ボリビア内政・外交(2020年2月)

令和2年2月20日

1 概況

(1)1日,反MAS大統領候補が会合し,反MAS統一候補の擁立について協議したが,議論は纏まらず,同統一候補の擁立に失敗した。

(2)大統領選挙に関する各種世論調査において,アルセMAS党候補がトップの支持率を得た。

(3)4日,イスラエル政府代表団が来訪し,アニェス暫定大統領及びロンガリク外務大臣と二国間関係強化に向けた協議を行った。

(4)20日,最高選挙裁判所(TSE)は,モラレス前大統領(コチャバンバ県MAS上院議員候補)及びパリ前外務大臣(ポトシ県MAS上院議員候補)の次回総選挙への立候補資格を否認した。
 

2 内政

(1)世論調査

ア 7~13日,Cies Mori社が都市部及び地方の2,224名を対象に実施した世論調査の結果は以下のとおり。
(ア)大統領選挙で誰に投票するか。
アルセ前経済・財務大臣(MAS):31.6%
メサ元大統領(政党連合「市民共同体」):17.1%
アニェス暫定大統領(政党連合「フントス」):16.5%
カマチョ前サンタクルス市民委員会委員長(政党連合「私達は信じる」):9.6%
未定:6.5%
白票:6.1%
チ候補(FPV):5.4%
無回答:2.2%
キロガ元大統領(政党連合「自由と民主主義」):1.6%
ママニ候補(PAN-BOL):1.6%
シャビブ候補(ADN):0.5%(当館注:17日,TSEにより立候補資格無しと判断された)
 
(イ)決選投票で誰に投票するか。
a アニェス暫定大統領とアルセ前経済・財務大臣の場合
アニェス暫定大統領:43.6%
アルセ前経済・財務大臣:42.3%
b アニェス暫定大統領とメサ元大統領の場合
アニェス暫定大統領:33.8%
メサ元大統領:30.3%
c アルセ前経済・財務大臣とメサ元大統領の場合
アルセ前経済・財務大臣:40.8%
メサ元大統領:40.7%
 
イ 23日付パヒナ・シエテ紙は,14~17日にMercados y Muestras社が都市部及び地方在住の1,070名を対象に実施した世論調査の結果を公表したところ,右概要以下の通り。
(ア)大統領選挙で誰に投票するか。(当館注:未定・無回答を除く数値)
アルセ前経済・財務大臣(MAS):32%(12月:27%,1月:31%)
メサ元大統領(政党連合「市民共同体」):23%(12月:24%,1月:20%)
アニェス暫定大統領(政党連合「フントス」):21%(12月:11%,1月:14%)
カマチョ前サンタクルス市民委員会委員長(政党連合「私達は信じる」):15%(12月:15%,1月:20%)
チ候補(FPV):6%(12月:9%,1月:7%)
キロガ元大統領(政党連合「自由と民主主義」):2%(12月:2%,1月:4%)
ママニ候補(PAN-BOL):1%

(イ)決選投票で誰に投票するか。(当館注:未定・無回答を除く数値)
a アニェス暫定大統領とアルセ前経済・財務大臣の場合
アニェス暫定大統領:48%
アルセ前経済・財務大臣:36%
b アルセ前経済・財務大臣とメサ元大統領の場合
メサ元大統領:48%
アルセ前経済・財務大臣:37%
c アルセ前経済・財務大臣とカマチョ前サンタクルス市民委員会委員長の場合
アルセ前経済・財務大臣:40%
カマチョ前サンタクルス市民委員会委員長:37%
 
