2024年6月 ボリビア経済情勢
1 経済指標など
当月 | 前月(最終更新値) | 累計 | 前年同月 (23年5月) | 前年累計 | ||
(1) | インフレ率 | 0.54% | 0.63% | 2.48% | 0.22% | 0.79% |
(2) | 都市部失業率 | ‐ | 3.84% (2024年4月) |
- | 3.7% | - |
(3) | 外貨準備高 | ‐ | 17億9,600万 (2024年4月) |
- | - | - |
(4) | 対外債務 | ‐ | 134億300万 (2024年5月) |
- | 133億4,000万 | - |
(5) | 対内債務 | ‐ | 199億7,300万 (2023年10月) |
- | 167億100万 | - |
(6) | 天然ガス輸出額 | ‐ | 1億4,400万 | 7億3,900万 (2024年1月~5月) |
1億7,100万 | 10億7,200万 |
(7) | 鉱物資源全体の輸出額 | ‐ | 2億8,300万 | - | 2億3,000万 | - |
(8) | 燃料輸入額 | ‐ | 2億2,600万 | 10億6,700万 (2024年1月~5月) |
1億9,100万 | 13億8,400万 |
(9) | 貿易収支 | ‐ | 6,800万 | ▲4億 (2024年1月~5月) |
6,200万 | 1,700万 |
(10) | 金輸出額 | ‐ | 7,000万 | 3億5,000万 (2024年1月~5月) |
1億9,700万 | 14億3,800万 |
※累計:本年1月~当月(最終更新月)の累計 | ||||||
※前年累計:前年1月~前年の当月の累計 |
注:上記情報は2024年6月時点データ
2. 経済関連動向等
(1)外貨準備高
6月2日、ロハス・ボリビア中央銀行(BCB)総裁は、昨年9月から本年4月まで外貨準備高は17億~18億米ドルで安定しており、ボリビアは対外債務の支払いやその他の国内公約(燃料補助金など)を履行できているとするとともに、総額9億米ドルを超える対外借款法案が国会で承認されたことから、米ドル不足に対して「一定の正常性」が得られるかもしれないと述べた。
外貨準備高の対国内総生産(GDP)比は4%と、昨年9月以降右数値以上の下落はないものの、数十年来経験したことのない低い数値であることから、最近のアナリスト等によるデフォルトに対する警告を弱めようとするものと分析されている。
(2)貿易収支
6月3日、国家統計局(INE)は、2024年第1四半期(1-3月)の貿易収支は累計4億3,810万米ドル(1月:-184.9、2月:-124.7、3月:-128.6百万米ドル)の赤字を記録したと発表した。なお、金を含む鉱物資源の輸出を通じて、ア首連、日本及び韓国等との間では貿易黒字を記録した。
6月20日、INEは、2024年1-4月の貿易収支は累計4億6,000万米ドルの赤字を記録したと発表した。前年同期比では、輸出額は25%減の27億3,400万米ドル、輸入額は14%減の31億9,400万米ドルであった。同期間に輸出額が減少した品目の一つは大豆とその派生品である。なお、4月単月のみであれば、輸出8億360万米ドル、輸入7億9,910万米ドルと、450万米ドルの黒字であった。
(3)アルセ大統領による経済にかかる発言
6月11日、アルセ大統領は、記者会見において、ボリビアが経済問題を抱えていることを認め、次の趣旨を述べた、なお、下記はボリビア経済は安定しているという政府の立場と矛盾するものであるが、閣僚の何人かはこれを擁護している。
ア 食糧危機という問題は遅かれ早かれ私たちを襲うものであり、今がその時である。政府は対策・手段を講じ、食料が国民に行き渡ることを保証する。
イ 天候不良により、トマトや玉ねぎの多くの生産量が失われた。これはラテンアメリカ全土で起こっている事態で、ボリビアも同様に影響を受けている。
ウ 2016年以降、生産量が減少していたにもかかわらず、炭化水素問題には何の対策も取られていなかった。しかし、現在は28のプロジェクトがあり、2021年から6つのプロジェクト
がすでに開始されている。
エ 政府としてヤパカニの道路建設のための借款法案(アンデス開発銀行(CAF)と署名したノルテ・インテグラド-ヤパカニ道路建設のための3,500万米ドルの融資承認を求めるもの
(その後、6月20日に上院にて承認された))承認を国会に要請している。しかし、国会にて停滞している。
オ 既に米ドル需要は減少しており、少しずつコントロールされつつあったが、またしても為替レートの問題を悪化させるような政治的問題が出てきた。国内の米ドルを徐々に
安定させるという方向性があっただけに、ボリビア経済と国民にダメージを与えていることが残念でならない。
カ 炭化水素燃料の供給を保証するために、燃料産出国が(ボリビアに)提供することで、ボリビアが燃料を獲得できるよう、あらゆる善処を尽くすことを目的にロシアと合意した。
キ 我々はすべての部門と会合し、すべての要求に応じるつもりであるが、それ以外のことを求める政治的意図はあってはならない。
(4)米ドル不足関連
ア 海外送金困難
輸入業者は決済用の米ドル入手に困難を来しており、輸入代金の海外送金・決済が極めて高コスト・困難となっている。
イ 燃料補助金支出による財政負担
