ボリビア内政・外交(2024年5月)

令和6年6月3日

1 内政

(1)MAS党内における内紛

 5月1日、2日後に迫っていたアルセ派によるMAS党全国大会について、全国選挙裁判所(TSE)は再び監督を拒否する旨決議した。拒否した理由の一つは、同大会の開催は正式に認められたMAS党全国指導部によるものではない点を挙げた。
 5月2日、ラパス地方裁判所憲法第一法廷はTSEに対し、5月3~5日にエルアルト市で開催されるアルセ派MAS党大会に同行するよう予防措置を指示した。これに対しTSEは緊急本会議を開催し、バルガス副長官は他司法機関からの干渉を非難しつつも、憲法裁判所に提訴した上訴判決を待つ間、SIFDE(TSEの内部機関)から監視団を暫定的かつ例外的に派遣することを決定した旨発表した。
 5月3日、エルアルト市においてアルセ派主導のMAS党大会が開催された。なお、同開会式にはアルセ大統領及びチョケワンカ副大統領が出席した。アルセ大統領は、この大会は各社会組織が政治的手段を回復すべく、再始動させるものであると述べた。またチョケワンカ副大統領は、「国民は分断、二極化、互いを妨害することにうんざりしている。国民は賢明であり、互いを妨害し合うことで得られる唯一の勝者は貧困であることを知っている。お互いを分断し、辱め合い、口笛を吹き合い、中傷し合い、追放し合うのはもう沢山だ。」とし、個人主義、恐怖、暴力に対抗すべく国民の団結を願った。
 5月5日、5月3日より開催されていたアルセ派による国民集会は、グロベル・ガルシア氏を新たなMAS党党首として選出した。ガルシア氏は、MAS党規約の改正(大統領選出馬要件である10年間の党員資格証明など)を行うべく、数ヶ月の内に緊急会議を招集する旨述べた。
 なおモラレスMAS党首は、同大会は違法であり、TCPによるTSEに対する監視団派遣命令は「政府の押し付け」であると批判したうえで、法的闘争を続ける旨明らかにした。
オ 5月7日、TSEはMAS党に対して、期日までにMAS党内指導部の刷新を終えなかったため、初の警告を行った。
カ 5月8日、各政党・政治組織の指導部刷新猶予として更に120日の猶予を与えることをTSEは決定した。今回の猶予延長は5回目に当たる。なお、11の政党の内、党内指導部の刷新に成功したのは3政党のみである(社会運動党(Demócratas), 国民統一戦線(UN) 、 左派革命戦線党(FRI)が該当する。)
 5月9日、アルセ大統領は報道陣の前で、MAS党がTSEから警告を受けたことに対し憂慮している旨発言し、モラレスMAS党首に対して自省とアルセ派が主導するMAS党大会への参加を呼びかけた。
 5月12日、9日のアルセ大統領の発言に対し、モラレスMAS党首は、「アルセ大統領がMAS党を破滅に追いやらないこと、自身の大統領出馬に関する権利を脅かさないことを確約する」旨を自身のMAS党大会出席の条件として提示した。
 5月23日、TSEは5月3日~5日にかけて、エルアルト市で開催されたアルセ派MAS党大会について認めない旨、本会議で全会一致にて可決した。なお、認められない大きな理由としては、やはり、同党大会がTSEの認めるMAS党全国指導部によって開催されたものでないことが挙げられる。
なお、モラレスMAS党首はこのTSEの決定に際し、「MAS党を分断と破滅から救うべく、正当かつ合法的な党大会を開こう」と支持者に訴えた。

