ボリビア内政・外交(2023年10月)

令和5年11月1日

1 内政

(1)MAS党内の派閥争い

 ア 第10回MAS-IPSP全国大会(10月3日~4日、於:コチャバンバ県チャパレ地方)
 10月3日及び4日、モラレス派が主導するMAS-IPSP(以下、MAS党)全国執行部が招集した第10回MAS党全国大会がコチャバンバ県チャパレ地方(注:モラレスの政治的基盤であるコカ葉栽培農民から構成されるコチャバンバ熱帯6連盟の本部がある地)ラウカ・エニェ(Lauca Ñ))にて開催された。
 なお、主催者であるMAS党全国執行部により、同大会の出席者は一組織当たり最大5名までに限定され、右等に反発してMAS党支持の最大の社会組織である統一協定(Pacto de Unidad)が全国組織としては代表を派遣しなかったほか、アルセ大統領もチョケワンカ副大統領も欠席した(9月27日、アルセ大統領は、同大会から社会組織が排除されたことを遺憾として欠席を表明していた。)こともあり、結局、出席した社会組織数は少なくとも45、そして、少なくとも1,075名が出席したことが確認されている(なお、モラレス党首以外の主要出席者は、ロドリゲス上院議長、サンチェス・コチャバンバ県知事等。)。
 10月3日朝、モラレス党首は「我々は、尊厳と進化的意識をもって、ラウカ・エニェにて開催されるMAS-IPSP第10回大会を妨害しようとする計画を打ち破り、人民の政治的手段(注:MAS党のこと)の団結を強固にし、最も謙虚な人びとの利益のために民主的・文化的革命の道を再開する歴史的な会合を開催する。我々は、分断主義の挑発に屈せず、政治的安定の保証としてMAS-IPSPを大切にする。」旨自身のSNSに投稿した。
 同日、モラレス党首は、開会挨拶において、「MAS-IPSPは、インディヘナ、先住民及び農民と共にある世界唯一の政治運動で、右セクターから生まれた。」旨述べた。 
 10月4日朝、モラレス党首は「我々は、ラウカ・エニェにて開催される歴史的なMAS-IPSP第10回大会に出席せず、信念によって動員された民衆の真の全国会議に初めて参加することを排除する一部の兄弟たちの決定を非常に残念に思う。経済的な野心のためではなく、革命的な信念から動員された党員が真の全国会議に初めて参加するためである。MAS-IPSPはラウカ・エニェにおける団結を強化し、人民政治装置(注:MAS党の意)の全国指導部の民主的選挙とともに革命の道を歩み続ける。」旨自身のSNSに投稿した。
10月4日、MAS党全国大会は、下記を決議し発表した。併せ、自発的に除名(auto explusión)したとして、同党大会を欠席したアルセ大統領、チョケワンカ副大統領及び反モラレス派の28名の国会議員・党員・政府高官等がMAS党から追放される旨の決議を承認した。
(1)我らが司令官フアン・エボ・モラレス・アイマをMAS-IPSP党首として批准する。
(2)創立200周年記念選挙(注:2025年選挙の意)の候補者として、司令官エボ・モラレス・ アイマを、MAS-IPSPの唯一の候補者とする。
(3)2025年選挙において、他の政党との同盟を行わない。
(4)現行の法令に従い、次回の国政選挙および地方選挙の候補者は、MAS-IPSPにおいて10年の年功を積んだ候補者であるべきである。
(5)党政治委員会は、規約、法律026、政党法に従い、該当する手続きを適用し、政治団体からの過激派の除名など、該当する重大な制裁の適用に進むよう、逃亡及び裏切りに関するすべての糾弾を党規律・倫理委員会に付託する。
(6)我々の政治組織MAS-IPSP及び歴史的な指導者であるエボ・モラレス・アイマ(ボリビア多民族国大統領200周年記念候補)の追放を回避するため、我々党員全体が、常時・最大限の警戒、非常事態にあることを宣言する。
10月4日、MAS党全国大会の決議が発表された3時間後、サンタクルス県農民女性連盟バルトリーナ・シサのフェリパ・モンテネグロ氏による、MAS党を構成する社会組織が同大会から排除されたことを理由とする訴えを受けて、サンタクルス県地方裁判所第一憲法法廷は、党員の政治的権利が侵害されているとして、同大会の停止(suspension)を命じた。
 右に対して、ディエゴ・ヒメネスMAS党顧問弁護士は、同裁判所の通告はMAS党には届いていないとして批判したが、いずれにせよ10月5日まで開催が予定されていた同大会は、サンタクルス県地方裁判所の通知から1時間余り後に、予定より一日早く10月4日をもって閉会した。
 同日、閉会の辞において、モラレス党首は「MAS党は祖国を再び救うために革命を回復させる。それが我々のビジョンである。残念なことに、ルーチョ(アルセ)とダビ(チョケワンカ)の政権は、デファクト政権(注:アニェス暫定政権)よりも、新自由主義的な政権よりも悪い。最後の瞬間まで、彼らはラパスから、スクレから、サンタクルスから、大会を延期させようとした。(しかし)団結のおかげで、代表団のおかげで、大会は合法的かつ正式に終了した。おめでとう。」旨述べて、本大会は合法(legal)かつ正当性(legitimo)を有するとした。
 10月5日、チュキミア最高選挙裁判所(TSE)判事は、MAS党全国大会で承認されたモラレス氏の2025年大統領選挙立候補は時期尚早であるとして、「2025年大統領選挙の立候補は、法的には第一次選挙(Primaria)を経なければならないことを覚えておく必要がある。第一次選挙が行われない限り、つまり第一次選挙が招集されない限り、いかなる立候補や宣言も時期尚早と言うことになる。」旨述べた。右発言は、政治団体に関する法律第1096号(政党法)第29条に基づくもので、同法は、総選挙について「政党または政治同盟は、TSEが招集し、選挙公示の120日前に実施される第一次選挙、義務的かつ一斉の選挙手続きで候補者を選出する。」旨規定している。
 10月14日、モラレス党首は、自身のSNSを通じて、MAS党全国大会にかかるMAS党の報告書を最高選挙裁判所(TSE)に提出した旨投稿した。
 なお、TSEは政党法に則して同大会を観察(オブザーブ)しており、MAS党が提出した報告書に基づき、同大会が政党法に則して開催され、同大会の決議等が有効であるか否か等を判断することになる。
 
