ボリビア内政・外交(2024年7月)
令和6年7月1日
1 内政
(1)6月26日の「クーデタ」未遂事案関連
7月1日、アルセ大統領は、大統領府におけるラパス県社会組織代表者との会合において、「我々は何があってもボリビア国民の民主主義を擁護するつもりである。政府は、ボリビア国民から民主主義を奪おうとする者等『他の敵』に立ち向かわなければならない。政府が行っている唯一のことは、働くこと、産業化、そして我々の社会組織の正当性を証明することである。そして、それは我々にとって支払わなければならない代償であるならば、我々は喜んで支払う。」旨述べた。7月2日、ボリビア検察庁は、「クーデタ」未遂に関連して、民間人や軍人を含む約30人を捜査中であるとした。また同日、リンピアス内務省刑務庁長官は、逮捕済みのアルネス前海軍総司令官をラパス県のチョンチョコロ刑務所からラパス市内のサンペドロ刑務所に移送したと発表した。
7月5日、アルセ大統領は、コチャバンバ県サンティバニェスにおける会合において、6月26日のクーデタ未遂の背後には、リチウムを中心とする国の天然資源を管理・支配しようとする一部のセクターの利益があるとして、「クーデタ計画のみならず、我々の民主主義と権力を奪おうとする利害関係者がいる。彼らは我々の天然資源を管理しようとし、おそらく現在地球上で最も重要な(リチウム)資源を奪おうとしている。」旨述べるとともに、「6月26日の出来事について、少しずつ明らかになりつつある。軍人の参加だけでなく、2019年のクーデタに参加した者と同じ退役軍人・民間人の参加も証明されている。民主主義を守るため、常に警戒態勢をとるように。」旨国民に呼びかけた。
7月6日、アルセ大統領は、サンタクルスにおける社会組織との会合において、6月26日のクーデタ未遂のように、ボリビアの民主主義が蹂躙されることを決して許さないとして、「我々は、断ち切れない団結とボリビアの民主主義を守る鉄の結束を再確認する。」旨述べた。
7月8日、アルセ大統領は、パラグアイにて開催された南米南部共同市場(メルコスール)首脳会合に出席して演説し、6月26日のクーデタ未遂に際してメルコスール加盟国のほとんどが示した連帯に感謝し、危険が続いていることを非難して、「6月26日の軍事クーデタ未遂に直面し、ボリビア国民と私の政府に連帯してくれたほとんどの地域諸国に感謝せずには、この演説を終えることはできない。如何なる手段であれ、私の職務権限を短縮する危険性は消えていないが、民主主義と民主文化革命を守ろうとする我が国民とその政府の強固な意志も1ミリも後退していない。クーデターに反対を表明したメルコスール諸国及びこの困難な時期に揺るぎない支持を表明した国際社会に深く感謝する。彼らの連帯は、ボリビアの憲法秩序が崩壊しないための基本的なものであった。」と述べた。
7月8日、共犯として指名手配されていたアグレダ(Jose Antonio Agreda)退役将軍は自発的に出頭した。同人の弁護人は、ズニガ将軍が大統領に就任した際に読み上げるはずであった演説原稿を起案させられたのみで、クーデタには直接参画していないと主張しているが、検察庁は、同人は武装蜂起及びテロの罪に問われているとして、予防拘禁を要請した。
7月12日、アルセ政権を支持する統一盟約(Pacto de Unidad)が呼びかけた「民主主義擁護のための大行進」と名付けられた行進がエルアルト市からラパス市ムリーリョ広場まで行われた。
アルセ大統領は「ボリビア国民が示した堅固さと勇気は、6月26日にクーデタ者(golpista)に立ち向かう力を与えてくれた。 我々は、懸命に働いて取り戻した民主主義を擁護するために、必要な限り何度でも胸と命をかける覚悟である。 皆の変わらぬ愛と支援に心から感謝する。ボリビア国民は常に民主主義のために闘ってきたが、今日も例外ではない。投票での自分たちの一票を守るために、全国各地で街頭に繰り出し、再びそれを実証した。この偉大な集会は、右翼、ファシスト、そして世界に向かって、国民はクーデタを企てた者を容認しない。」旨の演説を行った。
(2)司法選挙
7月1日、チャールズ・メヒア弁護士は、自身の憲法裁判所判事への立候補が無効となったことについて憲法的訴えをベニ県第二憲法裁判所に提出したところ、同裁判所は司法選挙実施に向けたプロセスを一時停止することを命じた。7月2日、憲法及び司法の両合同委員会は、司法選挙実施に向けたプロセスを、チャールズ・メヒア弁護士の訴えが解決されるまで、再度停止することを決定した。
7月3日、憲法及び司法の両合同委員会は、チャールズ・メヒア弁護氏を改めて失格とする決議を3分の2以上の賛成で可決した。
7月8日、ベニ県第二憲法裁判所は、司法選挙実施に向けたプロセスの一時停止命令を取り下げた。
7月10日、水曜10日、ベニ県第二憲法裁判所は、ヘスス・マルティネス氏の最高裁判所(TSJ)選出に反対するハイディ・パディージャ氏の憲法的訴えを受け、再び予備選挙プロセスの停止を命じた。しかし、7月17日、ベニ県憲法裁判所は同県第二憲法裁判所の停止命令を取り下げる判断を下した。
