ボリビア内政・外交(2025年4月)
令和7年5月1日
1 内政
(1)2025年大統領選挙・総選挙関連
ア 総選日程・プロセス(ア)1日、マトコビッチ・サンタクルス県議会議員(Creemos党)は最高選挙裁判所に対して、政党間の調整なしに行われた選挙区画への異議申し立てを提出した。これに対して2日、タウイチ・タウイチ・キスぺTSE委員は、同日に発表予定だった選挙日程の発表が、選挙区画に関する3件の異議申し立てが提出されたため延期されると発表した。選挙区画は3月、2024年全国人口・住宅調査の結果を踏まえた調整作業を経て承認されていた。
(イ)14日、TSEは選挙日程を公式サイトで発表。主要日程は以下の通り。
5月14日~5月19日 | :立候補者登録期間 |
5月20日~8月10日 | :世論調査実施期間 |
5月25日 | :各政党政権公約発表 |
6月6日 | :立候補者資格を満たす候補者リストの公表 |
7月13日 | :最終的な有資格者の候補者リストの公表 |
8月17日 | :総選挙投票日 |
10月19日 | :大統領選挙決選投票日 |
11月8日 | :当選者の就任(大統領就任式を含む) |
(ウ)ウアイタリ下院副議長は、総選挙における大統領と副大統領の組み合わせに男女平等が反映されていないとして選挙の差し止め命令を要求。男女平等の規則が導入された場合は全ての政党が大統領と副大統領候補の組み合わせを男女1人ずつ擁立しなければならない。
(エ)19日、TSEにて大統領選挙を含む総選挙の立候補者登録の受付が開始。総選挙への参加を希望する既存14政党のうち、8党が単独での参加を表明、2党が同盟を結成、残りの4党がそれぞれ地方小政党と同盟を結成。この結果、計13政治組織が申請を提出。
(オ)22日、ミゲル・ロカ下院議員(CC党)は、政治団体に関する法律1096号に対し、憲法上認められている先住民族の政党を選挙に出す権利を法律で禁止しているとして違憲訴訟を起こした。同議員は、先住民がMAS党によって奪われた権力を取り戻すことが目的であると説明。これに対してセサル・シレス法務大臣は、「現在、選挙に対して6件の違憲訴訟が提起されているが、憲法裁判所(TCP)の判決は将来の選挙にのみ適用され、8月の総選挙には適用されない」と述べるとともに、仮にTCPが選挙を停止するようなことがあれば、その判事は責任裁判を受けることになると指摘。
イ 総選挙に関する裁判所の見解
(ア)23日、最高裁判所(TSJ)と多国籍憲法裁判所(TCP)の判事は、最高選挙裁判所(TSE)にて記者会見を開き、8月の選挙実施への強い決意を表明。TSE・TCPの両長官は、「選挙開催を保証する方針で対応する、いずれの申し立ても選挙日程の中止を招くことはない」と発表。
(イ)25日、TCPは、先住民の選挙参加を地方選挙のみに制限する法律1096号は違憲であるとするボリビア先住民族全国評議会(Conniob)の申立てを却下。TCPは、本決定は23日の裁判所の発表方針に沿ったものであると表明。Conniobは総選挙以降の選挙で再び申し立てを行うと発表。
ウ モラレス元大統領の動向
(ア)1日、エボ・モラレス元大統領は公式登録のない政治団体「Evo Pueblo」を立ち上げ、TSEに政党法人格取得を申請。6日、「Evo Pueblo」は全国会議にて同団体の副大統領候補としてエドゥアルド・ロドリゲス元大統領の指名を提案。同会議では、モラレス元大統領の大統領候補擁立、5月16日のラパスでの抗議デモの実施、TSEに対する選挙立候補者登録申請の実施等10項目が決定された。
