ボリビア内政・外交(2014年7月)

平成26年8月29日

1 概況

(1)内政

  • 6日,モラレス大統領は独立記念日特別議会において演説を行い,2020年までに国民の95%への電力供給や1千メガワットの電力輸出等を達成し,2025年までに極貧の撲滅,医薬品輸出,石油化学分野の産業化等を達成することを目標として掲げ,近日中に中国開発大臣がボリビアを訪問予定である旨発表した。
  • 10日,アルセ国家利益擁護官は,憲法改正も含め,国民投票に基づく罷免を可能とするためのメカニズムを探っていると発言した。
  • 20~23日,コロン米州機構(OAS)選挙監視団団長(前グアテマラ大統領)がボリビアを訪問し,最高選挙裁判所(TSE)及びモラレス大統領を含む各大統領候補との会合等を実施し,ベラスコTSE長官との間で選挙監視参加のための合意に署名した。
  • 20日,TSEは,10月選挙に参加する各候補者の映像・写真・声を含むTVスポット及び広告メッセージの放送を9月12日まで禁止する旨決定した。

(2)外交

  • 3日,アルラルデ政務担当外務次官は,7月24日にピルコマヨ川の使用等に関する三国委員会の会合に参加し,ピルコマヨ川からは15km以上離れている地点までしか汚染物質が到達しなかった旨説明した旨発表した。
  • 7日,モラレス大統領は,Li Dongボリビア駐在中国大使と会合を行い,二国間のプロジェクトや経済状況等に関しての検討を行った。
  • 14日,外務省は,「海への出口」問題に関する国際司法裁判所(ICJ)提訴に関しての当地駐在外交団向け説明会を実施した。
  • 16~17日,サンタクルス県オキナワ移住地において,同移住地移住60周年の式典が開催され,高良沖縄県副知事(県知事代理),椿駐ボリビア大使,コスタス・サンタクルス県知事,アルラルデ政務担当外務次官等が出席した。
  • 29日,チョケワンカ外務大臣は,サアベドラ新駐日大使の宣誓式を外務省において実施し,同新大使に対し100年以上の歴史がある二国間関係を更に緊密なものにすることを要請した。

2 内政

(1)政府の動き

 8月6日独立記念日特別議会の実施

 6日,モラレス大統領は,独立記念日特別議会において演説を行い,2014年の経済成長率は南米地域で第1位となる見込みである等の好調な経済状況のデータを示した上で,2020年までに国民の95%への電力供給や1千メガワットの電力輸出等を達成し,2025年までに極貧の撲滅,農産品の生産拡大・輸出のための農地確保,医薬品輸出,石油化学分野の産業化等を達成することを目標として掲げ,インフラ整備のための融資交渉のために,近日中に中国の開発大臣がボリビアを訪問予定である旨発表した。


 TCP判事への弾劾裁判及び司法改革関連

 (ア)1日,下院は2名のTCP判事の非難決議を上院に送付し,7日,上院は,本件弾劾裁判を実施するための判決法廷を組織した。ロハス上院議長は,「次のステップは,同TCP判事2名への通達であるが,これに関しては明確な期限はない」旨説明し,通達後10日以内に被告のTCP判事2名は弁明を行うこととなると述べた。

 (イ)12日,資格停止処分を受けているチャネスTCP判事は,未だ正式な通達は受けていない旨発言していたが,18日,ロハス上院議員は,既に判事2名に本件通達を実施しており,同判事は申し開きのための書類を提出する必要がある旨説明した。22日,チャネス判事は,100以上の証拠に基づく申し開き書を上院に提出し,行政府による政治的迫害を告発した。

 (ウ)10日,アルセ国家利益擁護官は,現行憲法に基づけば,国民投票に基づく罷免は,国民投票によって選出された全ての政府関係者に対して実施可能であるが,唯一の例外が司法府の高官であると説明し,憲法改正も含め,司法官の国民投票に基づく罷免を可能とするためのメカニズムを探っていると発言し,11日,グティエレス大臣は,右メカニズムができるまでは国会による弾劾裁判手続きを維持する予定であると述べた。


 軍備増強

 (ア)1日,モラレス大統領は,麻薬対策及び治安対策の強化を目的として,仏製ヘリのスーパーピューマ1機を国軍に引渡した。本年12月には2機目が,その後,2015年に2機,2016年にも数機が引き渡される予定であり,同大統領は,加えて,現在フランスとの間でレーダーを購入するための交渉も行っていると発言した。

 (イ)7日,モラレス大統領は,国軍の創設189周年の式典において,炭化水素直接税(IDH)を資金とする防衛のための基金を創設し,国境地帯での軍の宿舎の建設やロジスティックス及び作戦実施の分野での能力向上に充てる旨発表した。他方で,サアベドラ国防大臣は,本件を規定するための法律策定に将来的に取り組む予定であると述べた。


