ボリビア内政・外交(2022年9月)

令和4年10月1日

1 内政

(1)独立200周年に向けた国家戦略

 8月31日、アルセ大統領は、「2025年に向けて私たちが夢見るボリビア」という強い理念を持ち、「愛国的アジェンダ2025」のガイドラインと開発計画を盛り込んだ「独立200周年に向けた国家戦略」を正式に発表し、「(同国家戦略について)建国200周年に向けて、社会経済的に大きなインパクトを与える工事、道路、工業プラント、製鉄所、保健施設、技術センター等の建設を実行する計画である。」と述べた。
 

(2)MAS党と中国港湾工程(CHEC)社の汚職疑惑

 エクトル・アルセ下院議員(MAS)は、ボリビア道路公社(ABC)会長のヘンリー・ニーナ氏ら8人が、スクレ-ヤンパラエス間道路の入札に当たり、入札額の4%を賄賂として得たことを糾弾した。この告発は、中国企業のHarbour Engineering Company(CHEC、中国港湾工程)と関係があり、公共事業相にまで追及の手が伸びる可能性がある。
 道路工事受注のための賄賂疑惑事件で拘束されている中国人実業家、Jin Zhengyuan氏の弁護士が発言した。弁護側によると、汚職疑惑は、同社が知っているABCの外部コンサルタントで、同社に金銭を要求したであろう保護証人からの情報に基づいているとのことである。同社は賄賂の支払いを否定しており、このコンサルタントが、中国のビジネスマンが賄賂要求に応じなかったことに対する復讐として、この一連の話を始めたという。
 一方、ABCのニーナ会長は、自分に対する非難をすべて否定し、辞任はしないと述べた。また、関連するモラレス元大統領の主張については、「私的な面会を求めたことはない」と否定し、「MASの指導者はもう信用しない」と述べた。
 公共事業相は、刑事訴訟法に規定されているように、告発が被告人の利益となるべき一定の疑念を提示していると考え、ボリビア道路管理者の会長職にあるニーナ氏の主張を有効であるとしたと報告した。一方、法務相は、捜査の機密を解除すると発表した。
 逮捕された2人(うち1人は中国企業の実業家)には自宅軟禁が認められた。諮問の間、MAS党支持者数人がABCの地方事務所に押しかけ、ニーナ会長の解任を要求した。
 エクトル・アルセ下院議員がABCの職員と中国人実業家に対して起こした刑事事件に加え、法務省はJin Zhengyuan氏に対しても不法蓄財を行ったとして別の訴訟を起こした。今回の件は、ABCへの賄賂の支払いと関連している。この立件により、Jin氏は再逮捕された。検察庁によると、同氏はすでに出国するための航空券を持っていた。一方、検察庁長官の娘とモラレス元大統領の息子がABCに勤務しているころが判明した。
 法務省が主導した不法蓄財事件では、CHEC社代表のJin氏と会計士が6ヶ月の予防拘禁命令を受け、刑務所に送還された。この点に関し、法務相は、ABCの受注プロセスにおいて不正な支払いの兆候がいくつかあること、モラレス政権時代に中国企業が受注した他の5つの案件についても調査中であることを認めた。
 

(3)コカ葉栽培農家によるデモ

ラパスの市街地に入ったラパス県ユンガス地方のコカ栽培農家達は、彼らが違法と考えているビラ・エル・カルメンのコカ市場を占拠することに成功した。当初は警察と、そして市場を守るコカ栽培農家と対立し、爆竹や小型のダイナマイトが使われた。一方、対立するコカ栽培農家は、強引に侵入して火事を起こし、消防隊が鎮圧にあたった。警察を含む双方に負傷者が出て、市場に隣接する病院の患者もこの争いに巻き込まれた。
ユンガスのコカ栽培農家は動員を続け、政府が唯一の市場(自分達の市場)を認めること、及びゴンサレス農村開発・土地大臣の辞任を要求している。それに対し、ゴンサレス大臣は、「コカ栽培農家達は、特に彼らが行った暴力行為の後では、何かを要求する立場にはない」と答えた。
14日、ラパス県コカ葉栽培者協会(Adepcoca)のリーダーであるマチカード氏が、爆発物所持とアラネス(親MAS)派の並行市場(ビラ・エル・カルメン市場)の建物の占拠、焼却を主導した容疑で逮捕された。19日に予定されている、動員には、マチカード氏の釈放を求める意味も含まれている。
警察は、6か月の予防拘禁中であるマチカード氏のグループに対して逮捕状を出している。コカ栽培農家は「狩り」を非難し、自衛組織を結成すると発表した。
21日、零細企業家、パン職人、労働組合は、マチカード氏のラパス県コカ葉栽培者協会(ADEPCOCA)への支持を表明し、彼らの要求を支持するための行動を起こす可能性を否定しなかった。一方、警察は、この協会の4人目のリーダーを逮捕した。
 

