ボリビア内政・外交(2014年12月)
1 概況
(1)内政
- 9日,院は,憲法裁判所判事3名への弾劾裁判を開始し,健康面の問題から欠席したクシ判事は出廷拒否者であるとの宣言を行い同判事の逮捕を命じた。
- 26日,モラレス大統領は,閣僚交代の可能性について触れ,全閣僚に対して内閣に残るにしても内閣を去るにしても確りとした準備をしておくよう要請した。
- 29日,2015年3月の地方選の立候補者登録期間が終了し,最高選挙裁判所(TSE)は,1月8~12日に立候補者4,975名の候補者資格の審査を行う旨発表した。
(2)外交
- 2日,アルラルデ政務担当外務次官は,ラテンアメリカ統合連合(ALADI)に対して,チリ政府が二国間条約等においてボリビア政府に約束している通行の自由に対して作為的に制限を課しており,ボリビア産品の輸出に影響を及ぼしているとの主張を説明した。
- 5~6日,モラレス大統領はエクアドルにおいて開催された南米諸国連合(UNASUR)首脳会合に出席した。
- 9日,モラレス大統領は,ペルーにおいて開催された気候変動枠組条約第20回締約国会合(COP20)において演説を行った。
- 14日,モラレス大統領はキューバにおいて開催されたALBA首脳会合に出席した。同首脳会合は,「海への出口問題」におけるボリビア政府への支持表明を含む宣言文を発表した。
- 17日,モラレス大統領は,アルゼンチンで開催されたメルコスール首脳会合に出席し,米国による,石油価格の低下やハゲタカ・ファンドを通してのメルコスール加盟国への経済的攻撃に対抗するために恒常的なワーキング・グループの創設を主張した。
- 18日,外務省は,米・キューバ関係に関する声明を発表し,キューバと米国との間での外交関係再開のための歴史的合意を歓迎する旨発表した。
2 内政
(1)政府の動き
ア 2014年総選挙結果に基づく動き
(ア)1日,TSEは,10月の総選挙で当選した大統領,副大統領及び国会議員に対して当選の証明書を手交した。今次選挙において当選したうち,半数以上(50.43%)は女性の議員であり,また少なくとも80%は初当選の議員となった。
(イ)5日,ベラスコTSE長官は,ピント民主主義強化のための多文化局局長の更迭を行う旨のTSE大法廷の決定を発表した。同局長は,ガルシア・リネラ副大統領と幼少期からの友人であったが,同長官及びその他TSE判事との関係が悪化していたとされている。
(ウ)26日,モラレス大統領は2015年1月22日の大統領就任式及びそれに伴う閣僚交代の可能性について触れ,全閣僚に対して内閣に残るにしても内閣を去るにしても確りとした準備をしておくよう要請した旨発言した。
イ 憲法裁判所判事の弾劾裁判及び司法改革の動き
(ア)3日,下院議会は,憲法裁判所判事への弾劾裁判への根拠法となっており,上院に対して憲法裁判所の判事等を裁く権利を付与している第44号法律を改正した。右改正によって,上院の権能は上記判事等の資格停止処分のみとなり,資格停止処分を受けた判事等は通常の刑事裁判において裁かれることになる。本件改正は違憲であるとの批判が起きているが,5日,ボン・ボリエス最高裁判所長官は,刑事罰を科せるのは刑事法廷の判事のみであり本件改正は適切なものであると評価した。
(イ)4日,ロハス上院議長は,本件弾劾裁判は特殊な政治裁判である旨発言し,通常の刑事裁判とは異なる裁判である旨発言した。
(ウ)8日,ガルシア・リネラ副大統領は,司法は腐敗しており,その証拠として多くの市民が不正常な状態に苦しんでいることを挙げた。加えて,憲法裁判所判事に対しての弾劾裁判は,被告の判事3名が判事職を辞任すればその場で終了する旨発言した。
(エ)9日,上院は,憲法裁判所判事3名への弾劾裁判を開始し,健康面の問題から欠席したクシ判事に対しては,同判事が出廷拒否者であるとの宣言を行い同判事の逮捕を命じた。これに対して,10日,国連人権擁護官事務所,人権擁護官等は,本件裁判が十分な慎重さを伴うことを要請した。
(オ)11日,クシ判事は,車いすに乗って酸素ボンベをつけた状態で上院議会における弾劾裁判に出席し無罪を主張すると同時に,自らの健康状態に関する留意を要請した。