 「ラ・ラソン」紙に対しての告発

 「ラ・ラソン」紙の記者が諜報活動と国家機密の暴露による公共の秩序に対する罪を理由に告訴されていた件につき,5日,ラパス県地方裁判所は,本件の管轄権を否定し,印刷物に関する法律に基づいて本件が処理されることを決定した。アルセ国家利益擁護官は,本件決定を受け入れ,控訴等はしない旨発言し,これによって,情報源の秘匿等に関する「ラ・ラソン」紙の主張が認められることとなった。


(2)2014年大統領選挙に向けた動き

 OAS選挙監視団関連

 (ア)11日,OASは,本年の大統領・国会議員選挙の選挙監視団の団長にアルバロ・コロン前グアテマラ大統領を指名し,選挙監視団を派遣することを公式に発表した最初の国際組織となった。

 (イ)20~23日,コロンOAS選挙監視団団長がボリビアを訪問し,TSE及びモラレス大統領を含む各大統領候補との会合等を実施し,ベラスコTSE長官との間で選挙監視参加のための合意に署名した。同団長は,全県における選挙監視のために約50名の選挙監視員を派遣する方向で調整している旨発言し,OASの職務は選挙の監視であり,選挙違反等に関しての判断をする裁判所の役割を果たすことは出来ない旨強調した。

 (ウ)23日,コロン団長は,各党から受けた告発等に関しての分析をOASは実施する旨発言する一方で,与えられている権能の範囲内で本件を分析予定であり,受けた異議の大半は,尊重することが前提の選挙システムに対するものであると発言した。

 各党の選挙活動及びTSEの行動

 (ア)4日,TSEは投票用紙における各政党の並び順決定のための抽選を実施し,各党からの反対が出なかったことを受けて,11日,正式に右投票用紙の使用を決定した。

 (イ)12日,アベル・ママニ元水資源大臣は,4年間所属したMSM党を離党し,モラレス大統領の招待を受けて一度離党したMAS党への復党を決定した。

 (ウ)15日,ベラスコTSE長官及びオバンド同副長官は2012年~14年の2年間の任期を終了したが,TSEの判事全員が出席する大法廷において,7名中6名の賛成を得て同長官及び副長官の続投が決定された。同長官及び同副長官は,TSEへの批判も受け止めて問題解決につなげる旨発言して,TSEが客観的な視点を有した組織である点を強調した。

 (エ)18日,ベニ県地方裁判所は,スアレス民主統一(UD)副大統領候補が国外においても選挙活動を実施できるようにするために,同候補に課されている国内残留強制処分2件のうちの1件を一時的に中止する旨発表した。

 (オ)20日,TSEは,10月の総選挙に参加する各候補者の映像・写真・声を含むTVスポット及び広告メッセージの放送を9月12日まで禁止する旨決定しボリビア国内メディアに対して指示した。右決定によって,野党候補は,テレビ広告等を流せなくなる一方で,現政権は,引渡式の様子等をテレビで流しており,野党候補に対して不利な決定であるとの批判があがっている。

 (カ)21日,当地司教会議は声明を発表し,現政権は,政権の座に長く就いていることを目的に,「行政の取り組み」と称して選挙活動を行っていると述べた。これに対して,22日,ダビラ通信大臣,アルセ経済・財政大臣,エリオ下院議長等が,カトリック教会が政治に介入していると批判した。

 (キ)22日,モラレス大統領は,TSEによる禁止を無視して,4社のテレビ局が放送するラパス県内の公共事業の引渡式において同県の上下院議員候補を紹介し,TSEに罰金を払う準備があると述べた。これに対して,26日,TSEはMAS党及び右引渡式を放映していたテレビ局のうち国営Bolivia TVに対して,約13万ボリビアーノス(約1,850米ドル)の罰金を科す旨発表した。

 (ク)26日,ドリア・メディーナUD大統領候補は,モラレス大統領が,ガソリンへの補助金への撤廃(注:2010年に同種の政策を実施しようとしたが,国民の大規模な反対にあって最高政令の取り消しを行った)を意図していると述べた。27日,これに対して,ガルシア・リネラ副大統領は,右発言を否定し,現在一部輸入している炭化水素資源の生産量を増やすための取り組みを実施している点を強調した。

 (ケ)26日,オレジャーナ恐れなき運動(MSM)党上院議員候補は,モラレス大統領が,G77+中国首脳会合は,大統領選挙に向けた選挙活動の一環であったと認める発言をしている会話の録音を公表したが,28日に,コチャバンバ県庁が同候補に対して行っている裁判を理由に収監された。30日,これに対してMSM党は,緊急事態を宣言し,同候補の解放を求めるためのデモの実施をMSM党員に呼びかけた。