(ウ)最高選挙裁判所を信頼しているか。
はい:61%
いいえ:28%
不明又は無回答:11%
 
(エ)アニェス暫定政権は司法府を操作して前政権高官に対する迫害を行っていると思うか。
はい:53%
いいえ:38%
不明又は無回答:11%
 
(オ)モラレス前大統領が上院議員に立候補することを認めるべきと考えるか。
はい:29%
いいえ:66%
不明又は無回答:5%

(2)モラレス前政権との関係

ア ナバロ前鉱業・冶金大臣及びドラド前地方開発次官の拘禁事案
1日未明,ボリビア外務省発行の墨までの一時通行許可証を有するナバロ前鉱業・冶金大臣及びドラド前地方開発次官は,墨大使館員の付き添いによりエルアルト国際空港に到着したが,警察により一時拘禁された。これに対し,モラレス前大統領,EEAS報道官及び亜外務省は批判声明を発出した。同日,内務省は,本件は警察と検察庁の間の調整の不備であり,遺憾である旨,また,外務省は,2名の亡命者は,一時通行許可証の保証の下,支障なく墨に移送されなければならない旨の声明を各々発出した。
同日昼頃,2名の亡命者はボリビアを出国し,墨に到着した。
イ 人権遵守法案
13日,憲法裁判所は,人権遵守法案の違憲性に関するアニェス暫定大統領による申し立てを受理した。今後,同法案の違憲性が審査された後,30日以内に判決が発出される見込みであり,同判決が発出されるまでの間,同法案の公布手続きは停止された(当館注:COVID-19の影響により,判決の発出は延期されている)。

(3)総選挙を巡る動向

ア 1日,サンタクルス市民委員会の呼びかけに応じ,パチ・ラパス県知事を除く,反MAS大統領候補(アニェス暫定大統領,メサ元大統領,カマチョ前サンタクルス市民委員会委員長,キロガ元大統領,チ大統領候補)がサンタクルス市において会合し,反MAS統一候補の擁立について協議したが,議論は纏まらず,同統一候補の擁立に失敗した。反MAS大統領候補は,「ボリビアの団結のための合意」の題名で以下の合意文書に署名し,4月3日に再び会合することで合意した。(当館注:COVID-19の影響により,同会合は実現せず。)
イ 8日,民主・民族主義行動党(ADN)のシャビブ大統領候補及びジャリリ副大統領候補は,党内の混乱を理由として期限までに所要の資料を最高選挙裁判所(TSE)に提出できず,選挙出馬を取りやめたと公表した。
ウ 18日,アルセMAS大統領候補はブエノスアイレスを訪問し,フェルナンデス亜大統領と会談した。双方は,国内需要が両国の経済成長の最も重要な原動力であるという点で一致した。フェルナンデス亜大統領は,モラレス政権時の社会経済発展及びアルセ候補の経済・財務大臣としての手腕を賞賛し,自分がボリビア国民であれば,アルセ候補に投票すると述べた。
エ 18日,カマチョ前サンタクルス市民委員会委員長は,サンタクルス市民委員会に対し,反MAS統一候補擁立のための会合の招集を求め,右擁立を条件に自身の立候補を取り下げると述べた。メディーナ副大統領候補(政党連合「フントス」),チ大統領候補ほかは,同前委員長の発言を支持する旨発言したが,「市民共同体」は慎重な立場を見せた。
オ モラレス前大統領ほかの立候補資格の否認
