガリク外務大臣は,OASバーチャル定期会合において,国際社会と国際機関に対し,モラレス前大統領が扇動する暴力的抗議活動と道路封鎖行為を看過しないでほしい旨発言した。OASは,抗議活動をする団体の医療物資の流通を妨げる行為を非難する声明を発出した。
同日,チョケ下院議長は,選挙日程に関する協議のための会合を開催するようTSEに求めた。
オ 8日,TSE,国会代表者,ボリビア労働総連(COB)及び統一協定(Pacto de Unidad)が,ソットリ国連仲介人(Mrs.Susana Sottoli)同席の下,会合を行ったが,5時間の協議の末解決に至らず。
カ 9日,アニェス暫定大統領の呼びかけで一部の政党及びTSEで会合がおこなわれたが,国会代表者,COB,MAS党並びに政党連合「市民共同体」,「私たちは信じる」及び「自由と民主主義」は出席せず。
同日,国連は,立法府,司法府及び行政府に,対話することを呼びかけた。
キ 8~9日,反MAS派集団がコチャバンバ県の一部の道路封鎖を解除し,MAS派と一触即発の場面があった。さらに,ラパス及びコチャバンバ県のMAS派は,国軍が抗議活動に介入する場合は,衝突もいとわないとした。
ク 10日,ラパス県検察局は,道路封鎖により吸入用酸素の流通を妨げる先導者5名に対する逮捕令状を発出した。
同日,ムリージョ内務大臣はCNNのインタビューにおいて,内戦を避けるために「テロリスト集団」に対し武力で対抗はしていない,ただし数時間以内に対話で解決を見いだせない場合,より強硬な手段と法的手段をとらざるを得ないと発言した。
同日,モラレス前大統領は,道路封鎖を行う団体に対し,8日の国連仲介人同席の会合を踏まえ,10月18日の総選挙実施を裏付ける法律の公布を条件に合意にいたるようツイッターで呼びかけた。一部のMAS派の上院議員も道路封鎖解除を求める意向を示したが,先住民団体「ポンチョス・ロホス」,ボリビア先住民農業女性全国連盟「バルトリーナ・シサ」,エルアルト市の一部の集団等がアニェス暫定大統領の辞任を要求するなど,事態は収束せず。
ケ 11日,ロペス国防大臣は,道路封鎖の背後に「テロリスト集団」がいる場合は,2019年11月の暴動を繰り返さないために,国軍の介入を認める最高政令を発出する用意があると発言した。
同日,ボリビアカトリック教会,国連,EUは共同声明を発出し,対話を促進し,道路封鎖の解除を呼び掛けた。また, 国連報道官は,グティエレス国連事務総長がボリビアの状況を憂慮しており,道路封鎖を行う団体に対し,医療物資等の流通を妨げないよう呼びかける旨ツイッターに投稿した。
同日,協同組合鉱山労働者やユンガス(ラパス)コカ栽培団体は,道路封鎖を力ずくで解除すると警告し,ムリージョ内務大臣は,武力ではなく対話を促進し,抗議活動の更なる激化の起因となりうる,衝突での死者を出さないことを重視すると発言した。
コ 8月11日,アタウチTSE裁判官とバルガス同裁判官は,総選挙日程を再考し,同日程を裏付ける法律を制定すべきであり,右法律がないことが抗議活動の要因であると主張した。
サ 12日,サンタクルス県議会は,道路封鎖の解除,ロメロTSE長官の48時間以内の辞任,及び医療危機を脱するまでの総選挙の更なる延長を求めた。
同日,COBは,総選挙の実施を10月11日に一週間前倒しするよう要求した。
同日時点で,吸入用酸素の不足により病院で新型コロナウイルス患者計40名が死亡した。
シ 12日,上院は総選挙を10月18日に延期する修正法案を可決した。13日午後1時,下院は同法案を可決した。同日午後4時,アニェス暫定大統領は同法案に署名し,公布した。
同13日,9月6日の選挙実施を求め抗議活動(道路封鎖)を先導していたボリビア労働総連(COB)は,法律可決は国会の「裏切り」であると主張したが,14日,新型コロナウイルスの状況を踏まえ,抗議活動を10月18日まで「停止」するとの声明を発表した。
ス 15日,アルナウルト駐ボリビア国連事務総長特使は,選挙日程延期に関する合意を歓迎し,選挙に関する専門家を派遣し,衛生対策分野で協力する旨のレターを発出した。
同日,法律公布後も抗議活動の継続を宣言していた先住民団体「トゥパク・カタリ」及びボリビア先住民農業女性全国連盟「バルトリーナ・シサ」は,COBの決定に従い道路封鎖を解除する旨発表した。
(2)アニェス政権の動向
ア 5日,アニェス暫定大統領はマリンコビク(Mr.Branko Gora MARINKOVIC JOVICEVIC)新開発企画大臣を任命した。イ 8月6日,国会により挙行されたボリビア独立記念日式典において,アニェス暫定大統領は,年間報告書を提出していないことを理由に上院議長により演説の機会を与えられなかったので,ボリビア国営放送において演説を放映した。
3 外交
8月25日,ロンガリク外相とウィリアムソン在ボリビア米大臨時代理大使は,米州成長(Growth in the Americas)イニシアティブにかかる覚書に署名した。これにより,ボリビアは同イニシアティブに参加する米州10番目の国となり,米国とボリビアの経済関係強化が期待される。