ボリビア内政・外交(2015年2月)
1 概況
(1)内政
- 4日,革命的民族運動(MNR)党は民主統一(UD)とのボリビア議会における連立を解消し,UDはMNR党が国会での議席を得るためだけにUDとの連立を利用したと批判した。
- 11日,第一回地方自治に関する国家委員会が開催され,モラレス大統領は,予算分配等の合意(Pacto Fiscal)に関する議論は,中央と地方の間での資金配分だけでなく,富を生むための生産的国家の確立と貧困対策のための議論となるべきであると述べた。
- 12日,エルバス国家会計院長は,先住民基金に関する外部監査の第一段階で,同基金のプロジェクトのうち153件が実施されておらず,また,別の約100プロジェクトがその実施・完了を証明できない状況にあると発表した。
- 19日,モラレス大統領は,突然グロウクス文化・観光大臣を更迭し,マチカオ同省観光担当次官を文化・観光大臣に昇格させた。
(2)外交
- 3日,モラレス大統領は,相互尊重を条件として,二国間関係の正常化を目的に両国大使の交換を米国政府に対して提案する旨述べたが,翌4日には,米国が汚職者達の捨て場になっていると批判した。
- 8~12日,メサ元大統領は,「海への出口」問題に関する国際司法裁判所(ICJ)訴訟の内容及び目的に関して説明をするために,ニューヨークを訪問した。
- 19日,アルラルデ政務担当外務次官は,チリ政府による両国間国境の自由通行の妨害に関してラテンアメリカ統合連合(ALADI)から命じられている対話のための会合に出席し,同会合におけるチリ政府の説明は,納得のいくものではないと非難した。
- 25日,モラレス大統領とコスタリカ電力公社(ICE)の技術ミッションがポトシ県のラグナ・コロラダ地熱発電所建設計画のサイト予定地を訪問し,両国間の合意文書の枠組みにつき議論した。
- 26日,モラレス大統領はウルグアイを訪問し,ウルグアイの深水港開港後の一部港湾設備・区画のボリビアへの提供に関するメモランダムに署名した。
2 内政
(1)政府の動き:
ア 中央政府と地方政府の間での予算分配等に関する合意(Pacto Fiscal)に関する協議
(ア)11日,第一回地方自治に関する国家委員会が開催され,モラレス大統領は,本件合意に関する議論は,中央と地方の間での資金配分だけではなく,新たな富を生むための生産的国家の確立と貧困対策に向けての議論となるべきであると述べ,現在同委員会の出席者として法律上規定されていない経済・財政大臣も出席できるようにするための法律改正を主張した。サンタクルス県とベニ県は,中央政府が全体の50%を使用し,残りの50%を地方政府等の間で分配することを提案したが,中央政府は否定している。
(イ)12日,ガルシア・リネラ副大統領は,本件に関するいかなる議論も複合的経済モデル,「2025年までの長期発展のためのアジェンダ(Agenda Patriótica 2025)」及び2014年の総選挙に勝利した政権プログラムの3つの実施を保障するものでなければならないと発言した。
イ グロウクス文化・観光大臣の更迭
19日夜,モラレス大統領は,突然グロウクス文化・観光大臣を更迭し,マチカオ同省観光担当次官を文化・観光大臣に昇格させ,新大臣の就任式を実施した。大統領は,グロウクス前大臣は誤りを犯したが,3回誤りを犯した場合には,辞職させるか経済的制裁を課す必要がある旨発言し,また,閣僚に対しては,自らとガルシア・リネラ副大統領の指示を忠実に履行すること,規律と責任感を以て行動することを要請した。
ウ モラレス大統領支持率