7月19日、司法選挙実施に向けた選考プロセスは再開され、司法評議会議員と農業環境裁判所判事への志願者への口答審問が開始された。
7月29日、憲法及び司法の両合同委員会は口答審問に合格した20名の司法評議会委員候補と14名の農業環境裁判所判事のリストを副大統領府に提出した。
(3)2025年大統領選に向けた動向(予備選挙廃止に向けた動き)
7月10日、最高選挙裁判所(TSE)が招集した政党等会合が開催され、11の政党等(国民統一戦線(Unidad Nacional:UN)、左派革命戦線(Frente Revolucionario de Izquierda:FRI)、ボリビア国民行動党 (PAN-Bol)、民主社会運動 (Democratas)、連帯市民連合(Unidad Civica Solidaridad:UCS)、第三制度運動(Movimiento Tercer Sistema:MTS)、民族民主行動(Accion Democratica Nacionalista:ADN)、革命的民族運動(Movimiento Nacionalista Revolucionario:MNR)及び社会主義運動(Movimiento Al Socialismo:MAS)の9政党並びにCreemos及び市民共同体(Comunidad Ciudadana:CC)の2政治組織連合)代表、政府代表(プラダ大統領府相)、国会代表(ロドリゲス上院議長及びウァイタリ下院議長)及び社会組織代表等に加え、TSEを支援している国連開発計画(UNDP)及び欧州連合(EU)代表が参加した)。その結果、「民主化のための宣言」と呼ばれる12項目の文書が10政党等により合意されたが、MAS党を代表して参加したモラレスは同文書に署名せずに退席した。
なお、同宣言のうち、予備選挙に関連する項目は、4(TSEが起草した予備選挙一時停止にかかる法案を可決・承認するよう国会に要請する)及び11(他の国家機関から干渉されることなくTSEの管轄権を認める)である。
ちなみに、同会合において、モラレスは昨年ラウカ・エニェにて開催された「MAS党全国大会」の結果の承認を迫るとともに、党指導部刷新の期限延長を要求した。一方、モラレス支持派はTSE前のアバロア広場において予備選挙の実施を強く要求し、アルセ支持派と衝突した。なお、モラレスは、TSEからの退出時に、予備選挙実施を要求して街頭抗議活動を行う旨述べた。
7月11日、最高選挙裁判所(TSE)は、2025年総選挙にかかる予備選挙を廃止する法案を国会に提出した。右が国会にて可決、大統領により公布されれば、2025年総選挙にかかる予備選挙は廃止となる。
なお、7月19日、最高選挙裁判所(TSE)は、7月10日の政党合意に基づく2025年総選挙にかかる予備選挙廃止にかかる法案が国会において適時に可決されない場合、現行の政党法に基づいて8月中旬にも予備選挙の告示を開始せざるを得なくなる(注:告示から120日後が予備選挙の実施となる)とした。
(4)メルコスール加盟に向けた動き
7月3日、上院にて、2023年12月15日に国会に提出されたメルコスール加盟にかかる法案が可決された。2 外交
(1)ブラジルとの関係
7月8日夜~9日夜、ルーラ・ブラジル大統領はサンタクルスを公式訪問した。7月9日、アルセ大統領はルーラ伯大統領と、サンタクルス市内のホテルにて会談し、経済問題、政治対話、共同行動プログラムにおける協力を含む幅広い二国間議題を確認し、合計10の二国間協定等への署名式を実施した。
7月9日、ルーラ伯大統領は、アルセ大統領とともに、ボリビアの社会組織・団体(労働者総同盟(COB)、東部先住民連合(CIDOB)、アイルス・マルカス・デル・クジャスジョ全国理事会(CONAMAQ)、農民労働者組合連合(CSUTCB)等)の代表との会合に出席した。
7月9日、ルーラ伯大統領は、アルセ大統領とともに、ボリビア・ブラジル・ビジネスフォーラムに参加した。
(2)メルコスール加盟議定書の寄託
7月7日、ソサ外相は、パラグアイ・アスンシオンにおいて開催された第64回メルコスール理事会通常総会に出席して挨拶し、「ボリビアのメルコスール加盟は、地域の経済的・社会的発展に貢献する。メルコスールを全世界の統合、協力、相互補完の基準にしていく。それは、生物多様性と戦略的天然資源を外国の利益の包囲網から保護・保全することや産業化、協力の重要性など多岐に渡る。メルコスールは新しい世界秩序を構成する大きな道具となりうる。」旨述べた。7月8日、アルセ大統領は、パラグアイを訪問し、アスンシオンにて開催された南米南部共同市場(メルコスール)首脳会合に参列するとともに、ボリビアのメルコスール加盟議定書をペーニャ・パラグアイ大統領に寄託した。
(3)ベネズエラとの関係
ア 7月5日、アルセ大統領は、ベネズエラの独立記念日を祝福する旨のメッセージをマドゥーロ大統領へ宛てて、自身のSNSに投稿した。イ 7月28日、アルセ大統領、ソサ外相、モラレスMAS党首は、ベネズエラで行われた大統領選にて現職のマドゥーロ大統領が再選したことを祝福するコメントを各々自身のSNSに投稿した。