専門サイト「Global Petrol Prices」によると、ボリビアは世界で最もガソリンが安い国の一つで、世界的に171カ国中12位、ラテンアメリカにおいてはベネズエラに次いで2番目に安価で、1リットル当たり3.74ボリビアーノ(0.54ドル相当)である。
これは、2004年12月から実施されている燃料補助金政策のおかげである。2023年、政府は燃料補助金に18億4,800万米ドルを支出したが、右は2015年の472%増であり、2024年には14億2,900万米ドルの予算が組まれている。補助金支出が増加している理由の一つは、燃料の輸入依存度が高まる傾向にあることで、燃料補助金政策が財政を圧迫しているにもかかわらず、政府がこれを維持する理由は政治的なものである。
ウ 仮想資産の売買に電子決済手段(IEP)の使用を認可
6月26日、ボリビア中央銀行(BCB)は、2020年12月15日付決議を廃止し、6月25日付け決議をもって、仮想資産の売買に電子決済手段(IEP)を使用すること認める旨発表した。
ダン(Jaime Dunn)金融アナリストは、既に仮想通貨口座を有するボリビア国民は25万人以上おり、BCBの今回の決定は米ドルへの圧力を緩和するのに役立つとした。BCBは、毎月10,000から12,000件の仮想通貨取引が国内で行われ、その価値は約15,000米ドルに上ると計算している。
なお、1986年11月28日付け法律第901号に基づき、ボリビアーノが唯一の法定通貨であることから、仮想資産は法定通貨ではなく、現金でもなく、支払い手段として受け取る義務はない。
エ 固定為替相場制の維持
6月29日、アパサ経済財務省年金・金融サービス担当次官は、政府は現行の固定為替レート(1米ドル売6.96ボリビアーノス(Bs)・買6.86Bs)を維持するとして、切り下げの可能性に言及するエコノミスト等を念頭に、憶測で国民に恐怖を与えないよう要請した。なお、公定為替レートは、2011年11月2日以来、固定されている。
ただし、並行為替市場における米ドルは公定為替レートより30%以上高い10Bs前後にまで上昇している。
(5)国内の燃料不足関連
ア 断続的な燃料不足の発生
政府の否定にかかわらず、国内では燃料不足が生じているとの憶測が広がっており、ガソリンスタンドに長蛇の列が断続的に発生している。
なお、輸送業者組合等が燃料の安定供給を要求して、ストライキを行うとともに、アルセ大統領との会談を要求した。
イ ボリビア石油公社(YPFB)の負債
6月23日、ドルガセン・ボリビア石油公社(YPFB)総裁は、YPFBが事業会社、燃料供給会社及びサービス提供会社に対し、総額3億3,000万ドルの債務を負っていることを認めた。 なお、同総裁は、国内に輸入された燃料がチャパレ地方(コチャバンバ県)等へ横流しされる国内密輸があるとした。
ウ ロシアからのディーゼル輸入の可能性
6月11日、アルセ大統領は、ロシア訪問の際にプーチン露大統領及びロスネフチ石油会社幹部と会談した結果として、ロシア政府はボリビアへの燃料供給を保証した旨発表していた(上記(3)参照)。
6月21日、モンターニョ公共事業相は、ロシア産燃料を搭載した船がチリの港に着いた旨発表したが、6月23日、ドルガテン・ボリビア石油公社(YPFB)総裁は、モンターニョ公共事業相の発言を否定した。
(6)2023年の財政赤字
6月25日、モンテネグロ経済財務相は、2023年の財政赤字が対GDP比12%を超え、歴史的な高さを記録したとのエコノミスト等による推計を否定して、「アルセ政権発足以来で最も高い数値であるものの、2023年の財政赤字対GDP比は11%未満である。」とした。具体的な金額は言及していないものの、11%近い財政赤字は財政収入より50億ドル強多く支出したことを意味する。
なお、2024年国家予算案によれば、2024年の財政赤字見込みは7.8%となっている。
(7)ボリビアの納税者割合
ボリビア国税庁の年次報告書によれば、国税庁に登録されている49万人の納税者のうち、約5,600人(1.1%)が税収の80%以上を占めている。主要納税者(Prico)は、納税者登録の0.02%を占める100社ほどであり、大口納税者は1.14%(5,500社)である。これは、ボリビアの税負担が大きすぎることと、インフォーマル経済活動の増加が主な要因となっている。
なお、2023年の徴税額は403億Bsであった。
(8)ジンダル社によるムトゥン製鉄所訴訟の棄却
6月19日、シレス国家利益擁護庁長官(Procurador General)は、インド企業ジンダル社(Jindal Steal & Power Ltd)が、ボリビア政府及び国営ムトゥン鉄鋼社(ESM)を相手に起こした、鉄鉱石開発・産業化契約(ムトゥン製鉄所建設計画)の失敗をめぐる訴訟について、国際商業会議所国際仲裁裁判所(ICC)はジンダル社が請求した1億米ドルの損害賠償を棄却するとともに、逆にESMの訴訟費用等約300万米ドルの負担を命じる判決を下した旨発表した。
(注:2007年末、ジンダル社のボリビア子会社はESMと、世界最大級の鉄鉱石鉱床とされるムトゥン鉱床の共同開発について契約を締結した。しかし、2010年及び2012年、ESMは約400億トンの埋蔵量を持つ同鉱床の開発継続に関するインド企業の契約違反の疑いで、3,600万米ドルの契約保証債を発行し、2014年、ジンダル社がICCに申し立てを行い、審理が開始されていた。なお、ムトゥン製鉄所建設は2016年にシノスティール社がESMと契約を締結し、現在建設が進められている。)