ボリビア内政・外交(2024年11月)
令和6年12月2日
1 内政
(1)モラレス派による大規模抗議運動と政府による対応(一部モラレス派による軍施設占拠事案の発生)
11月1日、10月14日より続いているモラレス派によるコチャバンバ県内の主要幹線道路上の複数箇所における無期限の道路封鎖を受けて警察との衝突が発生していたところ、国軍及び警察は、道路封鎖解除に向けた大規模な作戦を開始。コチャバンバ県パロタニにおいて、モラレス派と軍及び警察による大規模衝突が発生したほか、一部モラレス派がコチャバンバ県ビジャ・トゥナリの軍施設(カシケ・フアン・マラザ基地)を占拠し、軍関係者及び民間人を人質にする事案が発生。なお、本事案の発生に対し、アルセ大統領は自身のSNSに緊急のメッセージを投稿。モラレス派による軍施設占拠を暴挙と糾弾した上で、毅然とした態度で対応していく旨国際社会に向けて発出した。また、モラレス元大統領もまた事態のエスカレートを望まないとし、ハンガーストライキの実施について投稿した。
11月2日、ボリビア外務省はモラレス派による軍施設占拠を糾弾する声明を発出した。
11月4日、ボリビア国防省も同じく、モラレス派による軍施設占拠を糾弾し、モラレス派の道路封鎖に対して、引き続き毅然とした態度で対応していく旨の声明を発出した(11月5日時点で、軍施設の占拠事案は解決されている)。
(2)アルセ大統領の政権発足四周年にかかる演説
11月8日、アルセ大統領は、アルセ政権発足四周年に際しての演説を行ったところ概要と来年への抱負は以下のとおり。なお、本演説に先立ち国会で開催された2024年-2025年の国会会期の開会式において、モラレス派議員による暴動が発生したため、今回の大統領演説は国会議事堂外(大統領府前の広場)で行われた。ア 概要
アルセ大統領は、この4年間にボリビア政府は戦争、世界的なインフレ、気候危機に特徴づけられる国際的な問題に直面したが、最も大きな課題は国内における問題であったと指摘。例として、行政が提案する法律の立法負によるブロック、国際借款の不承認、クーデターの試み、大統領辞任の要求、道路封鎖による4000億ドル以上の損失、経済的な文脈では、投機的な攻撃、インフレ上昇、生活必需品の違法輸出、エボ・モラレス政権による石油国有化戦略の失敗を挙げた。
また、(演説の)数時間前、国会にて起きたエボ・モラレス元大統領の支持者による暴動についても具体的に言及し、国会での事件はモラレス派の議員の責任であると強調。この暴力は、エボ・モラレスが違憲な候補権を押し付ける目的と、刑事犯罪を隠すためのものであると指摘し、国会での出来事について国際社会に謝罪した。
イ 2025年への抱負
総選挙まであと10ヶ月。変革のプロセスには不十分な点や改善点もあるが、肯定的な成果を上げている、所得再分配の経済モデルは完璧ではないが、公正に、かつ、富裕層と貧困層の格差を縮小している、外部(米国およびIMF)の経済処方ではなく、独自の経済モデルを維持し独自の発展を目指していると指摘。ボリビアの200周年を団結と平和のうちに迎えようと呼びかけた。
(3)2025年大統領選にかかるモラレス元大統領の大統領選立候補資格の無効判断
11月8日、憲法裁判所(TCP)は、大統領を含む行政、立法、司法における選出者の任期を連続・不連続に関わらず2期までとし、3期目を明確に禁止する憲法命令第0083/2024-ECA号を下した。この裁定により、エボ・モラレス元大統領は2025年の大統領選に立候補出来なくなることが決定し、2025年大統領選挙への出馬を目指すモラレス元大統領の支持者は、同元大統領がMAS党の唯一の大統領候補者であると主張した上で、憲法裁判所の裁判官は正当ではないと主張し、同裁判官の辞任を要求。また、この判決を受け入れないよう最高選挙裁判所(TSE)に要請するとともに、法的措置を講じることを発表した。
