ボリビア内政・外交(2023年9月)

令和5年10月2日

1 内政

(1)モラレスの2025年大統領選挙立候補の可能性

 9月13日、フランコ憲法裁判所(TCP)長官は、米州人権委員会(IACHR)が下した大統領の無期限再選挙を人権として認めないとする判決は今後この問題に関連する裁判の参考となるだろうと述べた。
 9月24日、モラレス元大統領は自身のSNSにて、ボリビア政府を批判した上で支持者からの要請に応えるべく2025年の大統領選に出馬することを宣言した。なお25日、リマ法相は、現行法に基づき何人も党内予備選挙を経ることなく、大統領選候補として立候補することはできないとけん制した。

(2)MAS党内の内紛

 9月2日、モラレス前大統領を支持する統一盟約(Pacto de Unidad)の一部派閥は、様々な社会組織との会合の後、ボリビア農民労働組合総連合(CSUTCB)が呼びかけた道路封鎖を10月16日まで延期することを決定した。
 9月7日、アルセ派の統一盟約は最高選挙裁判所(TSE)に対して、10月にコチャバンバ県で開催されるモラレス派が主導するMAS全国党大会について、MAS党規約に違反しているとして、開催の取り消しを要求した。
 9月17日、モラレス前大統領は自身のラジオ番組(Kawsachun Coca)にて、アルセ大統領が支持を取り付けるべく公共事業の実施の約束を種に複数の市長を脅迫していると批判した。
 9月18日、ボリビア農民労働者統一連合(CSUTCB)は、全国執行委員会による緊急会議の後10月3日から5日までコチャバンバ県ラウカ・エニェ(チャパレ地方)で開催予定のMAS全国党大会への欠席を表明した。
 9月20日、アルセ派の統一盟約は、MAS党内部を統一すべく25日ラパス市にて会議の開催を予定しているとし、モラレス前大統領、アルセ大統領、チョケワンカ副大統領に対して出席依頼の書簡を送った。21日、MAS党執行部は同動きに対して、MAS党執行部が認可していない如何なる会議にも出席しないことを通知した。
 9月25日、アルセ派の統一盟約は会議を開催した後、ラウカ・エニェにて開催予定のMAS党全国大会を認めないこととし、アルセ大統領およびチョケワンカ副大統領を支援すべくエルアルト市にて別の会合を開催することを表明した。
 9月26日、アルセ大統領はMAS党支持基盤である社会組織の出席が拒絶されていることを理由に、ラウカ・エニェにて開催予定のMAS全国党大会への欠席を表明した。
 

(3)カマチョ・サンタクルス県知事に対する裁判の動向

 9月6日、カマチョ・サンタクルス県知事は以前より医療関係者より要請されていた健康診断を終え、チョンチョコロ刑務所へ再び収監された。
 9月14日、クーデターI事案に関わる証拠を集める為更に日数が必要であるという検察の要請の元、ボリビア司法当局は、カマチョ・サンタクルス県知事の予防拘禁の3ヶ月延長を決定した。
 9月18日、ボリビア刑務庁はカマチョ・サンタクルス県知事が受けた健康診断の結果は、チョンチョコロ刑務所に保管されているカルテにすでに記載されていると発表した。

(4)司法選挙関連

 9月4日、最高選挙裁判所(TSE)が司法選挙について声明を発表し、バルガスTSE副長官は「技術的にも法的にも」選挙は2024年にしか実施できないと述べた。
 9月6日、下院憲法委員会は司法選挙に関する法案を4つの異なる機関に送り、協議を求めることとした。ハウレギ下院憲法委員会委員長(MAS党)は、下院で承認された法案には 多くの矛盾点があり、またTSEとの協議が上院にて行われなかったことを懸念し、関連行政機関、司法機関(法務省、最高裁判所、憲法裁判所)に協議をすることとし10日以内の回答を要請した旨公表した。
 9月11日、ボリビア農民労働組合総連合(CSUTCB)でモラレス元大統領派の少なくとも9名及び下院議員4名が、下院における速やかな司法選挙に関する法案審議を求めてハンガーストライキを開始した。
 9月15日、ハウレギ下院憲法委員会委員長(MAS党)は、司法選挙に関する法案について、協議のために送付された各機関からの回答がまだ届いていないため、今週中に審議を開始することが難しい旨述べた。
 9月22日、最高選挙裁判所(TSE)本会議場は、選挙日程の発表・公表から少なくとも90日間の投票実施期間を設けることを提案した。
 9月26日、米州人権委員会(IACHR)は、「米州の基準に準拠し、政府の独立性と司法制度の適切な機能を保証するための効果的な措置を採用すること」旨声明を出し、ボリビアおよびその立法議会に対し、司法選挙の実施の保障を求めた。
 

2 外交

(1)米国との関係

 9月14日、在ボリビア米国大使館はヘビア(Debra Hevia)氏が臨時代理大使として着任することを発表した。同氏はボリビアにおける勤務経験があり、今回で3回目となる。