イ アルセ支持派による国民集会(10月17日、於:エルアルト市)
10月17日、統一協定(Pacto de Unidad)(注:アルセ政権支持のMAS党支持の社会組織)が招集した国民集会(Cabildo del Pueblo)がエルアルト市セハにて開催された。
 統一協定は、9月25日にMAS党全国党大会の欠席を決定し、緊急事態を宣言するとともに、10月17日にエルアルト市において集会を招集する旨発表していた。
 主催者発表によれば、同集会には100以上の社会組織等から200万人以上が集まったとされ、政府も同集会への全面的支援を表明し、アルセ大統領は、チョケワンカ副大統領、閣僚等とともに出席した。一方、モラレス派は、同集会は約35,000人が参加したのみで失敗であるとした。
 ワラチ(Huarachi)ボリビア労働総同盟(COB)書記長は「政治的装置(注:MAS党のこと)及びこの変革のプロセスは、ルーチョ(アルセ)とダビ(チョケワンカ)により主導される。」旨述べ、アルセ政権支持を明言した。
 最後に、ボリビア農民労働者統一連合(CSUTCB)広報担当であるエフライン・モッロ氏によって20項目に渡る下記の政治マニフェスト(別添)が読み上げられ、受領したアルセ大統領は「我々は国民の声を聞くためにここに来た。我々は国民の、国民のための政府である。我々は常に社会組織に従う。我々は臆病者でも裏切り者でもない。我々は常に、組織された人々である我々の社会組織を尊重する。組織化された人々、ここに団結している人々こそ、すべての権力者の尊敬に常に値する。」と述べて、その履行を約束した。
・要求
(1)我々は、55%の得票率で民主的に選出された政府に対する反民主的でファシスト的な不安定化行為が続く場合に備えて、動員された抵抗運動を組織するべく、すべての労働組合及び社会組織に呼びかけ、国家レベルでの非常事態を宣言する。
(2)ボリビアの労働組合と社会組織を、我々の政治的装置の共同指導部として統合すること。
(3)ボリビア人民の社会・労働組合組織で構成される政治委員会を一時的に結成し、建国200周年に向けた「よく生きる」アジェンダと建国200周年後の政府プログラムを含む、祖国ボリビアの政治的地平をコンセンサスで定義する政治的テーゼを練り上げること。
(4)ラウカ・エニェの出来事は、社会組織、我々の党の基本原則、変革のプロセス、そして我々の人民の歴史的闘争に対する裏切りであるとして無視すること。
(5)ボリビア人民の社会・労働組合組織の先頭に立って、真のMAS-IPSP大会を開催し、我々の政治装置の基本的根源を回復すること。
(6)ボリビア人民に対し、祖国の同胞愛と団結の統合を守り構築するよう呼びかけること。
(7)すべての権限ある当局に対し、ボリビア国民に正義を下し、民主主義、正義と平等、ボリビア国民の団結を守るために命を捧げたボリビア人家族に与えたすべての損害を修復するよう要求すること。
・立法議会へ
(8)ボリビア国民によって民主的に選出された政府の運営を妨げることなく、国民に利益をもたらす法律を可決し公共政策への支持を要求することによって、異なる政治勢力の議員に対しその憲法上の使命を果たすよう促すこと。
・行政府へ
(9)変革のプロセスの深化を進めるため、ボリビア人民の労働組合と社会組織が政府の公的管理に積極的に参加する社会内閣を結成すること。