10~11日付け当地「カンビオ」紙(政府系)は,マドリッドに拠点を置く著名な政治コミュニケーション協会(Asociacion de Comunicacion Politica:ACOP)は,モラレス大統領に対する国民の支持率が75%であり,プーチン・ロシア大統領(87%)及びコレア・エクアドル大統領(79%)に次いで世界の首脳の中で第3位であると発表した。
エ ボリビア議会による民営化・資本化プロセスへの告訴決議
2日,サバレタ下院議員(社会主義運動(MAS)党)は,保守政権が実施した民営化・資本化プロセスに関する調査を行うための委員会を新議会において再度組織することを発表し,20日,同委員会が創設された。
オ 2014年総選挙結果に基づく動き
2日,UD選出のサンタマリア下院議員は,国会における野党の連立においてMNR党に所属する下院議員との協力関係を見直す意向を表明した。本件は,連立状態にあるにもかかわらずMNR党議員が独自にMAS党と協議して,国会の委員会の委員長ポストを獲得し,野党の分裂を促したことに起因する。4日,MNR党はUDとの連立を解消し,UDはMNR党が国会での議席を得るためだけにUDとの連立を利用したと批判した。
カ 先住民基金(Fondo Indigena)における汚職・横領の告発
(ア)12日,エルバス国家会計院長は,先住民基金に関する外部監査の第一段階で,同基金のプロジェクトのうち153件(71百万ボリビアーノス(約10百万米ドル)相当)が実施されておらず,また,右以外に約100プロジェクト(74.6百万ボリビアーノス(約10.6百万米ドル)相当)がその実施・完了を証明できない状況にあると発表し,国家に対する経済的損失の罪で検察庁に送検される旨説明した。同基金は2005年12月に創設された基金であり,同基金の理事会の議長は農村・開発土地大臣が務めている。なお,MAS党のラパス県知事候補であるウアンカ氏が,未完了のプロジェクトの法的代表となっていることも発表された。
(イ)13日,モラレス大統領は,先住民基金における汚職・横領の嫌疑に関して,カーニバル休暇の後に,同基金の理事会の構造改革等を実施する旨発表し,同日,ガルシア・リネラ副大統領も責任者は罰せられるべきであると発言した。
(ウ)23日,バルディビア汚職撲滅・透明性担当大臣は,先住民基金が融資・執行したプロジェクトの書類等を確認するためのチームを編成して,本件に関しての調査を行う旨発表し,2週間以内に報告を発表する予定である旨発表した。
(エ)25日,政府は先住民基金の汚職問題に介入し,アラマヨ同基金理事長を解任する旨発表した。27日,モラレス大統領は,多くの先住民指導者達が,本件によってその地位を失うことになるであろうと発言した。
キ ボリビアの原子力政策
18日,サンチェス炭化水素・エネルギー大臣は,ボリビアの原子力政策は,医療,産業,エネルギー,燃料サイクル及び技術開発の5分野において推進される旨発表した。
(2)2015年地方選挙
ア Ipsos Apoyo Opinion y Mercado社が,1月27日~2月6日に18歳以上の投票権を有する男女3,000名を対象に実施した地方選挙における投票動向(質問:「もし今日が地方選挙の日なら,誰に投票しますか?」)に関する世論調査は,ラパス県知事選挙において,フェリパ・ウアンカ(社会主義運動(MAS)党)(28%)及びフェリックス・パチ(主権と自由(SOL.bo)(28%)が同率の支持率を得ている点,サンタクルス県知事選,同市長選,ラパス市長選挙,エル・アルト市長選挙において野党候補が優位にある点等を発表した。2010年の地方選挙においては,与党MAS党は,ラパス県,コチャバンバ県,ポトシ県,チュキサカ県,オルロ県及びパンド県の6県の県知事選挙に勝利したが,サンタクルス県,タリハ県及びベニ県の県知事選には敗北している。