(イ)8日、モラレス元大統領は「勝利のための戦線(FPV)」党に対して2月に締結した政治合意の遵守を要求しつつ、合意不履行の場合には他政党への移籍の可能性を示唆した。これに対してFPVは9日、これらのモラレス元大統領の言動は裏切り行為であるとして、同元大統領との政治合意ならびに大統領候補としての支援撤回を表明。エリセオ・ロドリゲスFPV党首は「(モラレス元大統領との協力は)我々の考えていた原則とは大きく異なり、分裂寸前である。」と述べ、アンドロニコ・ロドリゲス上院議会議長を大統領候補として擁立する可能性を示唆した。
(ウ)30日、サンタクルス刑事裁判所のリリアン・モレノ判事は、人身売買と人身密輸の罪に問われているモラレス元大統領に対する逮捕状及び逮捕手続き行為を無効とし、故郷であるビジャ・トゥナリ市への移送を命じた。モレノ判事が同元大統領に有利な判決を下すのは2度目。同判事はモラレス大統領時代の部下であり、公平な裁判が行われていないとして批判が高まった。
エ アンドロニコ・ロドリゲス上院議員議長の選挙動向
11日、コチャバンバのコチャバンバ県熱帯地方コカ栽培農民6連合調整委員会はロドリゲス上院議長に書簡にて13日の緊急会議への出席を要請。同議長はスペイン左派ポデモス党の集会参加のため同国訪問中を理由に参加見送りを表明するも、同調整委員会側は、同会議はモラレス元大統領が率いるコカ栽培者の上層部によって招集されたものであるとして、招集に従わない場合の制裁を示唆した。
オ ハイメ・ダン金融専門家の国民民主行動党からの大統領選立候補
(ア)10日、ハイメ・ダン金融専門家は8月の大統領選挙に国民民主行動党(ADN)からの立候補を表明した。
(イ)同10日、内務省が2024年6月に発生した「クーデタ未遂」に係るドキュメンタリーを公開。ダン氏は、ダン氏は、ドキュメンタリー内でクーデタ首謀犯とされる元陸軍司令官ズニガが率いる市民内閣の閣僚メンバーの一員として名前が掲載されたことに対し、「彼とは面識すらない」と怒りを露わにした上で、同じくメンバーリストに掲載された弁護士逮捕の情報を受けて、安全な場所に避難したことを発表した。
(ウ)13日、ADN党大会でダン氏を大統領候補に選出。キロガ氏やメディーナ氏等とはいかなる同盟も組まないことを発表。
(エ)16日、国民革命運動(MNR)の幹部あるロサド氏は、ダン氏がMNR連合の大統領候補に指名されたと発表。ロサド氏はダン氏がADN党等の他の政党と近い関係にあることを指摘し、他党との連合の可能性があることを示唆した。
カ 野党連合に向けた動き
(ア)2日、キロガ元大統領は、与党MAS党に対する勝利することを目的に、野党統一候補を決定すべく大統領候補者内でアンケート調査を実施して2位以下の候補者が1位候補を者支持するとの計画について否定的見解を表明。同元大統領は野党連合への参加を表明するも、世論調査実施可能期間は法的に定められており期間外のアンケート調査施が禁止されていること、調査会社がTSEに登録されていない場合は立候補資格を剥奪される可能性があることを理由に、アンケートの実施に反対した。
(イ)キロガ元大統領の発言を受け、3日、野党連合への参加表明をしていたカマチョ・サンタクルス県知事、メディーナ統一党(UN)党首らは、「アンケート調査の実施はいかなる法律や選挙規則にも違反しない」としてキロガ元大統領を批判。キロガ元大統領は野党連合構想からの離脱を表明した。
(ウ)5日、キロガ元大統領は、メディーナUN党首が野党連合に係るアンケート調査の資金を調達しており、これは当初合意された調査とは一致せず、このアンケート調査は操作されていると示唆。改めて自身が本アンケート調査とは無関係であるとTSEに書簡を送付した。
(エ)9日、カルロス・メサ元大統領は単独候補擁立の合意が成立しないと判断し、野党連合からの離脱を表明した。
