ボリビア内政・外交(2022年8月)

令和4年9月1日

1 内政

(1)国勢調査の延期及び右を巡る騒擾

 2021年7月21日、アルセ政権は、国勢調査を2022年11月16日に実施する旨規定する最高政令第4546号を公布していた。しかるに、7月14日、アルセ政権は、最高政令第4546号を修正し、国勢調査を2024年5月あるいは6月に実施する旨規定する最高政令第4760号を公布した。これに対して、最新の人口に基づいて配分される予算及び下院議員議席数に鑑み、2024年の実施では2025年総選挙に間に合わないと懸念するサンタクルス県を中心に抗議の声が大きくなった。
 8月8日~9日、サンタクルス機関間国勢調査推進委員会が呼びかけた国勢調査実施延期に反対する48時間ストライキがサンタクルス県において実施された。
なお、8月8日~26日、アルセ大統領及び9県首都+エルアルト市の計10市の合意に基づき、政府はクシカンキ開発企画相を先頭に、9県首都+エルアルト市の10カ所において、各地の県知事・市長・国立大学代表者等の参加する、コンセンサスを得るための対話を実施した(8月15日にはサンタクルス市においても実施され、カマチョ知事も出席。)。政府は右対話において、INEが新たな国勢調査実施のタイムスケジュールを提示し、参加者が国勢調査の実施が極めて技術的であることに同意した旨の議事録に署名したとした。
8月28日、クシカンキ開発企画相は、9県首都+エルアルト市における会合の合意に基づき、新たな国勢調査のスケジュールに対して深刻な反対はなされず(注:一部報道によれば、オルロ、タリハ、エルアルト、コビハ、スクレ及びトリニダードの6市は2024年実施案に賛成、コチャバンバ及びポトシは実施時期に言及せず、サンタクルス及びラパスは2023年実施案を主張したとされる。)、2024年5月あるいは6月に実施とのスケジュールにて進める旨発表した。

(2)コカ葉栽培農民の衝突

 8月1日、MASに同調するコカ葉栽培者が始めたコカ葉市場ビジャ・エル・カルメンの存在に反対するラパス市ユンガス地方のコカ栽培者達は、当該違法コカ葉市場の閉鎖を要求するために動員を実行した。ラパスの3市区町村から数千人のコカ栽培者がラパスに向けて行進し、ビジャ・エル・カルメン市場に対する抗議行動を過激化させた。警察は、抗議者に対して、催涙ガスの使用を余儀なくされたが、同市場には火が放たれた。8月9日、警察は弾圧のレベルを上げざるを得ず、結局、24人が逮捕された。
 8月11日、国連人権高等弁務官事務所は、一連の衝突における警察による過剰な実力行使と拘束者を公にしたことに対して、懸念を表明するツイートを出した。
 8月19日、農村開発相は、ビジャ・エル・カルメン市場は違法であることを認めたが、コカ葉生産者間の対立はラパス県コカ葉生産者協会(ADEPCOCA)の内部問題であり、当事者を集めて対話することが自分の考えであると説明した。一方で、法律を改正し、並行市場を合法化することに賛成する声もある。
 8月25日、ユンガス地方のコカ葉栽培者達は、自分たちが違法と考える市場(法律ではユンガスのコカ栽培者が運営するビジャ・ファティマ市場しか認められない)を立ち上げた派閥を政府との交渉の場に出すと主張すれば、政府との話し合いは不可能であるとした。

(3)アニェス前暫定大統領裁判関連

 8月16日、クーデタI事件を担当する裁判所は、アニェス前暫定大統領、コインブラ元法相及びグスマン元エネルギー相の予防拘禁をさらに3カ月延長することを決定した。これまで、アニェス前暫定大統領はこの裁判のために通算17カ月間、予防拘禁されていることになる。弁護側と前大統領の家族によると、裁判は進展していない。
 検察庁はクーデタI事件の容疑を修正し、扇動罪と共謀罪を削除する一方で、テロリズムの罪を維持した。この決議では、アニェス前大統領については触れていないが、カマチョ・サンタクルス県知事他は、この上記二つの犯罪の容疑から自分自身を守る必要がなくなった。

(4)民主主義度調査

8月18日、7月14日から8月18日にかけてラテンアメリカ12カ国の専門家297人を対象に実施された調査では、アルセ大統領の支持率が低下した(昨年の38%から30%へ)ことが示された。一方、専門家の51%がボリビアには「欠陥のある民主主義」があると考え、13%が権威主義体制であるとし、完全な民主主義であるとした専門家は11%しかないとした。