イ 19日,ゴンサレス上院議長は,ウアンカ・ラパス県知事候補(MAS党)が先住民基金における汚職・横領を関与した疑いが報じられているにもかかわらず,同候補に対するMAS党の支持を確認した。加えて,同基金の理事会の議長も務めるアチャコジョ農村開発・土地大臣に対して議会で尋問を行う旨発表した。
ウ 25日,TSEは,6,043,162名の有権者が地方選挙裁判所によって投票権を承認された旨発表した。
エ Equipos Mori社が,2月9~26日に18歳以上の投票権を有する男女3,415名を対象に実施した世論調査によれば,地方選挙における投票動向(質問:「もし今日が地方選挙の日なら,誰に投票しますか?」)に関する世論調査は,コチャバンバ県,チュキサカ県,オルロ県等においてMAS党候補が優位にある一方で,ラパス県知事,サンタクルス県知事,タリハ県知事,ベニ県知事,ラパス市長,エル・アルト市長,サンタクルス市長選挙においては野党候補が優位であると発表した。2009年に大統領候補になり,今次地方選挙においてはサンタクルス県知事に立候補しているミチアキ・ナガタニ候補(MNR党)への投票動向は3%に留まっている。
(3)テロリズム事件(2009年,テロを首謀していたとされるボリビア人及び外国人のグループが,ボリビア警察特殊部隊によって制圧され大半が死亡した事件)公判
ア 20日,テロリズム事件の被疑者とされるマリオ・タジッチ及びエロド・トアソが自らの罪状を認め,両名に対して5年10ヶ月の禁固刑の判決が下された。加えて,タジッチ及びトアソ両受刑者は,コスタス前サンタクルス県知事が本件に関与していると告発したため,同県知事も被疑者となる旨ゲレロ検察庁長官は発表した。同長官は,上述の判決確定によって2009年時点ボリビアを分断することを目論むテロリスト集団が存在したことが証明された旨述べたが,他の被疑者は自らの罪状を認めていない。
イ 23日,本件の担当であったソサ元判事は,亡命先のブラジルにおいて,コスタス前県知事とテロリスト集団との関係に関して情報を有していたこと,他方で,その調査は中央政府の妨害によって進めることが出来ず,その理由としてガルシア・リネラ副大統領がコスタス前県知事との間で既に秘密裏に会合を行っていたこと等を発表した。
3 外交
(1)多国間関係
ア 国家債務再編プロセスに関する委員会議長国就任
3日,モラレス大統領は,ボリビア政府が,国連において国家債務再編プロセスに関する委員会の議長国に就任した旨発表した。同委員会においては,各国の持続可能な発展の達成,ハゲタカ・ファンドへの対応等に関しての取り組みが協議される。
イ 国際原子力機関(IAEA)
ロメロ・ボリビア原子力技術センター長は,「ラ・ラソン」紙におけるインタビューにおいてボリビア政府は,2014年に最初の実験用原子炉の設置に関するプロジェクトをIAEAに対して登録した旨発表した。
(2)二国間関係
ア 対欧州諸国・EU関係:
27日,モラレス大統領は,ボリビアを訪問中であったサパテロ前スペイン首相に対して,両国間の友好関係・二国間協力を推進したことを理由にコンドル・デ・アンデス勲章大十字章を授与した。
イ 対米関係:
3日,モラレス大統領は,ベニ県リベラルタ市における演説において,相互尊重を条件として,二国間関係の正常化を目的に両国大使の交換を実施することを米国政府に対して提案した。他方で,4日には,米国政府に対してサンチェス・デ・ロサーダ元大統領を米国から国外追放することを要請し,米国が汚職者達の捨て場になっていると批判した。
ウ 対チリ関係:
(ア)3日,モラレス大統領は,メサ元大統領(国際社会に「海への出口」問題に関する歴史的・法律的説明を行うための特別担当)がチリを訪問しても誰も同元大統領との会談等は行わないであろうとのムニョス・チリ外相の発言に関して,対話を拒むものは自らに理がないことを証明していると述べてムニョス外相を批判した。