(ア)1日,ロメロTSE長官は,モラレス前大統領ほかの立候補資格に関し,TSE大法廷において立候補資格が検討される,憲法によれば,国会議員の立候補条件として,「選挙まで該当選挙区において少なくとも2年以上継続して在住する」(憲法第149条)ことが規定されていると述べた。また, OAS,EU及び米州選挙機関連盟(UNIORE)が次回選挙において選挙監視団を派遣する予定であると述べた。
(イ)10日,TSEは,3日に提出された九つの政党連合及び政党の大統領,副大統領,上院議員及び下院議員候補の登録申請書類の不備を公表し,MAS党のアルセ前経済・財務大臣(大統領候補),モラレス前大統領(コチャバンバ県選出上院議員候補),パリ前外務大臣(ポトシ県選出上院議員候補)及びプマリ前ポトシ市民委員会委員長(政党連合「私たちは信じる」副大統領候補)の提出書類に各々不備があったと公表した。これら候補者は,12日までに不備のあった書類を修正又は再提出し,17日にTSEが再審査の結果を発表する予定であると発表した。
(ウ)17日,ロメロTSE長官は,選挙の立候補者の資格審査結果を公表し,資格有り(チョケワンカ元外相含む),資格無し(申請リストの約60%。サルバティエラ前上院議員含む),審査継続の三つのカテゴリーに分類し,審査継続対象者については可能な限り早期に結果を公表したいと述べた。審査継続のカテゴリーには,モラレス前大統領,アルセ前経済・財務大臣,パリ前外務大臣ほか13名(うち11名はMAS候補)が含まれ,これら候補に対して30件以上の立候補資格の否認を要求する異議申立てがなされた旨述べた。
(エ)18日,MASは,上記(ウ)を踏まえ,「緊急事態宣言」と題する声明を発出し,TSEが非民主主義的な手法でMAS候補を除外しようしていると非難し,透明な選挙プロセスを要求すると述べた。
(オ)18日,米州人権委員会は,コロンビアによる「米州人権システムの文脈における無期限再選の概念」に関する諮問を踏まえ,米州人権規約第73条3項に則り,無期限再選に関する意見の作成作業を開始したと発表した(当館注:期限は5月18日であるが,延期されている模様)。
(カ)20日,TSE大法廷は,大統領,副大統領及び上院・下院議員の立候補資格に関する見直し作業を完了したと公表した。立候補の条件である「永住」の定義に関し,「永住」には以下三つの主要な要素が必要である。第一に,候補者の選挙人登録において登録又は申請されている常駐的な居住地であること,第二に,憲法裁判所の判例に基づき,候補者が生計を立てている場所であること,第三に,実体的に居住している事実があること。TSEは,上記要素に従い審査を行った結果,「永住」の条件を満たさない,バリエントスFPV党副大統領候補,コッシオ・タリハ県上院議員候補(政党連合「私達は信じる」),モラレス前大統領(コチャバンバ県MAS上院議員候補)及びパリ前外務大臣(ポトシ県MAS上院議員候補)の立候補資格を否認した。一方,TSEは,アルセ前経済・財務大臣(MAS大統領候補)に関し,証拠不十分により,同候補の立候補資格に対する異議申立てを却下した。同日,ロメロTSE長官は,上記決定は最終的であり,上訴不可であると述べた。


