ボリビア内政・外交(2014年6月)
1 概況
(1)内政
- 17日,国民統一(UN)党と社会民主運動(MDS)党は,両党の本年大統領・国会議員選に向けた連立と,ドリア・メディーナUN党党首を大統領候補に,MDS党に所属するスアレス前ベニ県知事を副大統領候補に擁立することを発表した。
- 23日,国連薬物犯罪事務所(UNODC)作成の2013年コカ葉栽培監視報告書が発表され,デ・レオUNODC所長は,2013年の国内のコカ葉栽培面積は23,000ヘクタールであり,過去11年間で最小となったこと等を発表した。
- 25日,モラレス大統領は,国営の鉱山企業が収益を上げるようになれば,天然資源を回復するために,その他の鉱山を国有化するための署名の際にも「手は震えないであろう」と発言した。
(2)外交
- 5日,ベアード・カナダ外務大臣はボリビアを訪問し,モラレス大統領との会談において,経済発展や米州機構(OAS)における職務,カナダ政府が重視しており,ボリビア政府とも協力を検討している母子向けの政策等に関して意見交換を行った。
- 12~15日,G77+中国首脳会合出席のため潘基文国連事務総長夫妻がボリビアを訪問し,首脳会合前には,サンタクルス県内の公共事業及び機材の引渡式にモラレス大統領と共に出席した他,カストロ・キューバ国家評議会議長,マドゥーロ・ベネズエラ大統領,フェルナンデス亜大統領等との会談を行った。
- 14~15日,G77+中国首脳会合「良く生きる(Vivir Bien)ための新たな経済社会秩序に向けて」が開催され,モラレス大統領に加え,潘基文国連事務総長や各国首脳,代表団が出席した。
- 25日,モラレス大統領は,7月14、15日に伯において開催予定のBRICS首脳会合の枠内で,モラレス大統領との二国間首脳会談を実施するために,習近平中国国家主席がモラレス大統領を招待した旨発表した。
2 内政
(1)政府の動き
ア モラレス大統領の鉱山の国有化に関する発言
25日,モラレス大統領は,かつて国有化されたワヌニ鉱山を訪問し,3億5千ボリビアーノスの資金をワヌニ国営鉱山会社に供与する最高政令に署名した際に,国営の鉱山企業が収益を上げるようになれば,天然資源を回復するために,その他の鉱山を国有化するための署名の際に「ボリビア政府の手は震えないであろう」と発言した。
イ 司法改革関連
28日、モラレス大統領は,司法改革は達成されなかったと述べ,他の分野では改革が達成されたか達成途中にあるにもかかわらず,司法分野の改革は現在も停滞していると発言し,30日,グティエレス法務大臣は,2011年に実施された法務官選挙は失敗であった旨発言した。
(2)2014年大統領選挙に向けた動き
ア 大統領・国会議員選挙日程・選挙人登録等
(ア)5日,最高選挙裁判所(TSE)は,9日まで延長された国内選挙人登録を20日まで再度延長することを発表した。選挙人登録所において多くの問題が発生したため,今次再延長が決定されたが,ベラスコTSE長官は,登録開始から最初の13日間に登録した国民は少なく,全体の登録者の60%以上が最後の8日間に集中したと述べた。
(イ)10日,TSEは,海外選挙人登録において,33カ国で141,630名の選挙人が登録され,128,276名(90.5%)が,アルゼンチン(51,807名),スペイン(43,640名),ブラジル(21,706名)及びチリ(11,123名)に集中していると発表した。日本において選挙人登録を行ったボリビア人は147名であった。
(ウ)20日,国内選挙人登録期間が終了し,TSEは都市部において128万8,505人が選挙人登録を実施し,うち54%が新たに18歳以上になった新規選挙人であり,46%が住所変更に伴う再登録であった旨及び本件数値は農村部の数値を含んでいないため今後増加する旨発表した。
(エ)23日,TSEは,各党の正規(titular)議員の候補者のうち50%以上が女性の候補者であることを義務づける規則を承認した。
イ 小選挙区画定
(ア)2日,TSEは,ラパス県の5つの小選挙区,ポトシ県の1つの小選挙区及びチュキサカ県の1つの小選挙区の変更を発表し,変更を求めて道路封鎖を実施していた住民団体は道路封鎖を解除した。ベラスコTSE長官は,本件は憲法の定める地理的連続性と類似性の原則に基づく修正であると強調し,住民団体の圧力に屈したわけではないと発言した。