11月10日、モラレス派支持団体はコチャバンバで会合を開き、判決を受け入れず、同元大統領をMASの唯一の大統領候補者とすることを再確認。ラパス市とスクレ市で抗議活動を開始し、選挙裁判所および憲法裁判所に対してモラレス元大統領領の候補者資格の承認を要求することを発表した。
11月22日、モラレス派支持団体はコチャバンバで緊急集会を開催し、全16決議をまとめた文書を公表した。同決議文には、モラレス元大統領を2025年大統領選のMAS党候補者として支持すること、10月の道路封鎖で拘留されている支持者の解放、そしてロドリゲス上院議長が6月に可決した法案に基づく、任期延長された司法判事の即時解任等を要求している(当館注:ロドリゲス上院議長が6月に強行採決した当該法案については、既に憲法裁判所が無効の判断を下している)。
(4)MAS党内部対立の行方
11月14日、憲法裁判所(TCP)は、アルセ派及びモラレス派のそれぞれ両派閥が党大会として実施した集会の有効性にかかる判断について、アルセ派が5月にエル・アルト市で実施した集会をMAS党大会として認める判決を下した。同判決によりグロベール・ガルシア氏(ボリビア農民労働者統一連合所属)が正式に新MAS党首として選出されることになった。なおこの決定に際し、ガルシア新MAS党首は、党内規約の刷新をすべく、新たな党大会の開催を通知した。翻って、モラレス元MAS党首は今回の憲法裁判所の判決は違法であり認められないとして、同22日にモラレス派の会合を招集することを公表した。
11月27日、選挙管理裁判所(TSE)本会議において、同14日の憲法裁判所による判決を支持することを可決した。
(5)司法選挙の部分的実施の決定
11月4日、憲法裁判所(TCP)第4特別法廷は、複数の県で提出されていた司法選挙の中断を要請する訴えについて一括で審議した結果、原告の訴えを認め、ベニ県とパンド県における最高裁判所(TSJ)判事選出にかかる司法選挙実施手続き、パンド県、コチャバンバ県、サンタクルス県、ベニ県、タリハ県における憲法裁判所(TCP)判事選出にかかる同手続きを合わせて無効とし、新たな公募実施を選挙管理裁判所に要求する裁定第0770/2024号を下した。この憲法裁判所の裁定に対し、選挙管理裁判所(TSE)は、司法選挙実施にかかる「排除の原則(principio de preclusión))」を無視しているとして強く反発、ハッセンテウフェル選挙管理裁判所長官は、「排除の原則」はボリビアの選挙制度の基本原則であり侵害することの危険性について強く警告するとともに、不服申し立てと説明要求を憲法裁判所に送付した(当館注:当地の選挙制度法によれば、「選挙手続き、国民投票、委任状取り消しの段階と結果は、見直したり繰り返したりしてはならない」とする規定であり、パレンケ氏の不服申し立ては既に選挙管理裁判所で審議、不受理で処理されていたため、同原則に基づけば如何なる裁判所も右処理を覆すことはできないとされる。)。
11月13日、選挙管理裁判所から提出のあった不服申し立てと説明要求に対し、憲法裁判所は国家憲法令第0084/2024-ECA号を発出し、中断措置が執られていない各県の司法選挙については予定どおり実施することとして、部分的司法選挙の実施を選挙管理裁判所に命じた。よって、各県では以下のとおり司法選挙が実施されることとなった。
・ベニ県、パンド県:司法評議会議員と農業環境裁判所の判事の選挙
・コチャバンバ県、タリハ県、サンタクルス県:司法評議会議員、農業環境裁判所、最高裁判所の判事の選挙
・ラパス県、オルロ県、ポトシ県、チュキサカ県:司法評議会議員、農業環境裁判所、最高裁判所、憲法裁判所の判事の選挙
