ボリビア内政・外交(2024年6月)
令和6年7月1日
1 内政
(1)MAS党内における内紛
6月2日、エフライン・モーロ・ボリビア農民労働者統一連合(CSUTCB)会長は、同団体の第26回大会において、モラレスを「干渉と分裂」を理由にペルソナ・ノン・グラータとしたことを明らかにした。アルセ大統領は6月1日、社会組織において 「分裂工作 」が行われていると強く非難し、農民団体のみならず、すべての社会部門における団結を呼びかけていた。6月10日、MAS党モラレス派は集会を開催し、モラレス党首を2025年大統領選の党唯一の大統領候補として選出するとともに、アルセ大統領を批判した。
6月28日、MAS党モラレス派は、9月3日、コチャバンバ県Villa Tunariにて党全国大会を開催する旨発表した。
(2)司法選挙
6月4日、ロドリゲス上院議長(MAS党モラレス派)は、アルセ大統領がロシアを訪問し、立法府議長であるチョケワンカ副大統領が臨時大統領を務めている間は憲法規定に基づき自身に立法府議長としての権限一時的に帰すると主張し、副大統領府に対して6月6日に国会本会議を招集するよう文書で要請した。このロドリゲス上院議長の行動は、司法選挙実施に向けた再起動に関する合意を含め、国会で可決されていない諸法案を解決したいという意図がある。6月6日、副大統領府は、ロドリゲス上院議長の要請(国会本会議の開催)を認め、国会本会議が開催された。なお、議題には当初、司法選挙実施に向けた法案など諸懸案となっている幾つかの法案に関する審議は含まれていなかったが、最低限の定足数を保証する28人の上院議員と81人の下院議員の出席を得た上で、3分の2以上の賛成をもって、本会議にて議題は変更され任期延長された司法判事の適格性を無効とすること、司法選挙実施に向けた再起動に関する合意、CAF融資の承認を求める法案が可決された。その後、チョケワンカ副大統領は、ロドリゲス上院議長の行為の合法性について審査するよう憲法裁判所(TCP)に書簡を提出した。
6月19日、TCPは、チョケワンカ副議長の提出した6月6日にロドリゲス上院議長の招集によって開催された国会本会議及びそこで可決された全ての事項を無効と判断した。なお、モラレスMAS党首は、自身の派閥に属するロドリゲス議長の一連の行動を擁護し、憲法裁判所の同判断を議会の権限を侵犯しているとして自身のSNSで批判した。
6月26日、国会司法及び憲法両合同委員会は、7月2日から司法選挙実施に向けた選考を再開すると発表した。
(3)2025年大統領選に向けた動向:予備選挙廃止の動き
6月7日、ハッセンテウフェル最高選挙裁判所(TSE)長官は、司法選挙を優先させる目的で予備選挙を廃止する法案を準備しているとして、「司法選挙と予備選挙の2つの選挙のうち、憲法に規定されている司法選挙が優先されることは明らかである。」旨述べた。6月18日、ハッセンテウフェルTSE長官は、Brujula Digital(ネットニュース)に対して、「2025年11月8日の新大統領及び新国会議員の就任を確実にするために、法律が規定する決選投票の可能性に鑑みると、2025年総選挙(大統領選挙及び国会議員選挙)は2025年8月、具体的には8月17日を想定、には実施されることが望ましい。その場合、決選投票は60日後の10月19日が想定される。右日程であれば、当選者確定後の当選証書の交付等TSEが行わなければならない選挙関連事務に十分な余裕が取れる。右日程を前提とすれば、2025年総選挙公示は2025年4月となり、そこから候補者登録が行われることとなる。」旨述べるとともに、「予備選挙については、政党法に規定された公示期間(120日)を考慮すると、本年内には公示しなければならないが、(国会における司法選挙の予備選考の進捗に鑑みると)それは極めて困難であることから、TSEは予備選挙の廃止にかかる法案を準備している。」とした。
