ボリビア内政・外交(2014年5月)

平成26年6月30日

1 概況

(1)内政

  • 5日,抗議活動を行っていたボリビア国軍の下士官代表はその中止を発表し,19日までに,ボリビア国軍は632名の強制退役処分の取り消しを発表した。
  • 13日,最高選挙裁判所(TSE)は,7日に発表した規則が国内で大きな批判を受けたために,右規則に修正を加え,下院小選挙区(全130議席中63議席)画定及び議席配分を正式に発表した。
  • 28日,11政党が,本年選挙への参加手続きとして,現在の各党の経済状況等を証明するための書類をTSEに提出した。
  • 30日,公共交通ロープウェー(Teleférico)の一路線が開通した。

(2)外交

  • 4~6日,石原外務大臣政務官がボリビアを訪問し,5日、献花式典,対ボリビア円借款「ラグナ・コロラダ地熱発電所建設計画(第一段階第一期)」E/N署名式,100周年記念切手発表式等の日・ボリビア外交関係樹立100周年記念行事に出席した。
  • 8日,モラレス大統領はコスタリカを訪問し大統領就任式に出席,二国間会談を実施した後,キューバを訪問し,ラウル国家評議会議長と会談した。
  • 28日,モラレス大統領はアルジェリアにて開催された非同盟諸国外相会合に出席した。
  • サンタクルス県においてG77+中国模擬首脳会合,「よく生きる(Vivir Bien)ための経済社会フォーラム」,「国際女性サミット」等のG77+中国首脳会合の準備会合が開催され,経済社会フォーラムには,ルーラ前伯大統領も出席した。

2 内政

(1)政府の動き

 メーデーにおける政府発表

 1日,モラレス大統領は,ボリビア労働総連(COB)によるメーデーの行進に,ボリビア大統領として史上初めて参加し,給与の10%増と最低賃金の20%増を規定する最高政令1988号と全公務員の給与の10%増を規定する最高政令1989号を公布した。


 ガルシア・リネラ副大統領の汚職疑惑

 (ア)21日,ガルシア・リネラ副大統領の甥にあたるベラスコ・ガルシア氏が2007年に鉱山のコンセッション契約を獲得した件に関連して,副大統領による不当な影響力の行使を主張する野党の批判に対して,副大統領は,契約の事実を認める一方で,極めて小規模な鉱山活動であり,経営も失敗したと述べ,「自分を攻撃するための嘘と欺瞞のキャンペーンが存在する」と発言した。ボリビア野党が副大統領の親族による不正常な活動の告発を行ったのは本件が2件目となる。

 (イ)23日,モラレス大統領は,ガルシア・リネラ副大統領は極めて信頼の置ける,国民への奉仕の精神の強い人間であると発言し,同副大統領への信頼を表明した。


 「ラ・ラソン」紙に対しての告発

 (ア)4月22日にアルセ国家利益擁護庁長官が,諜報活動と国家機密の暴露による公共の秩序に対する罪を理由に「ラ・ラソン」紙の記者を告訴していたことが公表され,8日,ラパス地方裁判所は,同紙記者に対して3日以内に情報源を開示するよう命じた。

 (イ)21日,カルロス・メサ元大統領(国際社会に「海への出口」問題の歴史的・法律的説明を行うための特別担当)は,現政権はメディア規制を強めており,表現の自由は複雑な時期を迎えていると発言した。

 (ウ)28日,ラパス地方裁判所は,「ラ・ラソン」紙による同裁判所の管轄権に関する抗弁を退け,本件に関しての管轄権を有する旨発表した。


 モラレス大統領は,大統領選挙再立候補に関して,チャパレ地方(注:モラレス大統領がコカ葉栽培農民として活動していた地域)に戻りたかったが,社会運動団体の要請を受けて再立候補を決定したと発言した。


 30日,ボリビア政府は,エル・アルト市とラパス市をつなぐ公共交通ロープウェーの一路線(赤ライン)の開通式を実施し,一回の料金は3ボリビアーノス(約0.43米ドル)である旨発表した。


(2)2014年大統領選挙に向けた動き

 下院小選挙区画定

 (ア)6日,人口と面積に基づく小選挙区画定のための規則がTSEによって決定された旨メディアが報じ,7日TSEは同規則を発表したが,同規則に基づけば63議席中53議席が農村部に配分されるため,MAS党の影響力が強い農村部への明らかな偏重であり,投票権の平等を定める憲法の明らかな違反であるとの批判が起きた。

