ボリビア内政・外交(2025年9月)

令和7年10月1日

1 内政

(1)2025年大統領選挙

ア 決選投票に向けたMAS党・元MAS党員の戦略
   7日、モラレス元大統領は、決選投票での白票の呼びかけを行わないないこと、決選投票に進んだ2人の候補者のいずれとも合意を結ばないことを表明した。同日、社会主義運動(MAS)党アルセ派は、決選投票で勝利した候補者を尊重するが、自らの社会的成果と多民族国家の成果は擁護すると発表した。
イ 決選投票に向けたUNIDADの立場
   11日、カマチョ・サンタクルス県知事は、第1回投票で敗北したドリア・メディーナ統一同盟(UNIDAD)候補との会談の結果、UNIDADの議員は決選投票で選出された政府を支持することで合意したと発表した。これは、ドリア・メディーナ候補が最初に発表した、パス・キリスト教民主党(PDC)候補を支持するという立場からの大幅な転換である。
ウ パスPDC候補の米国訪問
   18日、パスPDC候補は、ガブリエル・エスピノサ経済学者とUNIDADおよびAPB-SÚMATEの議員等とワシントンを訪問し、米州開発銀行(IDB)、世界銀行、国際通貨基金(IMF)、ビジネス界の代表者らと会談した。
エ 世論調査結果(UNITELテレビ局)
   25日、IPSOS-Ciesmoriが実施し、UNITELテレビ局が発表した世論調査は以下のとおり。同調査は2,500人を対象に実施された。キロガLIBRE候補(54.5%)、パスPDC候補(45.5%)投票態度未定(5.5%)、白票(3.5%)、無効票(4.7%)。

(2)エドマン・ララPDC副大統領候補関連

 1日、ロドリゴ・パスPDC候補が、ドリア・メディーナUNIDAD候補とマルセロ・クラウレ実業家からなる政策計画チームを伴ってアルセ大統領を訪問したことを受け、ララPDC副大統領候補はSNSにて不安と懸念を表明。支持撤回もしくは選挙戦からの撤退を示唆するも、その直後、パスPDC候補と話し合った結果、これまで以上に彼の誠実さを確信できたとして、選挙運動に全力を尽くすことをSNS動画で表明した。
 9日、ララ候補は法律が可決される立法議会の議長も兼任するため、自身が大統領候補のロドリゴ・パスよりも「より大きな権力を持つ」と述べた。ララ候補はその権力を善用すると説明した。
 10日、TSE主催の決選投票の候補者たちが、虚偽の情報や汚い選挙運動を避けるための合意書署名式が行われたが、ララ候補は家族の移動の都合を理由に欠席した。
 16日、ララ候補は、警察の下士官や軍曹たちにも能力試験を経て少尉に昇進する機会を提供し、将校名簿にママニやチョケという名字(先住民由来の名字)が増えるだろうと述べた。また、同副大統領候補は、「ボリビアのマスコミは秘密結社に買収されている」、「自由と民主主義党(LIBRE)のフアン副大統領候補には、200万ドルもの報酬を得る顧問がいる」、「エバ・コパ・ラパス市長はキロガLIBRE候補と取引を行った」、「キロガ候補はボリビアを分裂させようとする『秘密結社や凶悪な集団』の一員であり、中産階級や農民階級を嫌悪している」等の発言を行った。これに対して、キロガLIBRE候補、コパ・ラパス市長等は、ララ候補に対して虚偽の情報の流布をやめるよう求め、最高選挙裁判所(TSE)に対して、彼らが汚い選挙戦とみなすものに対して何らかの措置を講じるよう要求した。

(3)元経済・財政大臣の有罪判決

 ラパス第6刑事裁判所は、ホセ・ルイス・パラダ元経済財政大臣に懲役8年、ギジェルモ・アポンテ元ボリビア中央銀行総裁らに懲役5年の刑を言い渡した。一方、ホセ・ガブリエル・エスピノサ経済学者らについては、刑事責任はないとして無罪判決を下した。この事件は、2020年4月、パラダ元経済財政大臣とアポンテ元ボリビア中央銀行総裁が、COVID-19パンデミックによる健康上の緊急事態に対応するため、立法議会の承認なしに現行の法的枠組みに反して融資を成立させるための覚書と機関間合意が締結させたとして、法務・透明性省次官が告訴した裁判である。

(4)国連におけるボリビアの投票権

 14日、カタリーナ外務次官は、ルイス・アルセ大統領が国連総会に出席すること、ボリビアが国連での投票権を回復したこと、そして投票権を段階的に回復するため他の機関と交渉を続けていることを発表した。カタリーナ氏は、1月に投票権を失い、国連のパレスチナに関する最新の決議でボリビアが投票しなかった原因は、立法議会による予算の凍結にあると説明した。

