ボリビア内政・外交(2022年5月)
令和4年6月1日
1 内政
司法制度改革に係る国連特別報告者による最終報告書の公表
ガルシア・サヤン国連特別報告者は、2月15日~22日にかけて当国を訪問し、その最終報告書が5月25日公表された。その中で、裁判官等司法当局者の選出に際しての政治的介入、裁判官への政治的圧力、司法当局者の腐敗、不平等な無処罰、司法へのアクセスの困難さ、透明性の欠如、予防拘禁の濫用、飽和状態の刑務所、予算、裁判官、検察官、弁護士不足、裁判官の都市への集中、司法当局者の脆弱性等を、ボリビア司法における問題点として挙げた。
報告書は、2021年3月から予防拘禁状態にある、アニェス元暫定大統領の件についても触れ、いわゆるクーデターI、及びIIの訴求理由となっている、扇動、テロ、職務怠慢に関する刑法の曖昧な定義によって、予防拘禁の使用の常態化が、構造的な問題となっているとした。
また、複数の被害者が裁判官や検察官から脅迫を受けたと証言していることや、有罪判決者の不可解な釈放が散見されている等の事実から、司法当局者の間に蔓延する腐敗は、司法の独立に深刻な影響を与えているとした。
こういった状況に対処するため、同報告書は、以下のような対策を呼びかけている。全公的機関による司法の独立の尊重、高位裁判官の選出及び司法官理事会に関する現行及び望ましい規則についての国民的議論の促進、独立性及び適格性をもっての効率的な法曹の養成システムの構築、予防拘禁の状態化及び濫用に終止符を打ち公正な裁判を実現すること、2019~2020年の社会政治的危機に関する調査の迅速化、効率化の保障等。
2 外交
(1)ウクライナ情勢
5月12日、ボリビアは、ロシアによるウクライナ侵攻以来とり続けている姿勢を崩すことなく、ロシア軍による戦争犯罪の可能性について調査を開始する国連人権理事会決議を棄権した。本決議は、賛成票33、棄権12、反対2で可決されたが、ボリビアの他に棄権した国は、キューバ、インド、パキスタン、ベネズエラ等が挙げられる。
5月16日、アルセ大統領は、「ロシア・ウクライナ間の戦争は、我々人民を搾取し抑圧するために覇権領域を拡大しようとする帝国主義的思惑から生まれたのである。この見方が、我々の国連における投票態度を物語っており、主権国家として帝国主義者の利益に従属していないことを示している。」と述べた。
また、同大統領は、「このような我が国の政策により、他国とは異なり、急激なインフレは発生していないし、食糧不足にも陥っていない」とした。
さらに、The Economist Intelligence(英誌The Economistの調査部門)が、ロシア・ウクライナ戦争の影響に直面したとき、最も好条件にある国の一つとして、公共投資の推進、及び富の再分配に重点を置く経済モデルを採用する、ボリビアを挙げたことを強調した。
(2)モラレス元大統領による米州機構批判
5月15日、モラレス元大統領は、「(米州サミットに)3か国を招待しない米国の姿勢を前に、ボリビアが重要な一歩を踏み出すことは、非常に良いことだ。我々の反帝国主義の姿勢を示すために、OASから脱退するには絶好の機会だ。」と述べ、キューバ、ベネズエラ、ニカラグアをラテンアメリカにおける最も民主主義的な諸国であるとした。また、同元大統領は、「ラテンアメリカの一部の国々を排除する米州サミットは、米州サミットではなく、ボリビア多民族国の原則と価値観に従い、それらの国々を排除することに固執するのであれば、ボリビアは参加しない。」とツイートし、(米国)帝国を尊重し、従わない国はサミットに参加できない、とする従属国のサミットであると評した。
5月16日、モラレス元大統領は、「クーデター先導者であるアルマグロ事務総長率いるOASは、(ある国が)米国の干渉主義に疑義を呈すると排除をちらつかせることを常態化させている。しかし今、ベネズエラやニカラグアが脱退を表明しているように、同機構からの脱退は尊厳ある行為だ。」とツイートした。
さらに、モラレス元大統領は、レデネフ露大使、及びトロンピス・ベネズエラ大使の招待を受け昨今の世界情勢について懇談したことに対し感謝の意を表明するとともに、米帝国主義に抵抗する露、及びベネズエラ国民との連帯の意を表明する、とツイートした。
(3)アルセ大統領の第21回ALBA首脳会合出席
5月27日、アルセ大統領は、キューバで開催された第21回ALBA首脳会合に出席した(マイタ外相同行)。アルセ大統領は、6月6日~10日にかけて米ロサンゼルスで開催される米州サミットについて、「兄弟国を米州サミットから排除することについて、激しく非難する。繰り返しになるが、全ての加盟国が招待されない限り、自分は出席しない。友達同士の会議をしたいのなら、そのようにすればいいが、それは米州サミットとは呼べない。米国は、全ての国と共通の課題について議論するだけの器の大きさを持たなければならない。」と述べた。
また、アルセ大統領は、米国によるキューバに対する経済封鎖、禁輸措置、ベネズエラとニカラグアに対する一方的な制裁を非難し、制裁によっては、(米州サミットのスローガンである)持続可能、強靱、公平な未来の構築は実現され得ないとした。
野党Comunidad Ciudadanaのアストルガ議員は、「米州サミットは、貿易促進の観点から絶好の機会である。しかし、アルセ大統領は、政治犯しかおらず、貿易の促進を全く期待できないベネズエラ、ニカラグア、キューバが参加する別のサミットに参加してしまった。」とし、国益よりもイデオロギーを優先させたと批判した。