(5)MAS党政治集会

8月25日、アルセ政権への支持を示すために、MAS派の社会団体が主催した行進が行われた。それは、彼らの強大な動員力を示すものであった。アルセ大統領及びチョケワンカ副大統領は、演説において、新たなクーデタを許さないことを明言した。
 

2 外交

(1)マルケス・コロンビア次期副大統領のボリビア訪問

 7月31日、コロンビアのマルケス次期副大統領は、南米数カ国を巡る外遊の一環として、ボリビアに到着した。プラダ大統領府大臣が出迎えた。
 マルケス次期副大統領は、アルセ大統領およびチョケワンカ副大統領と会談し、いくつかの思想的・プログラム的側面で一致した。対照的に、「先住民農民の領土と保護地域の防衛のための全国調整委員会」は、ボリビア政府が先住民の権利を尊重していないことを知らせる書簡をマルケス次期副大統領に送付した。
 

(2)エブラル・メキシコ外相のボリビア訪問

8月4日から6日にかけて、メキシコのエブラル外相は、ラパスを訪問し、19項目の共同宣言が発表されたほか、ボリビア独立記念日に合わせてスクレを訪問した。

(3)アルセ大統領のコロンビア大統領就任式出席

8月7日、アルセ大統領はペトロ・コロンビア新大統領の就任式に出席した。同訪問の機会に、アルセ大統領は、チリ及びアルゼンチン大統領とそれぞれ会談し、チリとは自由な通過・貿易の迅速化、アルゼンチンとはガスの供給保証、リチウムの共同開発などを進展させることに合意した。

(4)カスティージョ・ペルー大統領への共同声明

8月13日、アルゼンチン、ボリビア、エクアドル、メキシコの各政府は共同で、ペルーの諸機関、及び政治勢力に対し、カスティージョ政権が直面している危機を克服するために、対話を強化するよう呼びかけた。

(5)キューバ石油関連施設火災を受けた人道支援

8月21日、ボリビア政府は、キューバにおける大規模石油火災の受け、食料、医薬品などの支援を行った。

(6)ボリビアの民主主義に関する米レポート

ワシントンのDue Process of Law Foundationによると、ボリビアの現状は、実質的に独裁国家であるベネズエラやニカラグアのそれとは似て非なるものであるとのことであるが、ボリビアはこの2カ国が15~20年ほど前に通過した傾向を示しており、民主主義の弱体化に向かっていることが懸念される。

(7)中国関係

ア 在ボリビア中国大使館HPは、ペロシ米下院議長の台湾訪問に対するMAS党の公式声明とモラレス前大統領のツイートを紹介した。いずれも、米国を批判し、一つの中国原則を支持する内容。
イ 8月4日、中国人民解放軍創設95周年、ボリビア軍創設196周年記念の一環として、中国から寄贈された電子機器の引き渡し式が行われ、ノビージョ国防相、中国大使、中国国防アタッシェ、軍幹部が出席した。
ウ 8月10日、中国大使は、ママニ下院議長、及びロドリゲス上院議長を訪問した。
エ 中国大使館は、ペロシ米下院議長の台湾訪問に関する中国大使のコラム「不可侵は一つの中国原則」をAhora el Pueblo紙に掲載したと紹介した。また、一つの中国原則を支持するルナスールの態度表明も取り上げた。
オ 中国大使館は、ペロシ米下院議長の台湾訪問に関し、一つの中国原則を支持するとする下院議長および上院議長のツイートを取り上げた。ロドリゲス上院議長は、二国間の議員連盟の形成という共通の目標にも言及している。
カ 8月16日、中国大使はマイタ外相と会談し、ペロシ米下院議長が最近台湾を訪問したことについて意見交換を行った。会談後、外相は「米国議員の訪問は不必要に地域の緊張状態を生み出し、平和を脅かす可能性さえある」とツイートした。会談の中でマイタ外相は、ボリビア政府は一つの中国の原則を堅持し、台湾を中国の領土の不可欠な一部とすることを再確認したと述べた。中国大使は、ボリビアの理解と支援に感謝し、マイタ外相に「台湾問題と新時代の中国再統一」という本を贈呈した。
キ 8月17日、中国大使は、ロサス下院第二副議長(Comunidad Ciudadana)と会談し、二国間関係、議会協力、国際・地域問題など相互の関心事について協議した。