(5)米国麻薬取締局(DEA)復帰の可能性

 21日、ハイメ・ママニ内務省社会防衛・規制物質担当次官は、一部の政治勢力はDEAのボリビア復帰にレッド・カーペットを敷いていると批判。9月15日に発表された米国の世界的な麻薬対策に関する報告書に対しても、ボリビアが「麻薬取引に対する国際的な約束を継続的に遵守していない国」に含められているとして批判した。
 23日、モラレス政権下で、麻薬取引との闘いや違法コカの根絶を指揮していたフェリペ・カセレス・ガルシア元内務次官が、自身の所有地からコカイン結晶化ラボが発見されたことを受け逮捕された。

 

2 外交

(1)中国との関係

 1日、上海で開催された第25回上海協力機構(SCOE)サミットに関し、モラレス元大統領はX投稿にて社会組織や先住民族を代表してこの構想に支持を表明。このイニシアチブに、とりわけ、母なる地球の保護、「西洋による大量虐殺の阻止」、移民を人権として認めること、主権通貨の使用、国家の自決権の尊重などを含めるよう提案した。 
 2日、アルセ大統領は「第二次世界大戦におけるファシズム勢力に対する勝利の80周年」を祝し、X投稿にて中国と習近平国家主席に祝辞を寄せた。
 4日、在ボリビア中国大使館は中国人民抗日戦争及び世界反ファシズム戦争勝利80周年記念座談会を開催し、Wang Liang駐中国大使、館員代表、管轄区域の華僑・台湾同胞、中国企業、孔子学院代表が出席した。中国大使は、3日に中国で開催された軍事パレードが中国の国民的誇りを高めたことを強調し、日本との戦争に関する写真展と映画を企画した。
 8日、Wang Liang駐中国大使がソサ外相を訪問し、アルセ大統領とボリビア政府が、抗日戦争勝利記念日および世界反ファシズム戦争勝利80周年を祝賀したことに感謝を表明した。また、グローバルガバナンス構想と、この分野でボリビアと協力したいという中国の意向を提示し、ソサ外相はこれを高く評価した。
 9日、Wang Liang駐中国大使は、大統領府報道次官を訪問し、グローバル・ガバナンス・イニシアチブとグローバル・サウス・メディア・シンクタンク・フォーラム2025について会談した。
 10日、Wang Liang駐中国大使は、グローバル・ガバナンス・イニシアチブの5つの基本原則についての紹介を当地主要紙「La Razón」に掲載し、習近平国家主席がこれまでに発表した4つのグローバル・イニシアチブを要約する論説を寄稿した。同大使は、ボリビアがこれらのイニシアチブに積極的に支持を表明していることを強調した。
 22日、ソサ外相は、第4回世界女性会議および北京行動綱領の採択30周年記念ハイレベル会合に参加した。ソサ外相はスピーチの中で、イスラエルによる虐殺の犠牲となった女性や少女たちに正義を求めることを要求し、ボリビアが北京行動綱領に沿った、女性、平和、安全に関する初の国家行動計画を提出することを発表した。
 24日、ソサ外相は、グローバル開発イニシアチブ友好国グループのハイレベル会合に参加し、グローバル・サウス諸国の生活水準向上のために、解放と公平を目的としたデジタルシステムと人工知能への取り組みを強化するよう求めた。また、ボリビアは中国が推進する食糧安全保障メカニズムを支持していることを述べ、国連総会での発言を利用してパレスチナ人に対するジェノサイドを非難し、飢餓、差別、不平等と闘うために「グローバル開発イニシアチブ友好国グループ」から「共有の未来コミュニティ」を構築するよう呼びかけた。

(2)チリとの関係

 2日、パスPDC候補は、チリでの車両盗難の背後にチリ警察が関与しており、盗難車をボリビアに持ち込んでいる可能性を示唆し、違法輸入車の合法化する必要性を主張した。この発言に対し、チリ上院議長と内務大臣が厳しい反応を示した。
 10日、チリ下院で自動車輸入に関する審議が行われた際、マリア・ルイサ・コルデロ議員がボリビア人を「生まれつきの慢性低酸素性脳症患者」と表現し、この症状は慢性的で治療不可能であると発言した。これに対して、アルセ大統領はコルデロ議員を外国人嫌悪主義者かつ人種差別主義者だと非難した。ボリビア外務省は11日、コミュニケを通じて同議員の発言を強く非難する一方、チリとボリビアは「生命のための人民外交」の枠組みのもと、相互尊重と協力に基づく二国間関係を維持していることを改めて強調。確立された外交ルートを通じて適切な措置を講じることを発表した。 緊張を緩和するため、チリのクラベレン外相は、同議員の発言を非難し、「ボリビア国民に対する排外的な発言」を否定し、それらはチリ国家および政府の意向を反映したものではないと述べた。