(イ)14日,ラパス県北部の住民団体は,2日に発表した変更を再度修正することを求めて,デモ行進の実施を決定した。これに対して,パレデスTSE判事は,変更について説明する用意はあるが,これ以上の修正は実施しない旨発言し,27日,ベラスコTSE長官も,既に投票所の設置場所等も公表され,選挙プロセスは次の段階に入っているために,小選挙区変更は不可能であると再度説明した。
ウ 各党の動き
(ア)2日,本年大統領・国会議員選挙への参加を目指して,パチ元教育大臣等の元MAS党指導者及び元党員で構成された「第三の選択肢(Tercera Opcion)」の結成が発表された。
(イ)3日,恐れなき運動(MSM)党は,本年大統領選挙に向け,デルガド下院議員との連立関係を結んだ。同議員は,憲法制定議会のメンバーであった他,2012年には下院議長の職務も務めたが,同年11月に,「財の所有権剥奪のための法律」案の承認を巡って,ガルシア・リネラ副大統領等と衝突した後,自由思考主義者(Librepensante)を自称し,MAS党内の反対派となっていた。
(ウ)4日,ボリビア緑の党(PVB-IEP)は,イシボロ・セクレ国立公園(TIPNIS)地域の指導者であるフェルナンド・バルガス氏を大統領候補に擁立する旨決定した。
(エ)6日,MDS党の執行部は,同党党首であり大統領候補であるコスタス・サンタクルス県知事に対して,近日中に副大統領候補の提案をすることを要請する決議を採択した。
(オ)8日,MAS党は全国集会を開催し国会議員の候補者選出等に関して協議した。モラレス大統領は,野党を批判し,MAS党指導部に対して規律と統一性を要求する一方で,党員以外の候補者の擁立の可能性は否定しなかった。
(カ)17日,UN党とMDS党は,本年大統領・国会議員選に向けての政治連立を発表し,民主統一協定(Concertacion de la Unidad Democratica)の旗印の下,ドリア・メディーナUN党党首を大統領候補に,MDS党に所属するスアレス前ベニ県知事を副大統領候補に擁立することを発表した。デル・グラナドMSM党党首は,上記連立によるMSM党の選挙活動への影響を否定する一方,将来的にMDS党と協力する可能性は残されている旨述べた。
(キ)20日,ボリビア鉱山協同組合(FENCOMIN)は,ラパス市内において大規模な集会を開催し,モラレス大統領とガルシア・リネラ副大統領のペアを支持する旨表明した。
(ク)26日,FAへの参加を表明していた左派系グループは,ドリア・メディーナUN党党首がMDS党との連立を決定したことを理由に,FAからの離反を決定した。
(ケ)28日,モラレス大統領は,MAS党党員等に対して,極貧撲滅,国民全員への基礎サービスの提供,科学技術改革,産業化,食料生産の確保,母なる大地の尊重,司法改革等を謳った12項目からなる政権公約案を提示した。加えて,モラレス大統領は,2020年までにボリビアにおいて原子力発電を実施すること等を目標として掲げた。
(3)コカ葉栽培・麻薬関連
ア 23日,外務省においてUNODC作成の2013年コカ葉栽培監視報告書が発表され,デ・レオUNODC所長は,2013年中のボリビア国内におけるコカ葉栽培面積は23,000ヘクタール(対前年比で9%減少)であり,過去11年間で最小となった点等を発表し,長期的視点に基づく農民参加による総合開発のためのプログラムの必要性を強調した。
イ 25日,プチョ農村開発・土地省コカ総合開発担当次官は,域内諸国に対して,コカ葉加工品を輸出するための手続きを始めており,エクアドルとキューバに対してコカ茶を輸出するために,両国政府からの回答を待っている段階であると発表した。同次官は,1961年麻薬単一条約は,自然な状態でのコカ葉の輸出を禁止しているものの,コカ葉の加工品であれば二国間の合意に基づいて輸出も可能となると主張している。
(4)2015年地方選挙
26日,オバンドTSE副長官は,2015年5月に各県県知事や市長等の地方自治体首長がその任期を終了するものの,県知事選挙においては決選投票の可能性があることを理由に,地方選挙は同年2月,または3月に実施される旨発言した。
(5)大統領支持率の推移