 (イ)上記(2)ア(ア)の事情に加え,ベラスコ長官とパレデス判事が「投票権の平等が損なわれること」等を理由に上記規則に反対をしていたため,TSE内部で再検討が行われ,全判事の合意のもと,13日,TSEは,下院小選挙区(全130議席中63議席)画定及び議席配分を正式に発表したところ,議席配分内訳は以下の通り。

  • ラパス県 14議席(主要都市部4議席,エル・アルト市4議席,農村部6議席)
  • サンタクルス県 14議席(主要都市部8議席,農村部6議席)
  • コチャバンバ県 9議席(主要都市部3議席,農村部6議席)
  • ポトシ県 7議席(主要都市部2議席,農村部5議席)
  • チュキサカ県 5議席(主要都市部2議席,農村部3議席)
  • タリハ県 4議席(主要都市部2議席,農村部2議席)
  • オルロ県 4議席(主要都市部2議席,農村部2議席)
  • ベニ県 4議席(主要都市部1議席,農村部3議席)
  • パンド県 2議席(主要都市部1議席,農村部1議席)

 (ウ)28日,チュキミアTSE判事は,小選挙区画定の変更を要求する地域(注:ラパス県ユンガス地方,ポトシ県オクリ市等)があるものの,一つの変更によって全選挙区の変更を余儀なくされるため,変更は不可能であると述べた。


 選挙日程関連

 (ア)10日,TSEは,新選挙人及び住所を変更した選挙人の指紋登録を開始した。

 (イ)28日,当初45万人の新選挙人登録を想定していたものの,28日時点で登録を行ったのは270,958名に過ぎず,加えて,登録機材や人員不足,機材の故障等の問題が発生し,登録のための待ち時間が長時間になることへの抗議が多発したため,TSEは,30日に終了予定であった国内選挙人登録を6月9日まで延長することを発表した。


 各政党の本年選挙への参加承認

 28日,既に政党の承認手続きを終えている以下の11政党が,本年選挙への参加手続きとして,現在の各党の経済状況等を証明するための書類をTSEに提出した。ボリビア発展計画(Plan Progreso para Bolibia:PPB)党は,上記証明書類を提出しなかった。


  • 革命的民族運動(Movimiento Nacionalista Revolucionario:MNR)党
  • 民族民主行動(Accion Democrata Nacionalista:ADN)党
  • 左派革命戦線(Frente Revolucionario de Izquierda:FRI)党
  • キリスト教民主(Partido Democrata Cristiano:PDC)党
  • 社会主義運動(Movimiento al Socialismo:MAS)党
  • 連帯市民統一(Unidad Civica Solidaridad:UCS)党
  • 恐れなき運動(Movimiento Sin Miedo:MSM)党
  • 国民統一(Unidad Nacional:UN)党
  • 社会民主運動(Movimiento Democrata Social:MDS)党
  • 勝利のための戦線(Frente Para la Victoria:FPV)党
  • ボリビア緑の党(Partido Verde de Bolivia:PVB-IEP)

 国際選挙監視団の参加

 20日,大統領・国会議員選挙への選挙監視団派遣調査のために当地を来訪したEUの調査団は,ベラスコTSE長官と会談を行った。ベラスコ長官は,米州機構(OAS), 米州選挙機関連盟(UNIORE)及び南米諸国連合(UNASUR)の監視団参加が確定している旨発表した。


 各政党の動き

 (ア)3日,コスタス・サンタクルス県知事(MDS党党首),デル・グラナドMSM党党首及びドリア・メディーナUN党党首の間で野党の政治連立のための対話が実施された。

 (イ)6日,MAS党は,本年国会議員選挙において、COBの代表をMAS党の国会議員選挙候補として擁立することを決定した。

 (ウ)8日,MDS党の代表は,UN党よりもMSM党との合意の模索を優先する旨発表した。

 (エ)13日,ドリア・メディーナUN党党首は,7月14日の政治連立登録の最終日まで,野党の統一の可能性を模索すると発言した。

 (オ)15日,レボージャ下院議員(MSM党)は,ドリア・メディーナUN党党首の主導する拡大戦線(FA)と政治連立のための対話を続けているが,レビージャ・ラパス市長(MSM党所属)の市政をUN党が妨害していることから,UN党に対しては批判的な姿勢を維持した。

 (カ)24日,デル・グラナドMSM党党首は,6月の第一週までにMDS党との間での長期的な連立及び大統領候補を決定する旨述べた。

 (キ)29日,FAは,フェルナンデス元パンド県知事及び伯に政治亡命中のピント上院議員の政党である「統合のための柱(Columna de Integración)」と政治連立協定を結んだ。