6月18日、タウイチ・タウイチTSE判事は、2025年11月8日の新大統領就任を確実にするために、2025年総選挙は2025年8月に実施されるべきである旨述べた。
6月24日、最高選挙裁判所(TSE)は、政党等(TSE登録済み政党及び現国会に議席を有する政党等)の代表者を一堂に会しての「民主主義のための複数の政党・機関会合」を当初予定した7月3日から延期して、7月10日に招集すると発表した。
なお、MAS党アルセ派支持の統一盟約(Pacto de Unidad)は、グロベル・ガルシアをMAS党党首として法的に承認し、同会合に招待するよう要求した。それに対し、7月4日、TSEは現在のMAS党党首はモラレスであるとして、同人を招待する旨発表した。
(4)アルセ大統領の支持率低下
6月25日、ディアグノーシス社が発表した世論調査によると、経済的要因(米ドル・燃料不足)により、アルセ大統領の支持率は本年5月から6月にかけて34%から28%に低下しており、この2年間で最大の落ち込みを記録した。(5)メルコスール加盟に向けた動き
6月14日、下院にて、2023年12月15日に立法府に提出されたメルコスール加盟にかかる法案が可決された。(6)ズニガ陸軍総司令官(当時)率いる一部陸軍部隊によるラパス市内ムリーリョ広場一帯封鎖事案
ア 事案概要6月26日、14時30分過ぎから、ズニガ陸軍総司令官(当時)率いる一部陸軍部隊がラパス市内ムリーリョ広場一帯を封鎖する事案が発生、一時混乱が生まれるも17時半頃には同司令官(当時)とその部隊は撤収した。事案発生時、アルセ大統領をはじめボリビア中央政府閣僚は大統領府に集まっており、「クーデターに断固立ち向かうべく、ボリビア国民及び国際社会の団結を請う」旨のビデオメッセージをSNSに投稿した。事案が収束した17時半頃にアルセ大統領はチョケワンカ副大統領同席の元、陸海空軍の3司令官の交代式を大統領府にて挙行。サンチェス・ベラスケス(Jose Wilson Sanchez Velasquez)が陸軍総司令官、サバラ・アルバレス(Gerardo Zabala Alvarez)が空軍総司令官、ガルディア・ラミレス(Renan Wilson Guardia Ramirez)が海軍総司令官に新たに任命された。同日夜、ズニガ元陸軍総司令官は、陸軍司令部において国家警察に身柄を拘束された他、首謀者の一人として更にアルネス・サルバドール前海軍総司令官(26日夕刻解任)の身柄を拘束したことが発表された。なお、ズニガ元陸軍総司令官は拘束された際、今回の事案はアルセ大統領の指示の下行ったとして、「日曜日にアルセ大統領と会談した際、アルセ大統領から『状況は非常に混乱しており今週は特に危機的状況にあるので、自身(アルセ大統領)の人気を上げるために何かを準備する必要がある。』」と指示された。その際に装甲車を配置させるかアルセ大統領に問うたところ、『配置しろ』と指示があったので、日曜の夜から20台程度の装甲車をエルアルト市から(ラパス市に向けて)降ろし始めた。」旨報道陣に述べている。
6月27日、カスティージョ内相は、その他の共謀者についても現在調査中で随時公表していく旨述べ、これまでに計17名の軍関係者等の身柄を拘束したことを明らかにした。
6月28日、アルセ大統領は大統領府にて記者会見を開き、この事案がクーデターであること、モラレスMAS党首にも危険が近づいていることを警告していたこと、民主主義を擁護しクーデターに断固反対したボリビア国民への感謝について述べた。
イ アルセ大統領による「クーデター」自作自演説の浮上と政府閣僚による疑惑の否定