(3)イスラエル・パレスチナ関係

 10日、ボリビア外務省は、9日にイスラエルがドーハで実施した空爆を強く非難するコミュニケを発表し、これを国際法に対する重大な違反であり、ガザでの停戦実現に向けた調停努力を損なうものと見なした。同時に、国際社会に対しこの行為を拒否するよう呼びかけた。
 13日、ボリビア外務省はコミュニケを通じて、142の加盟国が支持した、パレスチナ問題の平和的解決と二国家解決をめざす「ニューヨーク宣言」への支持を発表した。

(4)米国との関係

 15日、米国大統領は決議書にて、麻薬の主要な通過国・生産国のリストを更新した。ボリビアはアフガニスタン、ミャンマー、コロンビア、ベネズエラとともに、主要な麻薬輸送国または主要な違法薬物生産国として特定されていること、また、過去1年間国際的な麻薬対策協定の義務を遵守しておらず、求められている措置を講じていないとし、米国の国家安全保障上の関心国として対象となっている。これに関して、ボリビア内務省は、ある国が一方的な裁判官のように振る舞い続け、他国を評価する権利を独断で主張していることに驚きを表明するとの声明を発出した。

(5)ベネズエラとの関係

 14日、アルセ大統領はX投稿で、9月12日にベネズエラ領海で発生した米国による漁船への襲撃は国際法違反であると非難。トランプ政権はラテンアメリカとカリブ海地域で戦争を引き起こそうとしていると主張した。
 15日、ボリビアとベネズエラの外交関係樹立142周年を記念するイベントで、カタリーナ外務次官は、米国からの脅威に直面しているベネズエラに対するボリビア政府の連帯を表明した。

(6)メルコスール関連

 16日、ソサ外相はブラジルで開催されたメルコスール外相会議に出席し、2028年8月までに完全加盟プロセスを推進するというボリビア多民族国家の意思を表明した。同外相は、米国が課した関税措置に対してブラジルへの連帯を表明する機会を利用し、貿易紛争における多国間主義の強化に関心を示した。
 17日、ソサ外相は、メルコスールと欧州自由貿易連合(EFTA)間の自由貿易協定の調印式に出席した。外相は、この協定によりボリビアが世界経済にさらに強く参入できる可能性が開かれ、貿易戦争が顕著な世界情勢の中で輸出の多様化を図る機会となることを強調した。

(7)ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC)

 22日日、ソサ外相はCELAC外相会議に出席し、ボリビアのベネズエラおよびパレスチナへの連帯を表明した。

(8)第80回国連総会関連

 24日、ソサ外相はニューヨークで女性、平和、安全保障に関する閣僚級の国連総会サイドイベントに参加し、ボリビア憲法が非家父長制化と脱植民地化に重点を置いている点を強調した。
 25日、アルセ大統領は国連総会に出席し、大統領として最後の演説をおこなった。演説では、以下6項目のグローバルなアジェンダを提示した:1)アパルトヘイト、ジェノサイド、植民地主義によって生じた歴史的債務の返済、2)国連総会の決議を拘束力のあるものにすること、3)地球を平和の領域と宣言し、全面的な非軍事化の推進すること、4)安全保障理事会を改革し、周縁化された地域への発言権の付与、5)母なる地球の権利に関する世界宣言に向けての前進、6)貿易戦争の拒否と、経済・社会格差の縮小への取り組み。
 25日、ソサ外相はALBA-TCP外相会議に出席し、安全保障理事会の改革の緊急性と国際金融システムの改革の必要性を表明した。同様に、キューバに対する「経済、商業、金融の封鎖」の解除と、パレスチナ人民に対する虐殺の停止を要求した。
 26日、ソサ外相は国連総会およびハーグ・グループ主催のパレスチナに関するハイレベル閣僚会議で、パレスチナ人民に対するジェノサイドの実行責任者と首謀者を国際社会が裁くよう要求した。

(9)ボリビアの原子力計画

 26日、カタリーナ外務次官は、国際原子力機関(IAEA)保障措置事務局の代表を受け入れ、ボリビアによる大量破壊兵器の不拡散と原子力平和利用へのコミットを再確認した。