(3)国軍下士官による抗議活動

 2日,ボリビア国軍は,強制退役処分を受けていた715名の下士官のうち,更に243名の処分を取り消すことを発表し,計430名の強制退役処分が取り消された。これに対して,下士官達の代表は,今後も抗議活動を継続する旨発表した。


 5日,下士官代表は抗議活動の中止を発表した。これに対して,バルディビエソ国軍司令官は,処分を受けた下士官のうち660名が既に職務に復帰した旨発表した。


 19日,ボリビア国軍は,強制退役処分を受けていた下士官達のうち,更に202名の処分を取り消すことを発表し,これを受けて632名の処分が取り消された。


 20日,デモ行進を主導した下士官代表が逮捕された事実が発覚し,ビジェナ人権擁護官は,右事実は軍による下士官達への報復であり,事態を複雑化するだけである旨発言した。


(4)ソサ判事による告発

 14日,伯への政治亡命申請を行っているソサ判事は,ガルシア・リネラ副大統領の弟であるラウル・ガルシア・リネラ氏が,テロリズム事件(注:2009年にサンタクルス市内において,テロを首謀していたとされるボリビア人及び外国人のグループが,ボリビア警察特殊部隊によって制圧されほぼ全員が射殺された事件。ソサ判事は,同事件の判事を務めていた)における警察の介入を調整していたと告発する文書を伯国家亡命者理事会(Conare)に対して提出した。


 15日,これに対して,テロリズム事件担当検察官は,同氏を本件調査の対象とする可能性を否定したが,ゲレロ検察庁長官は,「現時点では,同事件の公判にラウル・ガルシア・リネラ氏を含めることは難しいが,別の公判を開始することは可能である」と述べた。


 20日,グティエレス法務大臣は,ソサ元判事は,伯における政治亡命資格の取得を目標としており,伯当局がソサ判事の告発について責任をもって調査し,これら告発が資料の裏付けのある告発かを確認することを期待する旨発言した。


(5)コカ葉栽培・麻薬関連

 14日,センテージャス国家警察対麻薬密輸取締特殊部隊(FELCN)長官は,本年1月1日から5月14日までに,33トンの麻薬が押収されたと発表した。


(6)大統領支持率の推移

 4日付け当地「カンビオ」紙は,各社が4月に実施した大統領支持率(Aprobacion)調査の結果を報じ,Tal Cual Comunicacion社が支持率68%,不支持率30%,IPSOS, APOYO, OPINION Y MERCADO社は支持率73%,不支持率18%,CAPTURA CONSULTING社が支持率60.6%,不支持率が30.9%となっており,大統領支持率は高いと報じた。

3 外交

(1)多国間関係

 非同盟諸国外相会合への出席

 28日,モラレス大統領はアルジェリアにて開催されていた非同盟諸国外相会合に出席し,6月14,15日にサンタクルス県において開催されるG77+中国首脳会合への各国首脳の招待を再度行った他,ブーテフリカ・アルジェリア大統領との首脳会合,ハウア・ベネズエラ外相との会談等を実施した。


 G77+中国首脳会合の準備

 (ア)4~6日,海外25大学の及び国内20大学からの学生が参加し,サンタクルス県においてG77+中国模擬首脳会合が開催され,4日の開会式において,ガルシア・リネラ副大統領は,国連改革,移民,気候変動,貿易と国際金融における新秩序,南南協力の推進,2015年以降の開発課題等に関しての議論が首脳会合でなされると述べた。

 (イ)22~23日,サンタクルス県においてG77+中国首脳会合の準備会合「よく生きる(Vivir Bien)ための経済社会フォーラム」が開催され,出席したルーラ前伯大統領は,G77+中国は,持続的発展を可能とする新たな環境関連取り決めの必要性を擁護する旨述べ,貧困国が,天然資源を枯渇させ人々を貧困に陥れたモデルの負債を負うことは平等ではないと発言した。モラレス大統領は,伯は兄弟国であり,その国際的リーダーシップに敬意を表すると同時に,ペルーと伯に対して,南米を横断する最初の大洋間鉄道建設のための投資を要請し,出席していた中国大使に対して本件への融資を要請した。