(イ)5日,メサ元大統領は,「海への出口」問題に関するICJ訴訟に関して説明するためのチリ訪問を正式に発表した。同元大統領は,チリにおいては政府関係者ではなく市民社会団体との会合を行う予定であると述べた。
(ウ)8~12日,メサ元大統領は,「海への出口」問題に関するICJ訴訟の内容及び目的に関して説明をするために,ニューヨークを訪問し,国連に駐在する各国大使(米,英,露,伯,豪,伊,スロバキア,ジャマイカ,ソマリア,ベネズエラ)と会合を行った。
(エ)16日,ICJは,「海への出口」問題に関する訴訟に関して,5月4~8日まで先決的抗弁に関する公開の口頭弁論を開催する旨発表した。
(オ)19日,アルラルデ政務担当外務次官は,チリ政府による両国間国境の自由通行の妨害をALADIで告発したことによってALADIから命じられている対話のための二国間会合に出席したが,同会合におけるチリ政府の説明は,国内法を二国間の条約に優先させ,ボリビア向け貨物の通行に多くの制限を課していることに関して,納得のいく説明ではないと非難した。加えて,22日には,チリ政府には本件を解決する意志がなく,チリの代表団は決定権がないばかりか議事録の作成に多大な時間を浪費したために,議事録にも署名しなかったとしてチリ政府を批判した。
(カ)22日,通信省はチリの「エル・メルクリオ」紙の紙面を買い取り,チリの社会主義的な大統領であったサルバドール・アジェンデ元大統領がボリビアとの「海への出口」問題においてボリビアに好意的な姿勢を有していたと表明した。
エ 対ウルグアイ関係:
(ア)26日,モラレス大統領はウルグアイを訪問し,ウルグアイの深水港開港後の一部港湾設備・区画のボリビアへの提供に関するメモランダムに署名した。モラレス大統領は,署名後に,本件メモランダムの署名は,今後ボリビアの大西洋への出口を構築するための共同作業の第一歩であると説明し,ウルグアイ国民の連帯に謝意を表明した。
(イ)26日,モラレス大統領は,作家のエドゥアルド・ガレアーノ氏と朝食をとった。同氏は,モラレス大統領のリーダーシップを賞賛し,現政権が「海への出口」問題に関して説明するために使用している「海の本"Libro del Mar"」は,「盗まれた海の本"Libro del Mar Robado"」であると述べ,ボリビア政府への支持を表明した。また,ムヒカ大統領は,ボリビアが「海への出口」を有することは不可避であると述べ,常にチリとボリビアの間での歴史的相違が解決され,ボリビアが「海への出口」を有することを望んで来た旨発言した。
オ 対ペルー関係:
5日,ボリビア最高裁判所は,ボリビア国家亡命者理事会(Conare)によるペルー人企業家ベラウンデ氏に対しての自宅拘禁命令の無効化要請を却下し,同氏が3月21日まではボリビアにおいて自宅拘禁されることとなった。ママニ最高裁判所判事は,これまでペルー政府による同氏の引渡要求はなされていないと発言した。
カ 対バチカン関係:
6日付け「ラ・ラソン」紙は,法王フランシスコが7月にボリビアを訪問する旨同紙に対して発言したと報じた。
キ 対コスタリカ関係:
25日,モラレス大統領とコスタリカ電力公社(ICE)の技術ミッションがポトシのラグナ・コロラダ地熱発電所建設計画のサイト予定地を訪問し,両国間の合意文書の枠組みにつき議論した。モラレス大統領は,地熱発電のポテンシャル調査に関して,日本側との多くの協議や交渉を進めてきて,プロジェクトは進捗しているが,ボリビアには地熱発電の専門家がいないため,その理解と開発のためにコスタリカの同胞が来訪している旨発表した。加えて,モラレス大統領は,事前の合意により,日本からは260百万ドルの融資があり,コスタリカの助言があるのは良いことである旨発言した。
(了)