ボリビア内政・外交(2015年9月)

平成27年9月30日

1 概況

(1) 内政

  • 20日,地方自治憲章に関する住民投票が国内5県で実施されたが,何れの県でも地方自治憲章は否決された。また,3市及び2先住民自治区において実施された住民投票の結果により,2市,1先住民自治区で地方自治憲章が承認され,国内で初めて承認された地方自治憲章となった。
  •  26日,モラレス大統領の再々選を可能とするための憲法一部改正法案が可決された。

  • (2)外交

  • 「海への出口」問題に関し,24日,国際司法裁判所(ICJ)は14対2でチリにより付されたICJの管轄権に対する先決的抗弁を却下し,ボゴタ条約の第31条に基づき,ボリビアにより2013年4月24日に提出された申述書の主張を受け入れ,ICJの管轄権を認めた。

  • 2 内政

    (1) 政府の動き

     1日,先住民基金の理事長にエウヘニオ・ロハス前上院議長(MAS党)が就任し,同基金の再構築及び適正な管理・査察を約束した。


     3日,モラレス大統領は,MAS党のラパス県議会議員との会合の後,ラパス県政府政治コーディネーターであるチョケワンカ外務大臣の多忙を理由に,コカリコ農村開発・土地大臣を同ポストに新たに任命する人事異動を発表した。


     11日,シフエンテス上院副議長は,当国政府は電子政府推進のため,電子政府・情報コミュニケーション技術庁を発足させる最高政令第2514号を承認したと発表した。


    (2)モラレス大統領再立候補問題

     3日,ガルシア・リネラ副大統領は,モラレス大統領が「2025年までの長期的発展のためのアジェンダ」を実行,完遂するために,再々選を可能とするように憲法を改正すべきとの考えがMAS党内で強いと述べた。


     15日,スカルペジーニ・ボリビア司教協議会長が,カトリック教会にとって,政権交代が民主主義の証であると述べた。


     17日,トゥルヒージョ全国労働総連(COB)代表が,MAS党を支持する社会組織からなる「変革のための国家調整委員会(CONALCAM)」を代表し,ゴンサレス上院議長に対し,大統領の2回の連続再選を可能とするために現行憲法の第168条を修正する憲法一部改正法案を提出した。


     22日,国会の上下両院憲法委員会が憲法一部改正法案を承認し,報告書を両院議会総会に送付した。


     22日,ゴンサレス上院議長は国民投票に関し,最高選挙裁判所(TES)が在外選挙投票の準備の時間を確保するため1月31日ではなく2月23日とすると発表した。


     26日,両院議会総会において憲法一部改正法案が20時間以上の討議の末,賛成112票,反対41票で可決された。同法案は,本来は議会での承認後に憲法裁判所(TCP)よる合法性の確認が実施されるべきであるが,25日,MAS党はすでに可決前の法案をTCPに提出していたため,アルトゥロ・ムリージョ上院議員(野党民主統一(UD))等は,右は規定に反しており,法案自体が無効であると主張した。これに対し,ホセ・アルベルト・ゴンサレス上院議長は,議会による改正案の提出及び事前通達は,手続きに関する何の規定にも反していないと反論した。


     29日,MAS党議員は憲法改正のための国民投票招集法案を提出した。国民投票の質問は「あなたは大統領及び副大統領の2回連続再選を可能とするために憲法の168条を改正することに賛成ですか」。また右法案は国民投票を2月21日とすると示している。


     31日,議会上下両院憲法委員会は国民投票の質問を「あなたは大統領及び副大統領の2回連続再選を可能とする,つまり現在の大統領・副大統領の2020~2025年出馬を可能とするために憲法の168条を改正することに賛成ですか」と修正の上承認し,議会執行部に送付した。その後右法案は最高選挙裁判所(TSE)に送付され,72時間以内にTSEの技術的報告書とともに回答が議会に送付されることとなる。


    (3)麻薬関係

     2日,マディディ公園において362キロのペルー産コカインを所有していたウルサガステ元空軍大尉が逮捕された。


     7日,カセレス国防副大臣は,麻薬取引に対する戦いのための特別部隊が,ボユイベ(サンタクルス県)にて,パラグアイからチリ及びアルゼンチンに輸送される途中であった1,500キロのマリファナを押収したと発表した。


    (4)地方自治憲章

     20日,地方自治憲章に関する住民投票が国内5県(ラパス,コチャバンバ,チュキサカ,オルロ,ポトシ)で実施されたが,何れの県でも地方自治憲章は否決された。また,3市(オルロ県ワヌニ市,コチャバンバ県コカパタ市*,コチャバンバ県トコパヤ市*)及び2先住民自治区(オルロ県トトラ・マルカ先住民自治区,サンタクルス県チャラグア・イヤンバエ・グアラニー先住民自治区*)において実施された住民投票の結果により,2市,1先住民自治区(*印)で地方自治憲章(Carta Organica)が承認され,国内で初めて承認された地方自治憲章となった。