ズニガ元陸軍総司令官の暴露によりアルセ大統領の自作自演説が浮上し、野党を中心に政府に対して疑問を呈する声が挙がった。モラレスMAS党首を支持する一部社会団体も、「昨日の事案はアルセ大統領による自作自演のクーデター事件であり、アルセ大統領は自身の信用を失った。」旨発表している。6月27日、プラダ大統領府相は、自作自演説を全くの嘘偽りであり、昨日起きたことはクーデター未遂であると断言した。カスティージョ内相も、テレビ局のインタビューに応じた際、「政府中枢の人物を複数逮捕しているのに、偽りのものであるはずがない。」と一蹴した。
ウ ズニガ元陸軍総司令官の事案実行前の動き
6月23日、モラレスMAS党首は、ズニガ陸軍総司令官(当時)がロドリゲス上院議長、モラレス派のレオナルド・ソサ上院議員を殺す(bajar)旨発言している音声動画を持っているとテレビ番組で明かした。モラレスMAS党首によると、「Bajarとは軍事専門用語で殺すを意味する」と主張し、非常に憂慮しているとした。
6月24日、ズニガ陸軍総司令官(当時)はテレビ番組のインテビューに応じ、6月23日のモラレス党首の発言を強く非難するとともに、「憲法に則り、モラレスは大統領選への出馬を認めるわけにはいかない。軍は、憲法が尊重され遵守されるようにする使命がある。この使命を執行するために、軍は武装機関として、憲法によって権限を与えられたあらゆる手段を行使する。」と発言した。
同日、上記発言を聞いたモラレスMAS党首は「ズニガ陸軍総司令官による脅迫は、民主主義国家では一度も行われたことがない。もし、国防大臣、大統領、軍総司令官によって否定されなければ、彼らが実際に今行っていることはクーデターであることが証明されるだろう。」と投稿した。
ズニガ陸軍総司令官(当時)の24日の発言は、SNS上・政界に議論を引き起こし、野党議員はズニガを刑事訴追すべきだと主張し、ロメロ元大統領府相(モラレス派)もズニガの軍歴の監査を要求するに至った。
6月26日午前、SNS上において、アルセ大統領に呼び出されズニガ陸軍総司令官(当時)が解任されたという噂が流れたものの、ズニガは即座に否定し、「私はこれからも多くの活動を遂行しなければならない。私は国の兵士であり、上官の命令には忠実に従う」と語っていた。
2 外交
(1)メキシコとの関係
6月2日及び3日、アルセ大統領は、クラウディア・シェインバウム・メキシコ大統領候補が6月2日のメキシコ大統領選挙で勝利したことを祝福し、両国の関係強化を期待する旨を自身のSNSに投稿した。(2)中国との関係
6月15日、習近平国家主席の71歳の誕生日に際し、アルセ大統領及びモラレスMAS党首は、自身のSNSに祝福するコメントを投稿した。(3)ロシアとの関係
6月5日~7日、アルセ大統領はロシア・サンクトペテルブルクを訪問し、6月6日にプーチン露大統領と首脳会談、6月7日にサンクトペテルブルク国際経済フォーラムに出席したほか、複数のロシア系企業と会談を行い、両国の関係強化、リチウム開発、ボリビア市場へのディーゼルや液体炭化水素の供給の可能性について話し合った。(4)パラグアイとの関係
6月13日、パラグアイのペーニャ大統領はボリビアを公式訪問し、アルセ大統領と首脳会談を行った。なお、同首脳会談では、両国の貿易促進に向けたロードマップに合意した他、科学および領事分野における協力に向けた文書に署名した。(5)米国との関係
6月17日、在ボリビア米国大使館は6月13日にモンテネグロ経済・財政担当大臣が、ボリビア経済閉塞の背後には米国の存在がある旨発言したことに対し、SNSにて虚偽であるとして強く否定した。6月24日、ボリビア外務省はデブラ・ヘビア米国臨時代理大使を召還し、米国大使館の一連の言動が内政干渉に当たるとして懸念を伝えたとする声明を発出した。