(6)ロドリゲス上院議長の再選
11月6日、上院議会において、アンドロニコ・ロドリゲス上院議長の再任が決定。4度目の再選となった。なお、上院議会幹部として、グラディス・アラルコン議員(MAS党)が第一副議長、アンドレア・バリエントス議員(CC党)が第二副議長、ロベルト・パディージャ議員(MAS党)が第一書記、クラウディア・エグエス議員(クレエモス党)が第二書記、ミゲル・ペレス議員(MAS党)が第三書記に選出された。(7)下院議長の選出
月6日、上院議会において、アンドロニコ・ロドリゲス上院議長の再任が決定。4度目の再選となった。なお、上院議会幹部として、グラディス・アラルコン議員(MAS党)が第一副議長、アンドレア・バリエントス議員(CC党)が第二副議長、ロベルト・パディージャ議員(MAS党)が第一書記、クラウディア・エグエス議員(クレエモス党)が第二書記、ミゲル・ペレス議員(MAS党)が第三書記に選出された。(7)下院議長の選出
11月6日、オマール・ユラ下院議員(MAS党)が下院議長に選出された。なお、下院議会幹部としてデイシー・チョケ議員(MAS党)が第一副議長に、トリビア・キスペ議員(CC党)が第二副議長、デルフォール・ブルゴス議員(MAS党)が第一書記、グスタボ・ピーニャ議員(MAS党)が第二書記、ホセ・ヘミオ議員(CC党)が第三書記、オスカル・ミシェル議員(クレエモス党)が第四書記に選出された。
(8)2025年大統領選にかかる動き
11月26日、マンフレッド・レイエス・コチャバンバ市長はエル・アルト市でイベントを開催し、自身の政党として登録活動中のスマテ党(Súmate)について登録に必要な署名活動を終了したことを報告した。11月27日、エヴァ・コパ・エル・アルト市長は2025年の大統領選に自身は出馬しないことを公表しつつ、現在全国政党としての登録に向けて申請中の自身の政党「国民刷新運動(Movimiento de Renovación Nacional (Morena))」党の登録活動に注力することを明らかにした。レイエス・コチャバンバ市長と同じタイミングで署名活動を始めたものの、27日時点で必要署名数の約30%しか獲得できておらず、2025年2月までに署名活動を完了する必要がある。
(9)憲法裁判所長官の交代
11月26日、パウル・フランコ長官に代わり、新たに、ゴンザロ・ウルタド判事が憲法裁判所長官に就任した。2 外交
(1)G20リオ首脳会議への出席
11月18日~19日、アルセ大統領は、ブラジルで開催されたG20リオ首脳会議に出席した。ボリビアのG20首脳会議参加はボリビアにとって今回が初。アルセ大統領は自身の演説において、「ボリビアは、誰一人取り残すことなく、平和、正義、そして地球と調和した開発を支持する、真に代表的で効果的な国際システムを構築するために、皆と協力し、その責任を負う用意がある」と述べた。なお、ブラジル滞在中、シャインバウム墨大統領、習近平中国国家主席、米州開発銀行総裁、ラテンアメリカ開発銀行総裁他と首脳会談を行った。
(2)中国との関係
11月19日、G20リオ首脳会議出席に際し、アルセ大統領は中国の習近平国家主席と首脳会談を行い、リチウム採掘・産業化にむけた共同計画への資金協力・管理を含めた二国間アジェンダについて協議した。なお、この首脳会談には、ガジャルド炭化水素・エネルギー大臣、モンテネグロ経済・財政大臣、ソサ外相、クシカンキ開発計画大臣の他、ボリビア石油公社(YPFB)のドルガテン社長、ボリビアリチウム公社(YLB)のアラルコン社長、ボリビア中央銀行(BCB)のロハス総裁がボリビア代表団として出席した。11月29日、ソサ外相は中国にて、ボリビア産チアの中国への輸出に向けて、植物検疫要件に関する議定書に署名した(余建華中国税関総局長が中国側として出席)。