    (5)反対運動

     26,27日,スクレにて反政府派農民及びボリビア農民労働者組合連合(CSUTCB)及び8つの県の代表がモラレス大統領の再々選反対運動のために団結するために会合した。


    (6)世論調査の結果

     憲法改正についてMERCADOS Y MUESTRAS SRL社が9月27~30日に実施した世論調査によると,52%がモラレス大統領の再選を可能にするための憲法改正に反対,42%が賛成,5%がわからない・未回答であった。


     ICJ判決についてMERCADOS Y MUESTRAS SRL社が9月27~30日に実施した世論調査によると,同判決の結果は誰のおかげと思うかとの問いに対し,44%がモラレス大統領,27%がメサ元大統領,14%がわからない・未回答,13%がエドゥアルド・ロドリゲス駐蘭大使(代理人)と答えた。


     地方自治憲章に関する住民投票についてMERCADOS Y MUESTRAS SRL社が9月後半に10の県庁所在地と20の中規模都市で実施した世論調査によると,41%が同憲章の否決はモラレス大統領の再選に否定的に影響を与えると考えている。また,右住民投票にて反対票を投じた理由については,53%が同憲章の内容を知らないから,27%が政府に対する反対の意思を表示するため,10%が集権化した政府の方が良いから,10%がわからない・未回答であった。


    3 外交

    (1)多国間関係

     7日,10月14日に実施されるアンデス保健医療機構事務局長選挙にニラ・エレディア氏が立候補する旨発表された。


     11日,ウルグアイのモンテビデオ市にてラテンアメリカ統合連合(ALADI)代表委員会会合にて,ベンジャミン・ブランコ・ボリビア代表はコカの葉とその生成物の商業化推進のための畜産に関する部分到達協定の提案を発表した。出席した13のうち11の国から関心が示され国内で協議する旨示された。同協定は,コカの葉を科学的,食料的,医学的に調査し,商業化を推進するためにとるべき具体的な行動をとることを規定している。


     14日,国連において,アンデスの道徳規範の三本柱として,アイマラ語の規律「AMA QUILLA, AMA LLULLA, AMA SUWA」(怠けない,嘘をつかない,盗みを働かない)が全会一致で承認された。同規律は当国憲法第8条1項に多民族国の国民として守るべき道徳規範として規定されている。


     24日,モラレス大統領は国連総会に出席するためにチョケワンカ外務大臣とパコ通信大臣を同伴しニューヨークを訪れた。25日,「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択する国連サミットで演説。26日,記者会見にて,ボリビア政府は米国との関係改善のためオバマ大統領との接触を追求しているが,米国政府から回答はないと述べた。28日,国連総会で演説。演説の内容は,利己主義,個人主義,消費主義である資本主義を終わらせれば貧困撲滅が可能であるというもの。


    (2)二国間関係

     対アルゼンチン関係

    (ア)5日,フェレイラ国防大臣とロッシ・アルゼンチン国防大臣はコチャバンバにて会合し,共同宣言にてアルゼンチン政府は訓練機,ミサイル発射機,航空管制レーダー供与のプロジェクトを実施する旨述べた。

    (イ)10日,ブドゥ-・アルゼンチン副大統領がラパスを訪問し,ガルシア・リネラ副大統領と副大統領府にて会談した。会談後の記者会見にて,ボリビアとの二国間貿易関係を,生産統合及び技術移転の段階に移すべきと提案したと述べた。ブドゥ-副大統領は,ICJに提出されている「海への出口」問題につき,ボリビアとチリにとって最善なのは,合意に至ることだと述べた。また,モラレス大統領の2019年再々選問題につき,「市民が望むのであれば,リーダーは続けるべきである」と述べた。

    (ウ)17日,モラレス大統領はチョケワンカ外務大臣とアルゼンチンを訪問した。フェルナンデス大統領と会談し,シオリ大統領候補の集会に参加したほか,キルメス国立大学及びホセ・カルロス・パス国立大学から名誉博士号を授与された。


     対米国関係

    (ア)15日,オバマ米国大統領が議会に麻薬取引に対する戦いにおける国際約束を果たしていないとしてボリビアを非難する報告書を送付した件につき,モラレス大統領は,右行為は政治的であり,米国の麻薬取引に対する戦いは失敗していると述べつつ,ボリビアでは麻薬取引に対する戦いにおいて司法府が政府の方針通りに動いていないと述べた。