 (ウ)29~31日,サンタクルス県においてG77+中国首脳会合の準備会合である「国際女性サミット」が開催された。

 (エ)31日,モラレス大統領は,G77+中国首脳会合に潘基文国連事務総長が出席する予定であることを発表した。


(2)二国間関係

 対日関係:石原政務官の当地訪問

 (ア)4~6日当地を出張した石原外務大臣政務官は、5日、ラパスにて,献花式典,対ボリビア円借款「ラグナ・コロラダ地熱発電所建設計画(第一段階第一期)」E/N署名式,100周年記念切手発表式等の日・ボリビア外交関係樹立100周年記念行事に出席した。

 (イ)5日,上記E/N署名式において,チョケワンカ外相は,両国間の落ち着いた関係(relacion tranquila)が示すように,この100周年記念を平穏で静かなものとして迎えたいと述べ,「日本は現政権の発足時,最初に債権放棄を実施した国であり,我々は心より感謝している。本来,円借款の再開は困難だが,電力供給の安定に資するプロジェクト実施のための交換公文が本日署名された。これも日本の好意の表明である」旨発言した。

 (ウ)石原政務官は,3年前の東日本大震災の際のボリビアからの支援及び本年のボリビアにおける洪水被害に対する日本の協力に触れ,外交関係樹立100周年と同時に本年はサンタクルス県のオキナワ移住地移住60周年を迎える重要な年である,と挨拶をした。


 対中関係

 (ア)2日,エクトル・アルセ国家利益擁護庁長官は,16隻のはしけ船の競売処分を巡ってボリビア政府が実施していた上告要請を,中国司法当局が拒否したことを発表した。

 (イ)11日,サンブラーナ・ボリビア宇宙機構理事長は,中国政府による,欧州,米国及び中国の人工衛星の映像を受信するための地上基地の供与を発表した。同基地は,500万~1,000万米ドルの価値があり,2014年下半期に設置される見込み。


 対チリ関係

 (ア)16日,モラレス大統領は,「海への出口」問題に関するICJへの提訴に関して,チリ政府が,ICJの管轄権に関しての先決的抗弁を提出すれば,チリは国際法の枠外に取り残されることとなると発言した。加えて,18日,モラレス大統領は,ボリビアとの間の13のアジェンダが「海への出口」に拘束される(maritimizar)ことを望んだことは一度もない旨のバチェレ・チリ大統領の発言に対して,対チリ関係は,ボリビアが,主権を伴う「海への出口」を獲得するまで,「海への出口」問題に拘束される旨回答した。

 (イ)19日,メサ元大統領は,ボリビア政府によるICJ提訴は1904年の平和友好条約の変更を試みるものであるとのチリ政府の説明は誤りであると述べ,ボリビア政府によるICJ提訴は,誠実な交渉を義務づけることを要請するものであると発言した。

 (ウ)22日,ボリビア政府は,「海への出口」問題に関するいかなる行動も,国家の秘匿情報となる旨規定した最高政令を公布した。


 対その他中南米諸国関係

 (ア)キューバ

 8日,モラレス大統領はキューバを訪問し,カストロ国家評議会議長と会談し,二国間の良好な関係及び国際的な課題について,特に,6月に開催されるG77+中国首脳会議の準備につき意見交換した。11日,モラレス大統領は,カストロ議長との間でボリビアに医薬品の工場を建設することに合意したと発表した。

 (イ)コスタリカ

 8日,モラレス大統領はコスタリカを訪問し大統領就任式典に出席したほか,コレア・エクアドル大統領、ペレス・グアテマラ大統領、エルナンデス・ホンジュラス大統領、サンチェス・セレン・エルサルバドル次期大統領等と会合を行い,6月に開催されるG77+中国首脳会合に再度招待した。


 対米関係

 (ア)20日,フロリダ州連邦判事は,「拷問被害者保護法」に基づけば,60名以上の市民が死亡したガス戦争(Guerra de Gas)と呼ばれる2003年9月~10月までのボリビアにおける一連の社会暴動における死亡者の遺族が,サンチェス・デ・ロサーダ元大統領及びサンチェス・ベルサイン元国防大臣を相手取って起こしている民事裁判を継続することが可能であると発表し,経済的な補償を要求する可能性を認めた。

 (イ)ゲレロ・ボリビア検察庁長官は,上記フロリダ州連邦判事の決定は,今後のサンチェス・デ・ロサーダ元大統領及びサンチェス・ベルサイン元国防大臣のボリビアへの引き渡し要求を実現に移すための端緒となりうる良い知らせであると述べた。


 対独関係

 17日付け当地「ラ・ラソン」紙は,本年1月に発表されたモラレス大統領の独訪問及びメルケル独首相との首脳会談に関して,メルケル首相が右首脳会合を延期したとのサルゲロ駐独ボリビア大使の発言を報じた。

(了)