2025年8月 ボリビア経済情勢
令和7年9月1日
1 経済指標など
| 当月 | 前月(最終更新値) | 累計 | 前年同月 (24年8月) | 前年累計 | ||
| (1) | インフレ率 | 1.01% | 1.2% | 18.09% | 1.58% | 4.61% |
| (2) | 都市部失業率 | - | 3.15% (2025年6月) |
- | 3.51% | - |
| (3) | 外貨準備高 | 28億8,100万 | 27億2,600万 | - | 19億500万 | - |
| (4) | 対外債務 | - | 138億600万 (2025年6月) |
- | 133億3,400万 | - |
| (5) | 対内債務 | - | 187億9,000万 (2024年12月) |
- | - | - |
| (6) | 天然ガス輸出額 | - | 9,600万 | - | 1億4,100万 | - |
| (7) | 鉱物資源全体の輸出額 | - | 3億1,100万 | - | 2億8,100万 | - |
| (8) | 燃料輸入額 | - | 2億1,100万 | - | 2億3,200万 | - |
| (9) | 貿易収支 | - | 2,800万 | ▲4億9,700万 (2025年1月~7月) |
400万 | ▲6億5,800万 |
| (10) | 金輸出額 | - | 6,400万 | - | 3,900万 | - |
| ※累計:本年1月~当月(最終更新月)の累計 | ||||||
| ※前年累計:前年1月~前年の当月の累計 | ||||||
| ※金額通貨:USD(米ドル) | ||||||
2 経済関連動向等
(1)8月時点での国際準備高
ボリビア中央銀行(BCB)が発表した情報によると、2025年8月31日時点の国際準備高(RIN)は28億8,100万ドルに達し、2024年末時点より9億5000万ドル増加した。そのうち、外貨は1億7,070万ドル(総額の6%)、金は26億5,100万ドル(総額の92%)となっている。このデータに関し、エドウィン・ロハスBCB総裁は、外貨が2024年末の報告(4,680万ドル)から1億2,390万ドル増加。特別引出権(SDR)は5,870万ドルで、2024年の最終報告(4040万ドル)より1,830万ドル多く、金については、2024年の18億8900万米ドルから7億6250万米ドル増加したと詳述した。また、BCBの政策(金購入、金融取引、ドル建てBCB債券など)が国際準備高に20億4,800万米ドルの貢献をしていることも強調した。なお、国際準備高の増加は、主に金の国際的な価格上昇(8月時点で金1オンス=$us 3,578、昨年末の終値は金1オンス==$us 2,611)によるものであり、これによって5億3,200万米ドル増加している。
ロハス氏はさらに、ボリビア経済に影響を与える外的・内的要因についても説明し、外的要因としては米国による関税の適用を挙げた。内的要因としては、炭化水素の生産能力低下が同国の総輸出額の減少につながっていること、また、農業の生産性に影響を与える干ばつや火災についても言及した。加えて、もう一つの要素として、現政権発足当初から輸出能力のパフォーマンスに影響を与えている封鎖についても触れ、主な問題は立法議会による17億米ドル以上の融資の凍結であると強調した。
(2)トランプ関税措置による影響
7月31日、米国は4月に発表した相互関税を修正する大統領令を発表し、ボリビアからの輸出に対する関税を10%から15%に引き上げた。本措置は、8月7日から適用となる。ボリビアは米国の主要貿易相手国ではないものの、この措置は繊維製造、鉱物加工品、農工業製品といった特定の輸出部門に悪影響を及ぼす可能性がある。ボリビア貿易研究所(IBCE)のガリー・ロドリゲス(Gary Rodriguez)所長は、「当然のことながら、15%の関税導入はボリビアの輸出に打撃を与えるだろう。なぜなら、生産規模と地理的優位性により、その影響をより吸収できる他の国々と比較して、ボリビアの競争力が低下するためである。米国はボリビアにとって第8位の貿易相手国であり、輸出先国としては第13位、輸入先国としては第5位である。従って、他の市場へアプローチしていかなければ、企業活動やそれらが生み出す雇用に悪影響を及ぼす可能性がある」と述べた。
なお、対米貿易データを見ると、2024年にボリビアは錫、栗、キヌアなど含む合計263製品を米国に輸出し、米国からはガソリン、ディーゼル等含め合計3,329の製品を輸入している。
(3)外国石油企業との紛争
8月5日、ロンドンに本社を置く英蘭系多国籍エネルギー・石油化学企業シェルは、ボリビアにおける子会社(Shell Bolivia)を通じて、ボリビアと英国間で締結された投資保護条約に基づき、ボリビア政府に対し契約不履行による「数億ドルに上る損失」の賠償を求め、正式な国際紛争手続きを開始した。同日付で送付された通知文書には、ボリビア石油公社(YPFB)による条約および国際法上の明確な違反(支払い不履行、司法上の迫害、石油の違法販売、仲裁裁判の無効化など含む、少なくとも6つの違反行為)について詳述されており、同社は、これらの措置を直ちに停止する必要があると警告し、被った損失に対する全額の賠償を受ける権利があると主張している。6ヶ月間の交渉が予定されており、合意に至らない場合は国際仲裁に付される見通しとなっている。