    (イ)26日,モラレス大統領は,米国ジョージア州アトランタ市のカーター元米国大統領の自宅を訪問し,1時間程度会合した。同元大統領は,両国間に存在する問題を解決するためにできる範囲における全ての協力を行いたいと述べた。また,「海への出口」問題については,ICJの判断を歓迎し,チリが,ボリビアに対して誠意を持って,本件の解決方法を探ることを期待している旨述べた。

    (ウ)31日,キロガ元大統領は米国ニューヨーク州ニューヨーク市を訪れ,バイデン副大統領ほか世界的に影響力のあるオピニオンリーダーが集合するコンコーディア・サミットに出席した。キロガ元大統領はバイデン副大統領に「海の本」を贈呈した。


     3日,ブラジルへ秘密裏に逃亡していた元上院議員ロヘル・ピントは政治亡命を要請していたが,同日,ブラジルは同要請を受け入れたのはボリビアに政治的迫害があるからであると述べた。ロメロ内務大臣はブラジルの決定に遺憾の意を表した。


     27日,ニューヨーク市にてモラレス大統領はローハニ・イラン大統領と会談し,二カ国間の課題について議論した。ローハニ大統領は,モラレス大統領を11月23日に開催されるガス輸出国の第3回首脳会談に招待した。


     29日,デンマークは経済協力の予算の削減及びアフリカ及びアジアに集中する多恵の戦略の変更を公式に発表した。右によりボリビア及び中米への援助が削減されることとなる。


     ワン在ボリビア中国商工会議所代表は,ボリビアへの協力の一環として中国は2012~2014年,約30億ドルを供与していると述べた。これには公開入札に中国企業が応札したプロジェクトは含まないという。また,55の中国企業がボリビアで操業していると述べた。


    (3)海への出口問題

     4日,ボリビア外務省は1904年条約の有効性とチリに対して同条約の遵守を求める内容のプレスリリースを発出した。同プレスリリースは,1904年条約の9件の侵害を挙げている(封印されている輸出用コンテナの開封,コンテナの港外私有地への一方的移動,チリ政府が危険と見なす貨物に対する恣意的で不法な倉庫保管料の請求,ボリビア貨物への消費税の義務的適用,管理能力不足による貨物への対応の遅れ,チリ企業に有益となるような通過貨物への燻蒸消毒の義務化,週末を含め勤務時間拡大に対するチリ側の拒否,海外から貨物到着時に船上で貨物確認ができないこと,沿岸警備隊員によるボリビア運送業者への不法な罰金の請求)。


     9日,24日にハーグICJ公聴会でICJの管轄権の有無につき判決文が読まれることが発表された。


     24日,ICJは14対2でチリにより付されたICJの管轄権に対する先決的抗弁を却下し,ボゴタ条約の第31条に基づき,ボリビアにより2013年4月24日に提出された申述書の主張を受け入れ,ICJの管轄権を認めた。


     24日,ICJ判決が発表された後,モラレス大統領はムリージョ広場にてハイメ・パス元大統領,ホルヘ・キロガ元大統領,カルロス・メサ元大統領及びギド・ビルドソ元大統領とともに,今回のボリビアの勝利はボリビア国民の団結のためであると述べ,バチェレ・チリ大統領と対話の開始を追求すると述べた。


     28日,モラレス大統領は国連本部にてバチェレ・チリ大統領と2分ほど会談した。バチェレ大統領は前日の総会にて「協定の確実な遵守と紛争を平和的に解決するために人類によって作られた制度の義務的でない利用を避けること」を求めた。


     28日,ベンハミン・チモイ駐ボリビア・ペルー大使は「エル・ディアリオ」紙に,1929年にペルーとチリが批准した追加議定書及び「海への出口」問題をボリビアがチリに対してICJに付託したことを勘案し,ペルーはICJ裁判に関与すべきでないのなら介入しないと述べた。


     31日,メサ元大統領はチリ国営テレビのインタビューにて,「海への出口」問題につきチリとボリビアは遅かれ早かれ解決に至るだろうと述べた。

     4日付「ラ・ラソン」紙等当地報道によると,8月31日,ボリビア船籍「Haddad 1」が武器をリビアに密輸入しているとしてギリシャで拿捕された。


    4 社会

     (1) 国際識字デーである8日,アギレ教育副大臣は,識字率がこの7年で96.23%から96.91%に改善したと発表した。


     (2) 14日付「ラ・ラソン」紙は,ラパス市において約790人の子供が路上生活をしており,全国ではその数は4000人にも上ると報道した。市民保障国家計画は彼らに対応するための制度を創設することを提言している。


     (3) 15日付「カンビオ」紙は,2012年の国勢調査による経済財務省のデータによると,ボリビア人口の44.9%が中央政府から何らかの社会保障手当を受けていると報じた。


    (了)