(カ)22日,カルビモンテス保健大臣は,上院における弾劾裁判にかけられているクシ憲法裁判所判事が,HIV患者であることを公式の場において発表してしまったために,法令を違反しているとの批判にさらされ,24日には,ガルシア・リネラ副大統領も,同大臣の発言は行きすぎた発言であったと認めたが,31日,モラレス大統領は同大臣への信頼を維持する旨発表し,同大臣を職務から解くことはしない旨発言した。
ウ 軍・警察関係
(ア)18日,モラレス大統領は,サリーナス将軍のボリビア国軍総司令官就任等の国軍幹部人事を発表し,就任式を実施した。
(イ)19日,モラレス大統領は,(三階級特進で)警察大将に昇任予定のルイス・エンリケ・セルート警察大佐を暫定的に国家警察長官に任命した。同臨時警察長官は,「警察技術の改善」,「警察内部の汚職撲滅」及び「警察官の規律遵守」という3つの目標の達成を公約した。
エ ビジェガス・ボリビア石油公社(YPFB)総裁の体調問題
24日,ガルシア・リネラ副大統領は,ビジェガスYPFB総裁が癌を患っており,一時的に現在のYPFB総裁の職務を離れる旨発表した。
(2)野党の動き
16日,ドリア・メディーナ国民統一(UN)党党首は,自らの保有するセメント会社SOBOCEの株式の51%をペルーのHolding Cemento S.A.社に3億米ドルで売却することを発表し,自らは政治活動に専念する旨述べた。
(3)2015年地方選挙
ア 3日,地方選挙向けの新有権者の指紋認証登録期間が終了した。今次登録期間中の登録者は225,182名であった。
イ 3日,チャコン元国防大臣(モラレス政権下)が,レビージャ・ラパス市長の市民団体SOL.boよりラパス市議会議員選に出馬する意向を表明した。
ウ 4日,バンイ・サンフアン市長は,憲法を尊重して再選は目指さず,一時的に政治活動を停止する旨発言した。
エ 7日,スアレス前ベニ県知事(前民主統一(UD)副大統領候補)は,UDからベニ県知事選挙に立候補することを発表した。
オ 10日,デルガド前下院議員は,コチャバンバ市長選に向けてUN党等との連立を組むことを発表した。UN党は,コスタス・サンタクルス県知事の率いる社会民主運動(MDS)党と本件に関しては協議しておらず,2014年10月の大統領選挙に向けて組織されたUD内での意見の齟齬が見受けられる結果となった。
カ 15日,ドリア・メディーナUN党党首は,MDS党との間で組んだ連立であるUDは10月の総選挙と共に期間を満了しており,地方選挙においては,両党とも独自の判断に基づいて選挙戦を戦うことを発表した。
キ 18日,TSEは回章第71号を発表し,2010~15年に国会議員であった者は,2015年3月の地方選(県知事選挙のみ除外)に立候補できない旨発表し,その理由として選挙区に少なくとも2年居住する必要がある点を挙げた。これに対しては,与野党から批判が巻き起こり,社会主義運動(MAS)党が3分の2を占める国会においても本件回章の説明を要請してTSEの判事を召還する決議等が行われた。これを受けて,23日,オバンドTSE副長官は,国会において本件に関して説明を行い,結果として説得力のある説明はなされなかったものの,ガルシア・リネラ副大統領(多民族国議会議長を兼任)は,本件TSEの発表に対していかなる反対もしない旨述べた。加えて,22日,モラレス大統領はTSEの回章第71号について発言し,最も悪影響を受けるのはMAS党であるが,TSEの決定を尊重する義務があると発言した。
ク 22日,SOL.boは,パチ元教育大臣(モラレス政権下)をラパス県知事候補とする旨発表した。
ケ 29日,2015年3月29日の地方選の立候補者登録期間が終了した。TSEは,1月8~12日に,4,975名の立候補者の候補者資格に関しての審査を行う旨発表し,加えて,政党の財務状況報告書を提出しなかったとの理由から,キリスト教民主党(PDC)及び民族民主行動(ADN)党の今次地方選参加資格を承認しなかった。
コ 30日,MAS党及びSOL.boは,ラパス市議会議員選挙の候補者を発表した。MAS党の市議会議員候補には,レスカノ国立サン・アンドレス大学前学長やミッチェル前通信省通信管理担当次官等が含まれており,SOL.boの市議会議員候補には,チャコン元国防大臣(モラレス政権下)等が含まれている。
(4)コカ葉栽培・麻薬・人身売買関連
10日,警察は年次報告を発表し,2014年は11,107ヘクタール分のコカ葉違法栽培を伐採し,19,293トンの麻薬を押収した旨発表した。伐採されたコカ葉違法栽培のうち,67%(7,387ヘクタール)はコチャバンバ県熱帯地方,29%(3,194ヘクタール)はラパス県ユンガス地方,4%(441ヘクタール)はサンタクルス県ヤパカニ地方,1%(81ヘクタール)はベニ県ホセ・バリビアン州において実施された。
