ボリビア内政・外交(2022年6月)

令和4年7月1日

1 内政

(1)アニェス前暫定大統領裁判関連

6月10日、ラパス第一反汚職裁判所は、クーデタIIの容疑で起訴されていた(2019年11月の大統領就任式に参加した)アニェス前暫定大統領及び複数の元軍幹部・警察長官に対して、アニェス前暫定大統領、カリマン元国軍最高司令官及びカルデロン元国家警察長官には10年、その他の退役軍人4名には2年から4年の禁固刑を命じる判決を下した。
野党は、今回の判決をMASの司法への影響力を示すものとみなし、2019年の大統領職継承は、上院の内部規則に準拠し、政府自身が引き起こした社会危機と当局不在が動機であるとして、判決は公平でも中立でもないと考えている。また、ヒューマン・ライツ・ウォッチなどの国際NGOやスペイン・アメリカ民主主義イニシアチブ(IDEA)の元会長からも批判があり、司法への干渉の可能性を監視するため、国連、米州機構、EUの介入を求めている。
 6月10日、リマ法相は、様々なコメント・批判等について、当該判決文全文が発表されるのは6月15日であるため、それまで待つようにと述べた。
 アニェス被告の弁護団は、同裁判所にはこの裁判を扱う能力がないとして、異議を申し立て、控訴する意向を表明した。一方、検察側としては、判決文全文の公表を待つことにしているも、禁固10年では不十分であるとして禁固15年の刑を追求するために控訴するとしている。
6月13日、米国上院議員6名らは、本件に関し、ボリビア司法が引き続き政治化されていることについて共同声明を発出し「アニェス前暫定大統領に対して、曖昧な罪で恣意的に10年の懲役を下すことは、ボリビアの司法制度を政治利用するための道具として貶めるものである。民主主義の規範を損ない、脆弱な民主主義に疑問を投げかけるこの判決を懸念し拒絶する。」旨述べた。
6月14日、ボリビア外務省は「一部の米国上院議員らによる共同声明は、根拠のない、偏った情報に基づいており、客観性を欠く」と指摘し、「本司法プロセスは、憲法が定める枠組に沿い、国連人権高等弁務官事務所等の国際機関による監査も受け実施された」と反論した。
同日、ガルシア・サヤン国連特別報告者は、アニェス前暫定大統領に対する判決に疑問を呈した上で「大統領職を務めた者は、その経緯にかかわらず、弾劾裁判を受ける権利がある」と指摘するとともに、モラレスMAS党党首が6月12日に「アニェスに対する通常裁判はアルセ大統領が招集した政治会合(チョケワンカ副大統領、リマ法相、プラダ大統領府相、ママニ下院議長等も参加)においてほぼ全会一致で合意されたもの」と述べた(6月13日、モラレスは右会合があったことは認めたものの、合意が得られたことは否定した。)ことに対して「憂慮すべきことである」と批判した。
 6月15日、モラレスMAS党党首は、「ガルシア・サヤン特別報告者は、右派に与し、メディアとの情報歪曲を繰り返している。クーデタ首謀者への支持は、不正と不処罰を支持することである。」と非難し、「ボリビアの法的独立性を尊重して欲しい。国連の特別報告者は、先住民の同朋を虐殺した敵の味方になることはできない。」旨ツイートした。
6月15日、ラモス(German Ramos)ラパス第一反汚職裁判所裁判長は、約4時間にわたりアニェス前暫定大統領等に対するクーデタII裁判にかかる判決文を朗読した。
同判決では、アニェス前暫定大統領に対し禁固10年が課された。なお、原告側、弁護側共に15日以内の上訴が可能であり、双方上訴する意向を示した。
 判決文の結論において、今般の判決において同前暫定大統領が、上院副議長として、立法府で遵守すべき規則について知識があったことを考慮した旨説明された。
6月17日、国連人権高等弁務官在ボリビア事務所は、クーデタII裁判プロセスのモニタリングの暫定結果にかかる声明を発出し、罪状の曖昧性、過度な予防拘禁の使用、司法プロセスのパブリシティ、一部の被告人に対する弁護の不足、裁判プロセスの不公平性(原告側に多数の国家機関が関与している)といった問題点を指摘した。
 これを受け、アニェス前暫定大統領は、ツイッターにて、「(裁判は)全てを否定した。自然な裁判、自由な弁護の権利、自分の裁判に出席する権利、私の弁護における証拠を保証する権利を否定した」と述べた。
6月19日、EUは、国連人権高等弁務官事務所及びガルシア・サヤン特別報告者による指摘を踏まえ声明を発出し、「国連人権高等弁務官事務所及び国連特別報告者による所感は、GIEI同様にボリビアの司法制度における構造的欠陥を指摘するものである。」とした上で、ボリビア政府に対して司法改革の約束を履行するよう呼びかけた。
英国も外務省声明を発出し、「我々は、国連人権高等弁務官事務所による手続き上の懸念を共有している。また、ガルシア・サヤン国連特別報告者の指摘する「司法プロセスにおける政治介入の可能性に対する懸念」についても同様に懸念している。」として、ボリビア政府に対して誠実かつ実質的な司法改革を進めるよう求めた。
6月21日、ボリビア外務省は、EU及び英国による声明に対して、「ボリビア外務省は、EU及び英国による声明に対して懸念を表明するとともに、同声明を受け入れない。(両者による声明は)受け入れがたい植民地的立場を表明しており、国連人権高等弁務官事務所及びガルシア・サヤン特別報告者による言葉を誤報・歪曲し、その根拠としているものである。」と反論する声明を発出した。
6月22日、ニコルズ米国国務省西半球担当次官補は、ツイッターにて、国連特別報告者及び国連人権高等弁務官事務所の指摘する懸念点について同意し、「(ボリビア政府は)根強く、憂慮すべき司法の政治化に対処すべきである」と述べた上で、GIEIが推奨する司法改革を実施するよう求めた。
6月27日、ボルソナロ・ブラジル大統領は、アニェス前暫定大統領に対する判決を不当と指摘し、ブラジルとして同前暫定大統領の政治亡命を提案すると述べ、「モラレス前大統領とアルセ大統領は、ルーラの友人であり、ルーラは本件に対して何も言及していない。」とルーラ氏を非難した。
 6月28日、マイタ外相は、記者会見にて、「ブラジル大統領による不謹慎な発言を遺憾に思う。彼は、不適切に内政干渉し、国家間の関係を尊重しなかった。ボリビアとブラジルの相互尊重と良好な関係に反するものである。」と反論し、「(アニェス前暫定大統領らに対する)不処罰は許されない。この機会に我々は、GIEIの推奨事項に示されたように、2019年の悲劇で侵害された人権を尊重するという約束を果たしたい」旨述べた。
 

(2)開発企画大臣の交代

 6月9日、アルセ大統領は、メンドーサ(Gabriela Mendoza)に代わり、クシカンキ(Sergio Cusicanqui)を新たに開発企画大臣として任命した。
クシカンキ新大臣は就任に際し「大統領へ。私にとって、開発企画省の向かう先と手綱を引き継ぐことは非常に重要なチャレンジです。我々は、ボリビア国民のための数多くの夢を具体化すべく、公共投資に焦点を当てていく所存であります。」旨発言し、ボリビアの経済成長加速のために尽力する旨述べた。
アルセ大統領はクシカンキ新大臣が、2022年国勢調査にかかる課題や公共投資に関する統計及び財務情報の改善に取り組むと述べ、2025年までの開発計画に向け尽力するよう依頼した。
 

2 外交

 特になし。