ボリビア内政・外交(2023年11月)

令和5年12月1日

1 内政

(1)MAS党の内紛

 11月1日、最高選挙裁判所(TSE)全体会合は、全会一致にて、10月3日~4日にコチャバンバ県チャパレ地方ラウカ・エニェにて開催された第10回MAS-IPSP党(以下、MAS党)全国大会の登録及び決定事項を、党規約及び党全国大会の招集に規定された政党法の要件を遵守していなかったとして無効とするとともに、MAS党指導部に対して、種々規定に即した新たな党大会を開催するよう命じた(10月31日付けTSE決議)。
 当該MAS党全国大会を監視したTSE内の組織である「民主主義強化のための多文化局(Sifde)」の報告書によると、MAS党規約は指導部役員に選出されるためには10年の党員歴を有することを要件としているが、今般同党全国指導部として選出された全16名の内、同規約を満たしていたのは、モラレスを含む2名のみであった。また、モラレスを始め指導部に選出された者が党員証を明示的に提出しなかった点、さらに、政党法(法律第1096号第29条:大統領選挙への立候補は党内予備選挙を経る必要がある旨規定)に抵触する点もTSE決議の根拠とされている。
 その結果、モラレスMAS現党首を党首に再任するとともに、2025年大統領選挙の唯一のMAS党候補として選出した等の当該MAS党全国大会の決定事項は無効とされ、TSEは、新たなMAS党全国大会を180日以内(2024年4月まで)に開催し新たな指導部を編成することをMAS党に命じた。なお、新たな指導部が選出されるまでは、2017年に選出された現行の指導部(モラレス党首以下モラレス派)が党指導部職務を継続することを認めている。

(2)2023-2024年会期の上下両院新執行部の選出

ア 下院議長の選出 
 11月3日、下院は、現メルカド議長に代わり、ウァイタリ(Israel Huaytari Martinez)議員(MAS党、ポトシ県)を次期2023-2024年会期の下院議長に選出した。
MAS党からは、党内刷新派が支持するウァイタリ議員とモラレス派が支持するママニ議員が候補に挙げられていたが、下院における投票の結果、野党市民共同体(CC)及びCreemosの一部議員の支持を得たウァイタリ議員が選出された。
 なお、第一副議長にはチャルコ(Veronica Chalco Tapia)議員(MAS党)及び第二副議長にはナヤール(Laura Luisa Nayar Sosa)議員(CC)が併せ選出された。
イ 上院議長の選出
 11月7日、上院はロドリゲス(Andronico Rodriguez)現上院議長(MAS党、コチャバンバ県)を引き続き次期2023-2024年会期の上院議長に選出した。ちなみに、同議長の4期連続の選出は、MAS党内で、ロドリゲス議長の続投を支持するモラレス派とアナ・マリア・カスティーリョ上院議員を擁立するアルセ派の調整がつかず、上院の2回目の投票に持ち越されたが、結果、36票中26票を得て、ロドリゲス現議長が4選された。議長選出のために野党との協調路線をとったことで、MAS党内部、同党支持基盤である社会組織から非難を浴びての4選となった。
 なお、第一副議長にはキスペ(Simona Quispe)議員(MAS党)及び第二副議長にはサンタ・マリア(Daly Santa Maria)議員(CC)が併せ選出された。
 

(3)アニェス元暫定大統領に対する裁判

 11月2日、最高裁判所は、アニェス元大統領弁護団が提出していた一部訴えを認め、求刑されていた10年間の服役の見直しと2019年当時のモラレス大統領とその閣僚の当時の動き(辞任と国外逃亡)について再調査することを決定した。
 11月9日、サカバ市第一地方決裁判所は、2019年のサカバ事件で告発されたアニェス元暫定大統領らに対して同裁判所が裁判管轄権を有さない旨裁定した(当館注:サカバ事件は、2019年11月15日に起きた治安当局とデモ隊の衝突により、コチャバンバ県サカバ市にあるワイラニ橋で市民10人が死亡した事案)。
 裁判管轄権を有さない旨の裁定について、アニェス元暫定大統領は、「当該事案については弾劾裁判を受ける権利がある」旨自身のSNSに投稿した。
 なお、2週間前には、エルアルト市地方裁判所もアニェス元暫定大統領他の被告に対するセンカタ事件の裁判管轄権を有さないとの判決を下している(当館注:センカタ事件は、2019年11月19日にエルアルト市センカタ地区において当局とデモ隊の衝突により、市民10人が死亡した事案)。
 サカバ及びセンカタ事案にかかる二つの裁判所が、アニェス元暫定大統領を通常裁判手続きを通じて起訴することはできないと宣言したことを受け、検察庁長官は、独立した透明性のある司法の権利を脅かすこれらの判決を覆すべく、あらゆる法的手段に訴える旨声明を出した。
 11月13日、上記二つの地方裁判所によるアニェス元大統領に対する裁判管轄権を有しない旨の裁定に対し、プラダ大統領府相は、アニェス被告の訴訟手続きを通常の裁判所に差し戻すよう、原告団の一部である遺族団体(Sepdavi)を通じて、政府が上訴したことを明かした。
 11月24日、ラパス県裁判所第4刑事法廷は、センカタ事件についてアニェス元暫定大統領を裁くことはできないとしたエルアルト第4量刑法廷の裁定を覆し、センカタ事件において罪に問われているアニェス氏ら17人は通常裁判で裁かれる旨裁定した。