(3)コカ葉栽培・麻薬関連

 18日付け「カンビオ」紙は,ハンスマンEUプロジェクト担当が,コカ葉の栽培や麻薬対策等に関して規定する法令1008号を現状に沿ったものに改訂する必要があり,現在の法律を2つに分けて,コカ葉に関する法律と麻薬対策に関する法律の2つの法律を制定する必要があると発言し,ボリビアの違法コカ葉栽培対策の成果を強調した旨報じた。


 27日,米国からブラジルの麻薬組織「首都第一コマンド(PCC)」に対して武器を供給していたとして,ボリビア警察及び郵政公社(Ecobol)関係者等が拘束された。これに対して,ECOBOLは声明を発表し,本件に関しての調査のための協力をすることを約束した。


(4)大統領支持率の推移

 26日付け当地主要紙は,Equipos Mori社が実施した各候補への投票動向(Intencion de Voto)調査に関して報じているところ,概要以下の通り。

 (ア)同社が都市及び農村部の計93市町村で18歳以上の有権者2,003名に対して8月5~21日に実施した投票動向調査(質問:「今週の日曜日が大統領選挙の投票日であればどの候補者に投票しますか」)の結果以下の通り。()内は前回調査の結果。

  • モラレス大統領(与党社会主義運動(MAS)党) 56%(52%)
  • ドリア・メディーナUD候補 17%(15%)
  • キロガ・キリスト教民主党(PDC)候補 6%(4%)
  • デル・グラナドMSM党候補 3%(4%)
  • バルガス・ボリビア緑の党(PVB)候補 0.4%(0.5%)
  • 白票 8%(8%)
  • 無回答 2%(4%)
  • 分からない 8%(12%)

 (イ)上記調査結果に基づけば,「モ」大統領は,第一回投票で大統領に選出されることとなり,MAS党が上院36議席の3分の2の24議席を,UDが3議席を獲得することは確実であり,残りの9議席をMAS党,UD及びPDC党で争うことになる。


 31日付け当地「パヒナ・シエテ」紙は,Tal Cual Comunicacion Estrategica社が実施した投票動向調査に関して報じているところ概要以下の通り。

 (ア)同社が国内主要都市や農村部等の計28市町村で18歳以上の有権者2,250名に対して8月23,24日に実施した投票動向調査(質問:「今週の日曜日が大統領選挙の投票日であればどの候補者に投票しますか」)結果以下の通り。()内は前回調査の結果。

  • モラレス大統領(MAS党) 50.2%(44.6%)
  • ドリア・メディーナUD候補 19.1%(19.8%)
  • キロガPDC党候補 9.1%(7.5%)
  • デル・グラナドMSM党候補 2.7%(5.1%)
  • バルガスPVB党候補 0.2%(0.5%)
  • 無回答,分からない 11.3%(前回調査結果なし)
  • 誰にも投票しない 7.4%(前回調査結果なし)

 (イ)本件結果に基づけば,MAS党は上下院の両方で,3分の2以上の議席を獲得することが計算上は示され,上院は,36議席中28議席をMAS党が,UDが7議席,PDC党が1議席を獲得することとなり,下院においては,MAS党が83議席,UDが27議席,PDC党が11議席,MSM党が2議席を獲得する計算となる。

3 外交

(1)多国間関係

 G77+中国

 15日,炭化水素・エネルギー省は,8月24,25日にタリハ県で開催される予定であった天然資源の産業化に関するG77+中国閣僚級会合を,国際情勢等を勘案して,延期する旨発表した。


 サンパウロ・フォーラムの開催

 25~29日,ボリビアにおいてラテンアメリカの左派政党の集まるサンパウロ・フォーラム及び右関連会合が開催され,17ヶ国の左派政党関係者等が出席したが,他国の主要政治家の出席はなかった。28日には,ガルシア・リネラ副大統領が,同フォーラムの開会式において演説を行い,新自由主義は終わりを迎えつつあると述べて,左派系の社会運動団体及び革新的政府の経済・生産統合を達成することを目標として掲げた。29日,同フォーラムは,ボリビアとチリとの間の「海への出口」問題の対話に基づく解決への支持,パレスチナ国家建設への支持等を謳う宣言を採択し,また,本年大統領選挙を控える左派政権に対しての支持を表明する特別宣言を採択した。