(4)2019年の選挙に関するOAS監査報告書についての米国務省報告書

米国国務省は、2019年の選挙に関する米州機構(OAS)の監査報告書についての報告をまとめた。この報告書は、選挙結果の改ざんやその痕跡の消去を可能にする選挙システムの脆弱性を明らかにしたOASの監査結果を肯定する結論となった。
 一方、この報告書は、学際的独立専門グループ(GIEI)の勧告を強調し、モラレス政権とアニェス政権の双方で人権侵害があったことを想起している。また、GIEIの報告書が部分的にのみ実施され、反対派に対する刑事手続を開始する論拠として利用されていることを遺憾に思うとし、ボリビアに対し、GIEIの勧告を「公正かつ透明な方法で」遵守するよう求めた。
 また、この報告書では、2020年の選挙の方が優れており、複数のオブザーバーから自由で公正な選挙とみなされたことを強調している。
 当地米大使館はこの報道についてコメントを避けたが、ボリビアでは政治的な反響があった。一方、アニェス前暫定大統領は、報告書の内容を歓迎し、「ボリビアにおける選挙不正を再確認するものだ」と述べている。ボリビア外務省は、ママニ外務次官の見解を発表し、「他国の報告書は何の重要性もない。報告書は内部のもので、技術的な裏付けを欠いた主観的な基準が含まれている」と述べた。

2 外交

(1)クリスティーナ・フェルナンデス亜副大統領暗殺未遂事件

クリスティーナ・フェルナンデス亜副大統領暗殺未遂事件に関し、アルセ大統領が連帯の意を表明した。また、モラレス元大統領が「犯罪的で帝国主義的な右翼」による攻撃だとしたが、実行犯は「右翼」とはあまり関係のない人物であった。アルゼンチン大使館は、副大統領への支援表明に謝意を表明した。
 

(2)アルセ大統領のブラジル訪問及びルーラ候補との面会

アルセ大統領は、リオデジャネイロ大学の招きでブラジルを訪問し、ボリビアの経済モデルについて講演した。また、ルーラ大統領候補や労働者党のメンバーとも面会した。アルセ大統領は、同国の変化の必要性と、ルーラの勝利が必要な状況であるブラジルとの関係改善とより良い未来を望んでいると語った。
 

(3)元大臣による米国、EU批判

MAS党のイデオロギー基盤の形成を担っているキンタナ元大臣は、米国国際開発庁(USAID)は追放されたにもかかわらず、ボリビアで活動を続けていると述べ、アルセ政権が何もしていないと批判した。また、エル・アルト市が、社会団体を分断する目的のための「ヨーロッパ人と米国人のための資金調達の巣窟」になっていると述べた。
これを受け、ボリビア外務省は厳しい声明を出し、USAIDは2013年5月6日に同国から追放され、政府は「USAIDの活動を認めないし、認めるつもりもない」と明らかにした。
 

(4)OAS批判

 7日、米州機構常設理事会の会合で、ボリビアのアルセ大使が、2019年にOASが実施した選挙監査には一連の嘘が含まれており、その流布は違法で、ボリビアの民主主義の崩壊を促進したとの観点から、委員会を設置するよう要請した。アルマグロ事務総長の回答も同様に厳しいもので、要請を拒否し、2019年の選挙で検証された不正に対応するよう大使に要請した。
 

(5)アルセ大統領の国連総会出席

アルセ大統領は、第77回国連総会に出席し、与えられた時間の2倍を使い、さまざまな危機に言及した。それらが資本主義の多層的かつ体系的な危機に起因することを説明した。また、一極集中の世界は終焉を迎え、新しい世界秩序の構築は不可避であると述べた。
 もうひとつの世界は可能だというコンセプトの構築のために、軍備、健康、食糧危機、麻薬取引、平和、気候危機などの問題に対応する14のポイントを提案した。リチウムについては、「多国籍企業に渡すことはない」と述べ、米国南部軍司令官を引き合いに出し、リチウムを支配しようとする外国の野望を否定した。
 ウクライナ戦争については、ロシアの立場に影響を与える決議を否定した上で、停戦を呼びかけたアルセの演説を批判するメディアもある。
 その後の記者会見では、ボリビアの司法制度に不適切な介入があることを否定し、国際機関の情報不足を非難した。しかし、ボリビアでは司法制度をより利用しやすくするために再構築を進めていると説明した。
 

(6)中国関係

ア 6日、21日間の航空宇宙技術トレーニングコースの開講式に、Huang Yazhong中国大使とボリビア宇宙庁長官が参加した。このコースは、中国商務部の研修センターが主催している。オープニングセレモニーでは、Great Wall Industry Group(トゥパック・カタリ衛星を建設した会社)の代表も登壇した。
イ 7日、Huang大使とLiu Xiaofeng経済商務参事官は、ボリビアで活動する中国企業とのバーチャルミーティングを開催した。大使は、2021年1月の電話首脳会談以来、中・ボリビアの戦略的パートナーシップは深まっており、中国系企業は政治的地位を向上させるべきであると述べた。また、両国の法律を遵守し、現地の文化、宗教、習慣を尊重し、社会的責任を果たすよう要請した。
ウ 8日、Huang大使とマイタ外相が亜鉛製錬プロジェクトについて情報交換を行った。8月、ボリビア政府は、オルロでの亜鉛精錬所建設のための資金調達について、中国大使館およびEXIMBANKの代表と交渉していることを発表していた。
エ 9日、Huang大使は、中国政府が主催するEscuela de Gestión Pública Plurinacionalの奨学生9名の発表会に出席した。大使はスピーチの中で、ボリビアとの二国間関係が成立して以来、様々な分野で250名の学生が中国に派遣されていることを紹介した。
オ Huang大使は、外交官数名を伴って、サンタクルスで開催された国際展示会を訪問した。大使は、中国がボリビアの食肉にとって最大の輸出市場になっていることを強調し、同日、第2回中国・ボリビアビジネスミーティングが開催された。また、大使は、中国政府からの融資を受け、中国企業によって実施されたサンタクルスの市民セキュリティプロジェクトBOL-110の第2フェーズを視察した。