(オ)同9日、野党連合(メサ元大統領とキロガ元大統領が離脱後の残存メンバーで構成される)は、メディーナUN党首を擁立すると発表。メディーナ氏はその他の野党連合に加盟していた複数の候補者等に囲まれながら、8月の選挙での勝利を保証し、経済危機を脱するために自身を信頼するよう国民に求めた。これに対し、キロガ氏は、メディーナUN党首を野党連合の候補者とする宣言はアンケート調査に基づくものとしているが、誰もその結果をしらないと批判した。
(カ)14日、社会民主党(MDS)と左派革命戦線党(FRI)は「自由と民主主義同盟(LIBRE)」を結成し、キロガ氏を大統領候補として迎えることで合意した。
キ その他野党の動向
(ア)13日、レィエス・コチャバンバ市長とチュン神父は選挙協力に関する会談を行ない、候補者の登録期限前に別々の政党に登録し、アンケート調査で立候補者を決定することに合意した。
(イ)22日、ロドリゴ・パス上院議員は、キリスト教民主党(PDC)から大統領選挙に出馬することを明らかにした。
(ウ)23日、チュン神父はMNR党代表とともに記者会見を行い、大統領選挙参加のための提携への合意を発表した。最終決定は党大会が開催される5月11日となる。
(エ)27日、キリスト教民主党(PDC)のサンタクルスの一部党員はハイメ・ダン氏を大統領候補として選出した。これに対してロベルト・カストロPDC党代表は、ロドリゴ・パス氏を党の候補者として承認した。
(2)「クーデタ未遂」にかかる容疑者逮捕
10日、内務省は2024年6月に発生した「クーデタ未遂」にかかるドキュメンタリーを公開。翌11日、国家警察は同ドキュメンタリーで未遂事件への関与が指摘されていた5名に逮捕状を発出した。うち4名が逮捕され、ラパスに送致された。12日、右逮捕状に関し、証拠不十分を理由にバルダ弁護士のみが釈放された。
14日、ラパスの検察庁は、昨年6月の「クーデタ未遂」事件で告発され、市民内閣の閣僚メンバーリストに含まれている人物を召喚すると発表。検察庁は、彼らが証人として召喚されるだけであるとした。
21日、「クーデタ未遂」事件に関与したとして、リチャード・リベラ下院議員が逮捕された。リベラ氏の弁護側は、議会特権の侵害を批判している。
(3)TSE長官選出
29日、TSE本会議は、オスカル・ハッセンテウフェルをTSEの副長官に選出し、5月2日に就任することになった。また、長官選出について判事の合意が過半数に達しなかったため、ハセンテウフェル氏が暫定長官を務めることになった。2 外交
(1)米国との関係
ア 3日、モラレス元大統領は米国が新たに課す関税について、米国は関税と天然資源を奪うための侵略により、世界各国の犠牲の上に立ち直ろうとしていると批判。イ 4日、外務省は米国の関税引き上げを批判。この決定は国際貿易の原則とWTOでの公約に反するだけでなく、全世界の経済に悲惨な結果をもたらす国際的な関税戦争を引き起こすと指摘。
ウ 7日、アルセ大統領は記者会見にて、米国が課した関税は政治的決定であるとして、関税賦課を全面的に否定した。また、米国の保護主義的な政策は、世界的な不況を引き起こす可能性があると警告した。
(2)CELACサミット
8日、ソサ外相は、CELAC(ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体)外相会合に参加するため、ホンジュラス(テグシガルパ)を訪問。同外相は本会議で、米国が推進する貿易戦争の激化を糾弾し、経済的・政治的主権を保証する地域ロードマップの構築を提唱した。(3)韓国との関係