(10)人民運動の歴史的成果を尊重し、政府を妨害せず、人民から盗みを働かず、行政における深遠な脱植民地化・脱父権化の実行を要求する、良心と信念と政治的コミットメントを持った当局によって、閣僚、次官、その他の国家機関を評価し、調整すること。
(11)腐敗と官僚主義を追放し、多民族国家に依拠した、地域社会に根ざした、迅速且つ透明な公共管理システムを実施すること。
(12)ボリビア国民の主権と利益を優先するさまざまな地域的生産複合体を通じて、母なる大地との調和と均衡を保ちながら、地域経済組織と輸入代替による産業化モデルの統合を深めること。
(13)森林と河川はボリビア国民の遺産である。よって森林伐採と汚染から母なる地球を守るべく迅速で緊急かつ効果的な対策を要求する。 
(14)気候危機に対する緊急行動と対策を促進し、ボリビア多民族国の都市部と農村部における水に関する危機に直面する緊急かつ緊急の解決策を優先すること。
(15)国民皆保険制度を構築・強化するために、関係するすべての部門が参加する保健会議を開催すること。
(16)すべての教育関係者の参加を得て、多民族国家教育会議を開催すること。
(17)麻薬マフィアとの闘いを進め、真の麻薬密売人を特定し、模範的に処罰し、同様に密輸との闘いを強化し、国家生産を促進するために公正な市場を創造すること。
・司法府へ
(18)現在のボリビア司法制度は、制度化された不正で腐敗したシステム以外の何ものでもないことから、迅速かつ緊急に司法改革を行うこと
・選挙機関へ
(19)我々は、ボリビアのすべての国家的プロセスにおいて民主主義を守るために、最高選挙裁判所のメンバーが政党からの政治的独立性を維持することを要求する。
(20)ラウカ・ニェにおけるMAS党全国大会の結果について、真実と透明性をもって評決を直ちに下すことを要求する。
なお、最高選挙裁判所(TSE)は、要件を満たしていないことを理由に、同集会への同行要請を却下することを決定し、同集会の監視(オブザーブ)を行わなかった。
10月17日、同集会後、モラレスMAS党首は「アルセ派の統一協約が招集した集会のマニフェストの中には、いくつかの一致点を見出すことができる。我々は、内閣とその統治方法に緊急に変更が必要であること、麻薬マフィア・汚職・密輸との闘いが必要であることに同意する。しかし、我々は、同集会が政府によって資金提供され、多くの役人や指導者、市長たちが参加したことを知っている。米ドル不足、干ばつ、経済について何も語られなかったことを残念に思う。」とするとともに、翌18日、「彼らはMAS-IPSPにのみ攻撃を集中し、彼らが協定を結んでいる右翼を攻撃しない。彼らは臆病者でも裏切り者でもないと言うが、麻薬マフィアや汚職を擁護する大臣をクビにすることを恐れている。もし政府がその任務を立派に終えたいのであれば、政府を動かす代わりにMAS-IPSPの破壊に専念している大臣たちを排除しなければならない。」旨自身のSNSに投稿して、アルセ大統領を批判した。
 10月19日、プラダ大統領府相は、La Razon紙のインタビューにおいて、「同志モラレスは、政府に対する主要な反対勢力になってしまった。MAS党全国大会がモラレスを唯一の候補者として指名し、他の指導者を犠牲にしたのは間違っていた。内部民主主義はどこにあるのか?」としてモラレス党首を批判するとともに、「社会組織には不快感がある。それゆえ、彼らは集会を招集することにしたのだろう。いずれにせよ、我々はMASを離れたことはない。」旨述べた。