(2)司法選挙

 5月8日、パンド県地方裁判所第一憲法法廷にて下された、司法選挙の事前選考停止命令が正式に憲法合同委員会に通知されたことに際し、同委員会のミゲル・レハス委員長は「短期的に実施できる新たな法案を作成するか、選考に残っている候補者の権利を守るべく、この判決に従わないという選択肢もあるだろう」と仄めかした。またロドリゲス上院議長は、司法選挙手続きを無効とする判決を無視するイニシアチブを支持した。ロドリゲス上院議長によると、判決を下した判事たちは "違憲 "に任期を延長されているから正当性を有さないからである。「現在の判事たちは、そのすべての行為が無効であり、それ自体が無効なのだ。これらの判決が違法なメンバーから出されたものであるならば、いずれにせよ、それら(判決)は尊重されるべきではない」と水曜日の記者会見で述べた。
 5月16日、チョケワンカ立法府議長は両院議長、主要3政党国会団長を招集した会議を招集するも、司法選挙実施に向けた合意を形成するには至らなかった。なおチョケワンカ立法府議長及びアルセ派議員は憲法裁判所の決定を待つべきと主張し、モラレス派議員は立法府本会議を開催し司法選挙を再開すべきとし、両派の溝は埋まらなかった。
 5月23日、国家憲法裁判所(TCP)第二法廷はパンド県地方裁判所第一憲法法廷の判決について、女性と先住民の権利を保護することは求めつつも、司法選挙実施プロセスの一時停止命令は取り消す判断を下したことで、司法選挙実施に向けた予備選考プロセスは再始動するかに見えた。しかし、司法合同委員会委員長のロベルト・パディージャ上院議員によれば、司法選挙実施について定めた法律第1549号に従えば、予備選考プロセスを5月5日に終える必要があり、既に期日を大幅に過ぎてしまったが故に、司法選挙実施に向けて再始動するには新たな法的根拠が必要となることを仄めかし、チョケワンカ立法府議長が立法府本会議を招集する必要があると示唆した。
 5月26日、司法選挙実施に向けてイニシアチブをとってきた司法合同委員会及び憲法合同委員会は、23日のTCP判決にかかわらず司法選挙開始に踏み切れずにおり、リマ法相は憤りを表明、ロドリゲス上院議長は、司法選挙再会に向けて、司法選挙実施の猶予期間を延長する新たな法案を作成中であることを明らかにした。
 5月27日、立法府議長であるチョケワンカ副大統領は司法及び憲法合同委員会議長に対して、司法選挙実施に向けて再始動する旨要請する書簡を発出した。
 5月30日、パディージャ国会司法合同委員会委員長(上院議員)は現在同委員会において、司法選挙再開にむけた法案に関する提案と意見書を作成しており、チョケワンカ立法府議長に送付予定であることを明らかにしつつ、チョケワンカ副議長が立法府本会議を招集し、司法選挙再開に向けたコンセンサスを得るべきだと述べた。

(3)2025年大統領選に向けた動向(5月13日付け「ラ・ラソン」紙の報道)

 CELAG(Centro Estratégico Latinoamericano de Geopolítica)が実施したアンケート調査の結果として、58パーセントの回答者が、次期選挙において野党がMAS党に勝利することは出来ないと回答したことが明らかになった。また、野党候補の中でマンフレッド・レジェス現コチャバンバ市長がMAS党候補に勝利する最有力野党候補として選ばれた(14.8パーセントの回答者がその旨回答)。加えて、62パーセントのアンケート回答者が、野党の連携は成立しないと回答している。

  

2 外交

(1)イランとの関係

 5月20日、ヘリコプター墜落事故によるライースィ・イラン大統領等の死去に対して、哀悼の意を表明すべく、ボリビア外務省は声明を、アルセ大統領が自身のSNSにメッセージを投稿した

(2)ロシアとの関係

ア 5月7日、アルセ大統領は、ロシアのプーチン大統領の5期目の大統領就任に際し祝福するコメントを自身のSNSに投稿した。
イ 5月10日、ロシアの戦勝記念日79周年に際し、アルセ大統領は祝福のコメントを投稿するとともに、世界の平和と正義をかけた戦いとしてこの戦勝記念日を想起することの重要性を訴えた。
ウ 5月13日、アルセ大統領は、ロシアのプーチン大統領と電話会談を行い、ロシアの戦勝記念日を祝福した。また両国大統領は、両国関係をあらゆるレベルで強化していくことに合意した。

(3)中国との関係

 5月20日、ボリビア外務省は、「一つの中国」原則の支持、中国の代表が国連における唯一且つ政党な代表であること、台湾の早期の再統一に向けた努力を歓迎すること、中国への内政干渉を拒否する旨の声明を発出した。

(4)イスラエル・パレスチナ情勢

 ア 5月10日、ボリビア外務省は、国連総会においてパレスチナ加盟について多数の支持があったことを祝福する旨の声明を発出した。
イ 5月13日、ボリビア外務省は、東エルサレム及びヨルダン川西岸地区におけるイスラエル人入植者による最近の暴力行為及びガザに向かうヨルダンの人道援助隊に対する攻撃、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の施設と職員に対する攻撃について非難し、イスラエル当局に是正を求める旨の声明を発出した。

(5)米国との関係

 5月25日、ボリビア外務省は、米国による対キューバ「テロ支援国家(SST)」指定について、キューバをテロ支援国家として選択的に分類し米国が一方的に作成したリストを断固として拒否する旨の声明を発出した。

(6)ドミニカ共和国との関係

 5月20日、アルセ大統領は、5月19日に実施されたドミニカ共和国の大統領選挙において再選したアビナデル大統領への祝意を表明した。