(5)モラレス大統領等の支持率調査
25日付け当地「カンビオ」紙は,Ipsos Apoyo Opinion y Mercado社が実施したモラレス大統領及びガルシア・リネラ副大統領の支持率調査(大統領及び副大統領の「施策を認めるか」という質問)に関して,モラレス大統領への支持は75%,不支持が16%であり,ガルシア・リネラ副大統領への支持は65%,不支持は27%であると報じた。
(6)人権状況
10日,ビジェナ人権擁護官は,ボリビアの人権状況に関しての報告書を発表し,民主主義が脆弱化するリスクが存在しており,異なる意見に対しての不寛容,国家機構の独立性の脆弱化等にそれらの事象が現れていると評価した。
3 外交
(1)多国間関係
ア UNASUR首脳会合
(ア)モラレス大統領は,5~6日にエクアドルにおいて開催されたUNASUR首脳会合に出席した。加えて,翌7日,「南米統合は南米における自由を確保するための取り組みであり,我々は法律面も含めて南米を統合することを決定した」と述べてUNASUR創設の重要性を強調し,米州機構(OAS)やイベロアメリカ・サミットの役割に疑問を呈した。
(イ)14日,サンチェス公共事業・サービス・住宅大臣は,2015年3月にサンタクルス県においてボリビアを経由して伯とペルーをつなぐ両洋間鉄道建設計画に関して協議するためにUNASUR担当閣僚会合が開催される旨発表した。
イ 第13回ALBA首脳会合出席
14日,モラレス大統領はキューバにおいて開催されたALBA首脳会合に出席し,ALBAは国家間の連合というだけでなく市民の組織であると強調し,今後他の大陸に本件活動を広げていくことに希望を有している旨発言した。同首脳会合は,14日「海への出口問題」におけるボリビア政府への支持表明を含む宣言文を発表し,また,モラレス大統領が提案した気候変動に関する社会サミットの2015年ボリビア開催を承認した。
ウ メルコスール首脳会議
17日,モラレス大統領は,アルゼンチンで開催されたメルコスール首脳会合に出席し,米国による,石油価格の低下やハゲタカ・ファンドを通してのメルコスール加盟国への経済的攻撃に対抗するために恒常的なワーキング・グループの創設を主張した。エンダラ外務省経済担当次官は,ボリビアのメルコスール正式加盟は早くても2015年第1四半期であると述べ,パラグアイ等の加盟国の議会での承認が遅れている点を理由として挙げた。
エ 気候変動
(ア)9日,モラレス大統領は,ペルーにおいて開催された気候変動枠組条約第20回締約国会合(COP20)において演説を行い,資本主義に基づく解決策ではなく社会における共有材の観点からの取り組みが解決策であると述べ,COP20の合意文書に先住民の知恵が含まれるように要請すると同時に,先進諸国に対して,途上国の未来を盗まず,履行不可能な目標を立てるという嘘をつかず,また,排出削減の取り組みを怠らないよう要請した。
(イ)12日,サモラ環境・水資源大臣は,本件会合においてボリビア政府が要請していた,「母なる大地」の保護,自然との調和及び「良く生きる“Vivir Bien”」のコンセプトは先進国には受け入れられず,先進国は資本主義及び商業主義に基づく基準を押し通そうとしている旨発言した。
(2)二国間関係
ア 対欧州諸国・EU関係
(ア)2日,チョケワンカ外務大臣とリンデル当地駐在独大使は,35百万ユーロ(約43.3百万米ドル)の二国間の経済協力協定に署名した。20百万ユーロ分が無償資金協力にあたる。
(イ)10日,モラレス大統領は,空軍に対しての仏製ヘリコプター・スーパーピューマの引渡式において仏との良好な関係を強調し,オランド仏大統領と仏において会談する予定であると発言した。加えて,モラレス大統領は,仏から更に麻薬対策用及び航空関連向けレーダーを購入要諦である旨発言した。
イ 対米関係
(ア)7日付け「エル・デベール」紙が掲載したブレナン米国臨時代理大使のインタビューにおいて,同臨時代理大使は,米国にとって最も適当かつ利口な手段は,現在の状況を受け入れて,大使の交換を目指すことではなく臨時代理大使のレベルでの職務遂行を目指すことであり,政治的関係は決して緊密ではなくとも,通商,教育及び環境等の分野において関係を強化することは可能であると述べた。