(2)CNA(Consejo Nacional Asemblea)による気候変動、水不足問題に取り組む新たな評議会の設立

 10月25日、CNAが会合を開き、全国の知事、市町村長を招集した。同会合にて、環境大臣を筆頭にした気候変動、水不足問題に取り組む新たな恒久的な評議会を設立することで合意した。なお、関連した基金の設立、延期されている国勢調査の実施についても進めていくことに合意した。
 一方で、現在拘禁されているカマチョ・サンタクルス県知事は裁判所の許可付きで同会合への参加が認められていたが欠席、同県副知事も欠席した。 

(3)アニェス前暫定大統領裁判関連

 10月23日、検察庁は、2019年に起きた暴動鎮圧についてジェノサイド罪を含む複数の罪状をもってアニェス前暫定大統領の起訴状を最高裁判所に提出したことを公表した。なお、アニェス前暫定大統領は自身のSNSにて同起訴状の内容について強く批判している。

 

2 外交

(1)イスラエルとの関係

 10月7日、ガザ地区を実質支配するイスラム組織ハマスとイスラエル軍による紛争発生に際し、ボリビア外務省は声明「イスラエル・パレスチナ間の最近の出来事」を発出した。同声明において、ガザ地区で発生したイスラエルとパレスチナ間の暴力的な出来事に対し深い憂慮を表明するともに、平和を求め暴力を抑制し、生命と人権を守るべく、緊急の呼びかけ行うとの旨を公表した。なお同時に、安全保障理事会の不作為を非難すると共に、同紛争を解決する責任が国際社会並びに国際連合にあるとした。
 10月19日、イスラエルによるガザ地区に位置する民間病院への空爆に対し、アルセ大統領は同空爆を強く批判するともに、ボリビア外務省も声明を出した。
 10月31日、ボリビアはイスラエルとの国交断絶を通知し、イスラエル軍による国際法、国際人道法およびその他国際法規違反を強く批判した。

(2)メルコスール

 10月19日、ブラジル下院議会がボリビアのメルコスールへの加盟を可決。ブラジル上院にて今後可決されると、メルコスール全加盟国の承認を得たことになり、正式にボリビアのメルコスール加盟が達成される。

(3)法の支配指数2023

 World Justice Project は、政府権限の制限、汚職、開放性、基本的権利、治安、法執行や刑事司法といった、合計44の要因によって各国をランク付けする「法の支配指数2023」(WJP Rule of Law Index)を発表した。ボリビアは142か国中131位で、昨年同様、ラテンアメリカ32か国中29位であった。ニカラグア、ハイチ、ベネズエラのみがボリビアより下位にランク。ボリビアの指標で最も優れていたのは、秩序と治安の指標であり、最も劣っていたのは刑事司法で、昨年同様ベネズエラだけがボリビアより劣っていた。