(2)チリとの関係

 9月11日、アルセ大統領はチリのクーデター50周年式典に出席し、「現代のクーデター」も含めて、民主主義に相反するあらゆる姿勢を非難する旨スピーチを行った。
 9月14日―15日、チリのアリカ市にてボリビア・チリ両政府は、第15回国境・統合委員会を開催し、6年ぶりに共同作業を再開することで合意した。今後、税関、国境管理など全10の分野における作業計画を合同作成することを予定している。
 9月15日、ボリビア及びチリは、両国間の移住に対する障壁を取り除き、相互の一時的な就労ビザを無料で発行することに合意した。

(3)ベネズエラとの関係

 9月28日、アルセ大統領はベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領から60歳の誕生日を祝福され、「統一されたパトリア・グランデ」のための闘いを再確認した。

(4)アルセ大統領の第78回国連総会出席

 9月19日、アルセ大統領は、第78回国連総会演説に出席し、新たな世界秩序構築に向けた7つの提案について演説した。演説の概要は以下のとおり。
ア 冒頭
世界は資本主義の危機、武力紛争による経済の不安定さ、平和と安全への差し迫った危機、生態系への危機に直面している。
しかし今日、世界は新たな世界秩序が構築されるのを目の当たりにしていると確信している。この状況において、国際連合総会はその創設の趣旨に則り、主要な役割を果たさなければならない。より良い世界の構築のため、我々ボリビア多民族国家は7つのアイデアを提案・共有したい。
イ 第一の提案:対話と外交による武力紛争の解決、軍拡競争への終止符
 軍拡競争に終止符を打ち、人類の存続を脅かす武力紛争を解決するには、対話と外交による解決を優先しなければならない。東欧で起きている紛争における暴力のエスカレートと、国際法で非合法とされている兵器の使用による対立を通じて状況を悪化させようとする幾つかの国に対して改めて深い憂慮を表明する。我々は軍縮に貢献し続けることを約束する。
ウ 第2の提案:現在と未来の世代のための新たな取り決めの構築
現在と未来の世代のニーズに配慮した新たな取り決めを築くことを提案する。グローバルな一体性を再び活気づけるには、各国がお互いを認め合い人類としての関係を修復する必要がある。
平和と一体性を獲得できれば、持続可能な開発のためのアジェンダ2030計画は加速する。また、戦争や死の代価を生への投資に変換できれば、同計画の目標を遥かに上回ることもできるだろう。
エ 第3の提案:資本主義システムの変革の必要性
支配、搾取、多数派の排除を増やし再生産する資本主義システムの変革は必要不可欠かつ緊急である。
オ 第4の提案:気候変動対策
気候変動対策については具体的な行動と新たなコミットメントが重要である。ボリビアには、「母なる大地」や「良く生きる(Vivir Bien)」という持続可能な開発や自然との調和を尊重する考え方が、多民族国家を構成する先住民から古くから受け継がれている。
水不足や淡水の蒸発による問題は、主として五大陸の最も貧しい人々に影響を与えているが、従来の貧困の枠組みから外れた社会層にも影響を与え始めており憂慮する。
カ 第5の提案:人権と民主主義について
 我々は人権と民主主義について、より広い視野を持つよう働きかけ続けなければならない。過去の歴史において、我々は現在にいたるまで開発の権利を行使することができなかった。そのため、健康、教育、食糧、知識や技術へのアクセスといった経済的、社会的、文化的人権について、北と南で同様に語ることはできない。
開発なくして、民主主義はありえないと我々は理解している。我々の経験から、先住民族の積極的な政治参加こそ、最近の我々の成果を可能にしてきたことを強調したい。
 女性の権利については、女性に対する暴力、そして妊産婦死亡率の改善は取り組まななければならない大きな問題である。
キ 第6の提案:米国によるキューバ制裁について
 米国がキューバに課している一方的かつ抑圧的な制裁は、国際法や多国間主義の機能不全の一例であり、キューバの発展と同国人民の基本的な人権を害している。米国が一方的にキューバをテロ推進国家のリストに含め、更なる制裁を課していることを拒否し非難する。
ク 第7の提案:イスラエルによるパレスチナ人抑圧について
我々はもはやパレスチナ人の苦しみを座視することはできない。パレスチナの人々が自決権を行使し、1967年以前の国境を有し、東エルサレムを首都とする、自由で独立した主権国家の建設するための解決策を模索する世界的かつ地域的イニシアティブ、国際法、国連決議への我々の支持を改めて表明する。
ケ 結び
 現在の危機を克服するには、国際連合創設当初の理念に沿い、平和を希求し、政府間機構としての性格を維持しながらも、経済、政治、軍事のいかなる覇権国にも従属しない強力な国際連合が必要である。
 何故なら全ての国とその関係者たちが、最も弱い立場にある人々とセクターの共通の利益を優先し、真のコミットメントと政治的意思を有してはじめて人類が直面する様々な課題は解決されるからである。