10日、韓国のチャン・ミョンス特使が韓国・ボリビア国交樹立60周年を記念し、協力強化のためボリビアを訪問。同特使はチョケワンカ副大統領、開発企画大臣等と会談するとともに、新たな韓国経済開発協力基金に署名した。25日、外務省は本日、韓国との外交関係樹立60周年を祝うメッセージをXに掲載。イ大使は、ソサ外相と会談し署名を披露した。
(4)メルコスール外相会議
12日、ソサ外相はメルコスール外相会議において、ボリビアがすでに220以上のメルコスールフォーラムや技術グループに参加していることを報告、第14回ビジネスフォーラムへの参加にボリビアが関心を示していることを表明した。(5)中国と米国の関税について
ア 16及び17日、王良在ボリビア中国大使はサンタクルス商工サービス観光会議所(CAINCO)、東部農業会議所(CAO)、ボリビア対外貿易研究所(IBCE)を訪問。米国の関税措置に対する中国の反対姿勢をアピールするとともに、二国間の経済貿易協力について意見交換した。同大使は、米国の措置は一方的で保護主義的であり、中国の対抗措置は自国の主権と国際的な公正・正義を守るためであると表明した。イ 王良大使は、当地『La Razón』紙のコラムを通じて、米国の貿易措置を批判しつつ、中国の対抗措置の動機、ボリビアの対外貿易における中国の重要性について見解を表明した。
(6)教皇死去に関する公式コミュニケ
フランシスコ法王の死去を受けて、アルセ大統領、チョケワンカ副大統領、外務省、キロガ元大統領、モラレス元大統領等が弔意を表明した。(7)UNPFII
23日、第24回国連先住民族問題に関する常設フォーラム(UNPFII)において、ソサ外相は、コカの葉の麻薬スケジュールIからの除外、アカデミズムの「脱植民地化」、「Vivir Bien(よく生きる)」の認知、ウイパラの世界共通シンボル化等の7つのアクションを提案した。また、ボリビア先住民族・農民団体の代表組織はチョケワンカ副大統領を国連事務総長の先住民候補として提案した。(8)BRICSについて
28及び29日、ソサ外相はBRICS外相会議に参加。また、キューバ、ベラルーシの両外相と戦略分野での協力強化に向けた二国間会談を行った。(9)チリとのビザ免除
ボリビアとチリは、外交旅券および公用旅券の査証(ビザ)および公用滞在許可証の相互免除に関する協定に調印した。(10)イスラエルとの関係
29日、ボリビア外務省は、パレスチナ占領地におけるイスラエルの義務について国際司法裁判所が開催した口頭審理の枠組みで提示された法的論拠をまとめた。ボリビアは、イスラエルによるパレスチナ占領地での国連および第三国の活動に対するイスラエルの義務について、国際司法裁判所の諮問的意見手続きに参加した。同日、ロベルト・カルサディージャ駐オランダ大使が国際法律チームを伴って口頭陳述を行った。3 日本との関係
(1)円借款法案
16日、ボリビア立法議会は日本が提供する「新型コロナウィルス感染症対応緊急支援借款」の承認に向けた法案の再審議を否決した。(2)洪水被害に対する日本の緊急援助
17日、ボリビア外務省はコミュニケを発表し、洪水被災地への支援と復興に向けたモーターポンプ25台等の寄贈に対し、日本政府への謝意を表明。(3)チョケワンカ副大統領の訪日
ア 21日、2025年大阪万博で開催されたボリビアのナショナルデーにチョケワンカ副大統領が参加した。イ 23日、チョケワンカ副大統領と林官房長官は、二国間協力、地域協力の強化に対する両国のコミットメントについて会談した。また、同副大統領はボリビア国民を代表し、洪水被害に対する日本の緊急援助に感謝した。
ウ 24日、同副大統領は宮崎JICA副理事長と会談。ボリビアで発生している大規模洪水被害やアマゾン地域の環境保全対策等について意見交換を行った。