 ピルコマヨ川への鉱山排水流出問題

 3日,アルラルデ政務担当外務次官は,7月24日にピルコマヨ川の使用等に関する三国委員会の会合に参加し,堤防の決壊した箇所から14kmの地点まで汚染物質は到達したが,ピルコマヨ川から15km以上離れている地点で停止した旨説明し,アルゼンチン・パラグアイ両国政府共に,ボリビア政府の報告を聞いて納得し安心している旨述べたが,雨期に本件が起きていれば,話は別であったと述べた。同次官は,いずれにせよ,今後も三国委員会が本件をフォローアップする旨発表した。


(2)二国間関係

 対日関係

 (ア)16~17日,サンタクルス県オキナワ移住地において,同移住地移住60周年の式典が開催され,高良沖縄県副知事(県知事代理),椿駐ボリビア大使,コスタス・サンタクルス県知事,アルラルデ政務担当外務次官等が出席した。加えて,同移住地とサンタクルス市を結ぶ道路舗装実施のために,JICAがF/S調査を実施予定である旨発表した。

 (イ)29日,チョケワンカ外務大臣は,サアベドラ新駐日大使の宣誓式を外務省において実施し,同新大使に対し100年以上の歴史がある二国間関係を更に緊密なものにすることを要請した。同新大使は,鉱業,農業及び工業分野における日本企業の投資を呼び込む可能性について触れ,経済分野における日本企業の更なる投資,文化及び人的交流分野における更なる統合の促進を目指すと述べた。


 対中関係

 (ア)7日,モラレス大統領は,Li Dongボリビア駐在中国大使と会合を行い,二国間のプロジェクトや経済状況等に関しての検討を行った。本件会合は,6日の独立記念日の大統領演説において,ブラジル・ボリビア・ペルーを通過する両洋間鉄道建設のための融資の可能性検討のために中国の開発大臣がボリビアを訪問する旨発表された翌日に実施され,同大使は,供与や経済協力,中国製航空機の購入等多くのテーマに関して協議した旨述べた。

 (イ)27日,コチャバンバ県のUnivalle大学は,中国孔子学院と協定を結び,同年9月1日から,半年で1,050ボリビアーノス(約150米ドル)の授業料で受講できる中国語講座(学生以外も受講可能)を開講することを決定した。


 対米関係

 7日,カルロス・メサ元大統領(「海への出口」問題のICJ提訴に関する説明を国際社会に行うための特別担当)は,ICJ提訴の観点からは,ボリビアが米国との外交関係を正常化させることは極めて重要且つ必要不可欠である旨発言した。


 対チリ関係

 (ア)在チリ・ボリビア総領事公邸において実施されたボリビア独立記念日祝賀行事に参加するためにチリを訪問していたアルラルデ政務担当外務次官は,7日,ムニョス・チリ外相の招待を受けて,同外相を表敬訪問した。アルラルデ次官は,会合後,「両国間の違いを乗り越えるための方策は対話であると常に考えてきた」旨述べており,ムニョス外相は,常に,「海の出口」問題以外の共通のテーマに関しての対話を再開する準備がある旨発言した。

 (イ)14日,ボリビア外務省は,「海への出口」問題に関するICJ提訴に関しての当地駐在外交団向け説明会を実施した。本件説明会には,アルラルデ政務担当外務次官及びカルロス・メサ元大統領が参加し,メサ元大統領は,25分間に亘って本件に関しての説明を実施した後に,出席者からの質問等を受け付けた。


 対ペルー関係

 5日,チョケワンカ外務大臣は,グスタボ・ロドリゲス駐ペルー大使の就任式を実施し,同大使は,ボリビアにイロ港を通じた太平洋へのアクセスを認めるイロ協定の補完議定書がペルー国会で承認されるためのロビー活動が重要な任務の1つであると述べた。他方で,モラレス大統領とウマラ・ペルー大統領の間での首脳会談の日程等は未定であると述べた。


 対伯関係

 12日,ボリビア検察庁は,伯の国家亡命者理事会(Conare)に対して,マルセロ・ソサ元判事の政治難民申請を拒否するよう要請し,その理由として同元判事は,伯に難民申請を行った際に既にボリビアにおいて起訴を受けていた点を上げた。


 対亜関係

 27日,ソサ炭化水素・エネルギー大臣は,デビード亜公共事業大臣とエネルギー交換に関する覚書に署名した。本件覚書は,2007年8月に結ばれたエネルギー統合に関する枠組み協定に基づくものであり,対亜エネルギー輸出のための第一歩を踏み出した。


 対パレスチナ・イスラエル関係

 30日,7月30日にモラレス大統領が発表した,イスラエル国民に対して,ボリビア入国のための査証免除措置の撤廃が施行され,イスラエル国民に対しては,これまで免除となっていた査証が要求されるようになった。