(4)アルセ政権3周年

 11月8日、アルセ政権は3周年を迎え、国会にてアルセ大統領及びチョケワンカ副大統領が演説を行った。
 アルセ大統領の演説は57分間続き、コロナパンデミックからの経済の回復、ボリビアのインフレ率の低さを強調した。また、司法制度改革、ボリビア内外の民主主義を脅かそうとする者達の存在を懸念事項として挙げた。

(5)マイタ外相の退任とセリンダ・ソサ・ルンダ新外相の就任

 11月14日、2020年11月のアルセ政権発足から現在まで外相を務めていたロヘリオ・マイタが退任した。新外相が就任するまで、プラダ大統領府相が暫定外相を兼任する。なお、マイタはアンデス共同体司法裁判所の判事に任命される。
 11月27日、アルセ大統領は、空席となっていた外相にセリンダ・ソサ・ルンダを任命し、就任式が行われた。ソサ新外相は、ボリビア外交の特徴である「生命のための人民外交」の道を歩み続けることを改めて表明するとともに、ボリビア外交の前進、BRICSグループへの接近、国連憲章と世界人権宣言の原則と目的、そして国家の主権と独立への支持を強調した。

 

2 外交

(1)イスラエルとの関係

ア 11月1日、10月31日のイスラエルとの断交通知に続き、外務省は声明を発出して、イスラエル軍の国際法規違反を批判し、パレスチナ人民の生命の尊重と停戦を求めた。
イ 11月15日、ママニ外務次官は、「パレスチナ独立宣言の日」に合わせて、エル・アルワニ駐ボリビア・パレスチナ大使と会談し、パレスチナ国民の福祉、繁栄、平和への願いを表明するとともに、パレスチナ問題に対するボリビアの立場を確認し、多国間主義と国際法尊重の枠組みの中で、紛争の平和的解決につながるあらゆる国際的努力を支持する旨述べた。

(2)キューバとの関係

 11月3日、国連総会にてキューバへの制裁をやめるよう米国に求める国連決議が今年も大多数で可決された。投票の前に、ディエゴ・パリー国連大使は米国がキューバ人の人権を侵害する他、キューバの持続可能な発展を阻害していると批判した。

(3)ブラジルとの関係

 11月15日~18日、チョケワンカ副大統領は、ブラジルを公式訪問した。
ア メルコスール第18回先住民当局会議への参加
 11月15日、ブラジルが主催するメルコスール第18回先住民当局会議に参加し、文化的アイデンティティに関する重要な問題や、公共政策の文脈における先住民のルーツ回復の重要性を訴えた。
イ ブラジリア大学における講演
 11月16日、ブラジリア大学において、「良く生きる(Vivir bien)の地政学」と題する講演を行った。
ウ ブラジル先住民大臣との会談
 11月16日、ソニア・グアジャハラ・ブラジル先住民大臣と会談した。
エ ルーラ大統領表敬
 11月17日、ブラジリアにてルーラ伯大統領と表敬して会談した。
 多国間については、重要な地域統合の場としての南米諸国連合(UNASUR)の再出発及びブラジル上院によるボリビアの南米南部共同市場(メルコスール)正式加盟の承認が間近に迫っており、ボリビアにとって重要な機会を意味することが強調された。アマゾン協力条約機構(OTCA)については、両首脳はその重要性を強調し、先住民にかかるアマゾン・メカニズムやアマゾン基金など、様々な領域やツールの強化を約束し、次回のOTCA外相会合においては複数の拘束力のある決議が承認され、大きく前進することを確認した。また、ブラジルが支持し、現在手続き中のボリビアのBRICS加盟申請の重要性についても話し合った。
 二国間については、様々な問題の中で、伯のペトロブラスを通じた炭化水素探査、共同水力発電プロジェクト、アマゾンとパラナ-パラグアイ河川を通じた大西洋へのアクセス、マモレ川に架かる橋の近日中の建設、リチウム電池正極材の生産、肥料産業などの分野でブラジルの協力を進めるという両国の意欲が示された。

(4)アルゼンチンとの関係

 11月19日のアルゼンチン大統領選挙決選投票の結果、ミレイ候補の勝利が確実となったことについてアルセ大統領他政界要人が祝意コメント等を発信した。

(5)メルコスール加盟に向けた動向

 11月29日、ブラジル上院がボリビアのメルコスール加盟に関する議定書案を可決・承認し、ブラジル政府に送付した。
 ブラジルが承認すれば、ボリビアの加盟に向けて既存加盟国全てが承認したこととなる。