(4)スアレス新外務次官の就任

12日,サニエル政務担当筆頭外務次官に替えて,スアレス(Mr. Manuel Suarez Avila)氏が新たな外務次官に任命された。同次官はサンチェス・デ・ロサダ元大統領の私設秘書やメサ元大統領政権における大統領府大臣等を務めた。2019年10月の選挙では,メディーナ民主統一党(UD)党首の選挙顧問を務めた。

 

3 外交

(1)4日,ロンガリク外務大臣は,イスラエル外務省のバス南米課長,ザハール・イスラエル国際協力庁長官及びイチレビッチ駐ペルー・ボリビア兼任大使と会合した。双方は,2009年以降中断された政府高官による外交関係を再開することを決定したことを強調した。ボリビア側は,劣化した土地の回復,熱帯雨林管理,森林火災の早期予防及び対策,気候変動への適応及び水・再生エネルギー関連技術に関する技術協力に関心を示した。イスラエル側は,ボリビア政府によるイスラエル国民に対する査証撤廃を賞賛すると共に,早期に,相互査証免除協定に署名することに同意した。両国が1961年に締結した技術協力協定及び文化交流協定は,2019年12月12日に再開された。

(2)6日,ガルシア(Mr. Garcia-Sayan)国連人権理事会特別報告者は,ボリビアでは司法機関及び検察が政治的迫害のために利用されていることを危惧するとツイートし,7日,同報告者は,西のエル・パイス紙に同趣旨の論評を寄稿した。これに対し,8日,ボリビア外務省は同報告者の発言に対して深い不快感を表明し,辞任を求める声明を発出した。

(3)17日,デ・ラ・トーレEU代表部大使は,アニェス暫定大統領立ち会いの下,アニェス暫定政権に対し,2700万ユーロの財政支援を行う旨発表し,合意文書に署名した。同支援の内,1000万ユーロは麻薬撲滅対策及び総合的開発,1700万ユーロは水,衛生及び天然資源分野に充てられる。

(4)西大使館警備担当官4名による墨大使公邸進入事案
ア 18日,2019年12月27日の西大使館警備担当官4名による墨大使公邸進入事案に関し,西外務省は西国会に報告書を提出した。駐ボリビア西大使館臨代,同領事及びGEO職員4名の生命が脅かされたとし,同公邸内の亡命者の脱出を支援する目的は一切なかった旨,また,アニェス暫定政権は,西政府の度重なる説明にも関わらず,フェイクニュースを野放しにして西外交官の写真や個人情報を漏洩させ,状況改善のための意思が見られなかったと批判した。
イ 19日,ボリビア外務省は,「本事案に関するスペイン外務省の内部調査の結果に関し,公式ルート経由の情報を受領しておらず,ボリビア政府としてコメントしない。ボリビア政府は,外国による内政干渉を認めず,主権を守り,如何なる外国も国内で覆面の人物を動員することを容認しない。ボリビアは,国際法及びウィーン外交関係条約の原則に従い,西を含む,EU加盟国と良好な関係を維持する希望を表明する。」との声明を発出した。

(5)26日,中国政府はボリビア政府に対し,COVID-19対策のための支援として,赤外線サーモグラフィー3台を贈与し,ラパス,サンタクルス及びコチャバンバの国際空港に設置した。

(6)ワシントンポスト紙における2019年10月選挙の不正に関する投稿
ア 27日,米国ワシントンポスト紙は,国際NGOの経済政治調査センター(CEPR)の委託により,マサチューセッツ工科大学の選挙専門家2名が作成した,2019年10月の選挙に不正はなかった旨の調査結果に関する記事を掲載した。
イ 28日,コンチェOAS官房長はワシントンポスト紙に対し,同記事を厳しく批判する反論書簡を送付した。同日,墨OAS代表部はOAS事務局に対し,同記事の調査結果とOASの調査結果を比較分析すべきである,OASの分析ミスにより発生した人権侵害を認めるべきであると述べた。同日,フェルナンデス亜大統領及びマドゥーロ・ベネズエラ大統領は,27日付の記事を支持する姿勢を表明した。
ウ 同日,ボリビアOAS代表部はOAS事務局に対し,墨は,ボリビアの内政事項に直接的に干渉しており,OAS事務局は,ボリビアの内政事項に関する墨の照会に回答すべきではない旨の抗議書簡を送付した。同日,アラウホ伯外務大臣は,ボリビアの立場を支持した。

(7)バチェレ国連人権高等弁務官の年次報告におけるボリビア事案への言及
ア 27日,ジュネーブで開催された国連人権理事会会合において,バチェレ国連人権高等弁務官は年次報告を発表し,その中で,2019年のボリビアにおける選挙後の騒じょうにおいて,少なくとも,35名が死亡,800名が負傷したが,それらの殆どは,警察及び国軍の作戦中に発生した,数十名のモラレス前政権高官及び関係者が迫害を受けていると報告した。
イ 28日,ボリビア外務省は,同年次報告を批判し,過去14年間のモラレス政権において発生した全ての人権侵害に関する広範で掘り下げた調査を行うべき,今後数週間以内に,独立して専門性を有するボリビア国民及び国際オブザーバーから構成される「真相追究委員会』を設置する旨の声明を公表した。