ア 11日付け当地「ラ・ラソン」紙は,Captura Consulting社の実施した,投票動向(intención de voto)調査において,モラレス大統領が44.3%,ドリア・メディーナUN党党首が15.3%,コスタス県知事(MDS党党首)が11.7%,デル・グラナドMSM党党首が3.6%を獲得した旨報じた。
イ 29日付け当地「カンビオ」紙(政府系)は,Tal Cual社,Captura Consulting社及びIpsos Apoyo Opinion y Mercado社が6月に実施したモラレス大統領及びガルシア・リネラ副大統領の支持率(Aprobacion)及びTal Cual社が実施した有権者の投票動向(Intencion de Voto)に関して以下の通り報じた。
(ア)モラレス大統領支持率
- Tal Cual社 支持:72% 不支持:25%
- Captura Consulting社 支持:62.6% 不支持:27.9%
- Ipsos Apoyo Opinion y Mercado社 支持:73% 不支持:17%
(イ)ガルシア・リネラ副大統領支持率
- Tal Cual社 支持:61% 不支持:36%
- Captura Consulting社 支持:52.6% 不支持:38.4%
- Ipsos Apoyo Opinion y Mercado社 支持:60% 不支持:30%
(ウ)Tal Cual社が6月に実施した投票動向(Intencion de Voto)調査結果
- モラレス大統領(MAS党) 41.9%
- ドリア・メディーナUN党党首 22.7%
- コスタス・サンタクルス県知事(MDS党党首) 9.6%(9.3%)
- デル・グラナドMSM党党首 4.6%(5.9%)
- キロガ元大統領 1%
- ヒル下院議員 0.8%
3 外交
(1)多国間関係
ア チョケワンカ外相の第44回OAS総会出席
4日,チョケワンカ外相は,パラグアイにおいて開催された第44回OAS総会に出席し,ボリビア政府による「海への出口」問題に関するICJ提訴の平和的な性格への理解を求めると同時に,チリとの間の「平和的かつ誠実な」対話に,OASも参加するよう要請した。
イ G77+中国首脳会合
(ア)3日,フェレイラG77+中国首脳会合担当大使は,潘基文国連事務総長がG77+中国首脳会合に出席することを発表した。
(イ)14~15日,サンタクルス県サンタクルス市において,G77+中国首脳会合「良く生きる(Vivir Bien)ための新たな経済社会秩序に向けて」が開催され,モラレス大統領等ボリビア政府高官に加え,潘基文国連事務総長,アッシュ国連総会議長,オビアン赤道ギニア大統領,カストロ・キューバ国家評議会議長,ナウラティカウ・フィジー大統領,ムヒカ・ウルグアイ大統領,ラージャパクサ・スリランカ大統領,マドゥーロ・ベネズエラ大統領,ハミド・バングラデシュ大統領,サンチェス・セレン・エルサルバドル大統領,フェルナンデス亜大統領,ムガベ・ジンバブエ大統領,コレア・エクアドル大統領,ウマラ・ペルー大統領,カルテス・パラグアイ大統領等を含むメンバー国133カ国のうち129カ国の代表が出席した。同首脳会合においては,天然資源の国有化やポストMDGs策定のための取り組みの重要性,途上国の国際機関における意思決定機関へのより広範な参加の必要性,2030年までの貧困撲滅のための国際社会の責任等を謳ったサンタクルス宣言が採択された。
(ウ)14日,モラレス大統領は,G77+中国首脳会合に出席するためにボリビアを訪問した陳竺(Chen Zhu)中国全国人民代表大会常務委員会副委員長,ヤハンギリ・イラン副大統領,ガリブ・ビラル・タンザニア副大統領,ハミド・バングラデシュ大統領,ガインゴブ・ナミビア首相等と二国間会合を実施した。陳副委員長よりボリビア国営BoA航空の航空機購入のために80百万ドルの融資提供が提案された他,ヤハンギリ・イラン副大統領からは2億ドルの融資が提案された。
(エ)16日,モラレス大統領は,「天然資源の管理に関する紛争」及び「天然資源の産業化に関するガバナンス」という2つのテーマに関する国際フォーラムを実施し,メンバー国の閣僚及び専門家を招待する旨発表し,24日,右閣僚級フォーラムを8月25,26日にタリハ県において実施する旨発表した。