(イ)11日,チョケワンカ外務大臣は,6年前から停滞しているに対米関係を再度前進させるために,ボリビア政府は米国政府に対してモラレス大統領とオバマ米国大統領との間の首脳会談の実施を要請した旨発表した。ブレナン米国臨時代理大使は米国政府もボリビアとの関係を向上させることに関心を有している旨発表した。
(ウ)17日,ブレナン米国臨時代理大使は,17日に発表された米国とキューバの間の関係再構築の取り組みがボリビア及びベネズエラにも伝播することを望む旨発言した。
(エ)18日,モラレス大統領は,メキシコ及びコロンビアにおける麻薬関連の問題は,両国が米国の支配のもと間違ったモデルを採用していることに基づく旨発言した。
(オ)23日,チョケワンカ外務大臣は,11月に米国政府高官がボリビアを訪問し,両国間の関係正常化の基礎作りのための交渉を行った旨発表し,両国の外務次官,外相級の会談を実施して首脳会談の下地を整える予定である旨発表した。
ウ 対チリ関係
(ア)2日,アルラルデ政務担当外務次官は,ALADIに対して,チリ政府が二国間条約等においてボリビア政府に約束している通行の自由に対して作為的に制限を課しており,ボリビア産品の輸出に影響を及ぼしているとの主張を説明した。ボリビア政府の主張は,チリ政府による制限は,ALADIの枠組みで締結された国際的な陸上輸送に関する協定(ATIT)の第15条に違反するという趣旨であり,本件に関してのALADIによる報告を要請するものである。
(イ)4日,サアベドラ国防大臣は,両国間の国境地帯の地雷の撤去が進まないことに関して,チリ政府は,地雷問題・対人地雷禁止条約(オタワ条約)に基づいて2011年までに地雷の撤去を約束していたにも関わらず,30%にも達しておらず,同条約に違反している旨説明した。
(ウ)6日,ジェフリー・サックス米国コロンビア大学教授(経済学)は,チリにおいて開催されたシンポジウム「ラテンアメリカの成長と共通の繁栄を確保するための挑戦」において,チリとボリビアの両国が更なる統合に向けて前進することが重要であり,「海への出口」問題の解決策を模索することが重要であると述べた。
(エ)12日,ALADIは,ボリビア政府が主張したチリ政府による通行の自由への侵害に関して,両国間で対話を行うことを要請し,4ヶ月後に二国間交渉の結果を報告するように要請した。上記交渉は2015年1月後半に開始する必要がある。
エ 対ベネズエラ関係
13~14日,ガルシア・リネラ副大統領はベネズエラを訪問し,同国が強力な力を有する国にとって危険な存在であり批判を受けているが,国民の解放の道を築いたと述べた。
オ 対ペルー関係
(ア)9日,ペルーにおいて,モラレス大統領はウマラ・ペルー大統領と会談を行い,環境保護,投資,両国国境地帯における治安,麻薬対策,不法鉱業,密輸入,砂漠化,人身売買等の両国の共通関心事項に関して協議した。ロドリゲス駐ペルー大使は,肯定的な会合であったと評価し,二国間の協力構築のために取り組む旨合意されたと述べた。
(イ)23日,チョケワンカ外務大臣は,2015年の上半期中にモラレス大統領とウマラ・ペルー大統領間の首脳会合が,両国の全閣僚同席の下実施予定である旨発表した。
(ウ)ペルーにおいて汚職の疑いから告訴されているマルティン・ベラウンデ氏(ペルー人企業家。元ウマラ・ペルー大統領顧問)は,1日,陸路にてペルーからボリビアに入国し,16日にボリビア国家亡命者理事会(Conare)に対して政治亡命申請を行った。
カ 対バチカン関係
13日,モラレス大統領はボリビアカトリック中央評議会との会合を行い,2015年に法王フランシスコがボリビアを訪問することがほぼ確実であると発表した。大統領は,19日にも同種の発言を行い,法王フランシスコは国際関係においてもボリビアを支持するであろうと述べた。
キ 対キューバ関係
(ア)15日,モラレス大統領は,ALBA首脳会合に出席するため訪問したハバナにおいて,カストロ・キューバ国家評議会議長と1時間にわたって非公開の会談を行った。
(イ)18日,外務省は,米・キューバ関係に関する声明を発表し,キューバと米国との間での外交関係再開のための歴史的合意を歓迎する旨,及び,ボリビア政府は両国間の外交関係再開の次のステップが対キューバ経済封鎖の解除であることを望む旨発表した。
(了)