なお、この通知文書には「ボリビアが応答しない場合、または条約で定められた6ヶ月以内に協議が友好的解決に至らなかった場合は、国際仲裁に付託する権利を留保する」と記されている。ボリビア政府からは、リカルド・コンドリ(Ricardo Condori)検事総長が通知の受領を確認し、「仲裁に先立ち対話を選択する。また、法的枠組みの範囲内で支払いが必要な場合は履行する」と述べた。
(4)下院議会の複合経済・生産・産業委員会でのリチウム契約承認
| ア |
8月12日、下院の複合経済・生産・産業委員会は、これまでの抗議や衝突にもかかわらず、ロシア企業とのリチウム契約を含めた保留中の法案や協議に関して議論するため、7月9日から休会していた定例会を再開した。数時間にわたる議論と分析の末、ボリビアリチウム公社(YLB)とロシア企業ウラニウム・ワン・グループによるリチウム契約法案を承認した。 |
| イ |
ポトシ市民委員会(Comcipo)は、複合経済・生産・産業委員会の承認に対して抗議するため、19日午後にポトシ市内でデモ行進を実施。同委員会のウアンカ(Milton Huanca)副代表は、(同契約法案は)ウユニ塩湖におけるリチウム採掘契約を違憲・違法に、事前協議なしで承認する意図が明確にあるとした上で、環境や水への影響が考慮されておらず、ボリビアには多国籍企業とのこの種の契約を保証する枠組み法もないと批判し、下院・本会議での議論の停止を要求したうえで、近く終わる政権がリチウム契約を承認すべきではないと主張した。 |
| ウ |
21日、ラパス司法管区の農業環境裁判所は、化石水、水資源、地域住民との事前協議に関する3つの指摘事項が解決されるまで、ロシアおよび中国企業と締結した2つのリチウム採掘にかかる契約審議の一時停止を命じた。 |
(5)民間企業による燃料の直接輸入
ア 民間企業による燃料輸入量国家炭化水素庁(ANH)によると、7月末時点で84社の民間企業が燃料の直接輸入を許可されている。そのうち66社は自社消費用(約1,500立方メートル)、22社は販売用(約3,300立方メートル)を輸入しているが、同輸入量は認可量の3%にも達していないという。民間輸入量の低迷は、国境やターミナルにおける技術的条件の不足と物流上の制約であるとして、CNI(全国工業会議所)やCAINCO(サンタクルス商工サービス観光会議所)などは、民間の参加を促進するためのより効果的な措置を講じるよう政府に訴えている。
イ Intpetrol社による直接燃料輸入
8月12日、ボリビアで燃料の輸入販売を行うIntpetrol社は、サンタクルス県に初のモジュラーガソリンスタンドを開設した。燃料価格は、直接輸入コストを反映しているため、固定価格ではなく、国際価格やサプライチェーンの変動に応じて変化する。同社によれば、この数か月間で30社以上の需要に応えるため、1,000万リットル以上のディーゼル燃料を輸入するとともに、自社インフラおよび隣国サプライヤー(パラグアイ、ブラジル、アルゼンチン、ペルー)との戦略的提携を強化した。このネットワークにより、「供給不足の状況下でも必要な量を確保」することが可能になるという。同社は短期的にはガソリンスタンドの設置に加え、モジュラーガソリンスタンドの他地域展開を検討している。
(6)全国的な燃料危機
8月末、燃料供給待ちの列や運転手による抗議活動など、全国的に燃料危機の深刻化が見られた。これについて、YPFBはディーゼル燃料の需要超過と、国際的な融資が承認されなかったことによるドル不足が原因であると述べた。YPFBによれば、9月7日から13日の間にアリカ港にて4,500万リットルの燃料の荷下ろしが予定されているほか、10日には別のロットが到着するとし、ガソリンとディーゼル燃料の両方において、国内市場への継続した供給を確保すると強調した。
サンタクルス給油業者協会(Asosur)は、YPFBが十分な量の燃料を供給しておらず、国内の複数の地域で燃料危機を引き起こしていると非難した。また、同協会は声明で「緊急事態」を宣言し、政府に迅速な解決策を講じるよう求めた。
(7)ムトゥン鉄鋼社(ESM)による鉄鉱石輸出
8月23日、国営企業ムトゥン鉄鋼社(ESM)は、サンタクルス県にあるプエルト・ブッシュ港を通じて、パラグアイへ5,015トンの鉄鉱石を輸出したと報告した。同港は、パラグアイ川に直接アクセス可能という戦略的な立地条件を備えており、ブラジル経由の航路に依存する他のボリビアの港とは異なり、大西洋への主権的アクセスを可能にしている。
この前週、政府は最高法令を発布、2013年にムトゥン鉄鋼社に付与されていた同港湾管理権限を廃止し、ボリビア港湾サービス庁(ASP-B)に対し、ターミナル管理を引き継ぐよう命じた。この措置は、パラグアイ・パラナ水路を通じた対外貿易の強化と港湾サービスへのアクセス拡大を目的としており、モンテネグロ経済財務相は「プエルト・ブッシュの物流ポテンシャルを最大限に活用し、運営コストを削減し、大西洋への代替輸送ルートを拡大するための戦略的ステップとなる」と説明した。