ウ 潘基文国連事務総長の当地訪問
(ア)12~15日,潘基文国連事務総長夫妻はG77+中国首脳会合出席のためボリビアを訪問し,13日にはサンタクルス県内においてモラレス大統領等と共に公共事業及び機材の引渡式に出席した他,9月22,23日に実施される先住民族世界会議及び環境関連会合にモラレス大統領を招待した。
(イ)14~15日,同事務総長は,カストロ・キューバ国家評議会議長,マドゥーロ・ベネズエラ大統領,フェルナンデス亜大統領等との会談を行った。
エ ボコバUNESCO事務局長のボリビア訪問
15~17日,ボコバUNESCO事務局長はボリビアを公式訪問し,ポトシ県のセロ・リコ鉱山について危機に瀕している世界遺産の宣言をすべきであるとの勧告を発表した。一方で,17日,ボリビア政府の社会包摂政策・教育政策の成果に祝意を表明し,今後の課題は,教育の質の向上であると述べた。
(2)二国間関係
ア 対中関係
25日,モラレス大統領は,7月14,15日に伯において開催予定のBRICS首脳会合の枠内で,モラレス大統領との二国間首脳会談を実施するために,習近平中国国家主席が,モラレス大統領を招待した旨発表し,同首脳会合において,これまで中国企業がボリビア政府と結んだ契約に関して報告する予定であると述べた。
イ 対カナダ関係
5日,ベアード・カナダ外務大臣はボリビアを訪問し,モラレス大統領との会談の際に,経済発展やOASにおける職務,ボリビア政府とも協力を検討している母子向けの政策等に関して意見交換を行った。加えて,ボリビアとの通商・協力関係強化にカナダ政府は強い関心を有しており,中でも,鉱業とエネルギー分野での協力強化を優先したい旨発言した。
ウ 対チリ関係
(ア)16日,大統領府において,カルロス・メサ元大統領による「海の本」(ボリビアの「海への出口」問題に関する主張等を記述した本)の発表会が開催され,モラレス大統領は,右「海の本」は,G77+中国首脳会合の際に参加メンバー国に配布された点及びメサ元大統領は,本件に関しての説明を目的に諸外国及び国際機関を訪問する旨発表した。
(イ)24日,チョケワンカ外相は,G77+中国首脳会合の場において,太平洋戦争後にチリに割譲したリトラル県を含むボリビア地図を使用した「南半球の時計(注:南半球と北半球では,太陽の動きが異なる以上,時計も逆方向に進むべきであるという主張のもと,時計の針が反対に進むように設計されている)」を出席者に配布した旨発表した。
(ウ)30日,モラレス大統領は,バチェレ・チリ大統領の米国訪問の際に,オバマ大統領に「海への出口」問題に関するチリ政府の立場を説明するとの情報を得たことから,「オバマ大統領からバチェレ大統領に対して,パナマ運河の例を参考にして,どのように領土を返還することが可能か教えてあげてほしい」旨発言した。
エ 対中南米諸国関係
(ア)対エルサルバドル関係
1日,モラレス大統領は,サンチェス・セレン・エルサルバドル新大統領の就任式に出席し,ゲリラ出身である同大統領の就任は,民主的な国民の解放を意味すると発言した。
(イ)対コロンビア関係
15日,モラレス大統領は,コロンビア大統領選挙におけるサントス大統領の再選の決定を歓迎し,ボリビア国民を代表して祝意を表明した。
オ 対アジア・中東諸国関係
(ア)対スリランカ関係
16日,ラージャパクサ・スリランカ大統領は,G77+中国首脳会合出席後に,ラパス県を訪問し,モラレス大統領と首脳会談を実施した他,今次訪問が今後の二国間関係の強化・両国間の統合のための第一歩となることを期待する旨発言し,人権尊重と他国からの支配への対抗のために,二国間関係を強化する意思を表明した。
(イ)対イラン関係
3日付け当地「カンビオ」紙は,エリオ下院議長がイランを訪問し,ラリジャニ・イラン国会議長と会合を行った旨,及び,右会合において,エリオ議長は,米国の中東諸国への介入政策を批判し,ラリジャニ議長は,ラテンアメリカ諸国の帝国主義諸国に対峙するための社会主義的政策を賞賛した旨報じた。
(ウ)対シリア関係
6日,エリオ下院議長は,自らも監視団の一員として参加したシリアにおける選挙に関して,「透明かつ感動的」な選挙であったと発言し,アル・アサド政権下での10万人以上の殺害に関しては,米国の仕業であると発言した。
(了)